『学問』(山田詠美)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/14 『学問』(山田詠美), 作家別(や行), 山田詠美, 書評(か行)

『学問』山田 詠美 新潮文庫 2014年3月1日発行

私はこの作家が書く未成年たちを無条件に信頼しています。その理由はまことにシンプルで、彼らがどこまでもまっとうだからです。あくまでもまっとうな姿を書き切ろうとする山田詠美の意志を支持するからです。

この小説は、静岡県にある地方都市・美流間市(架空)で暮らす4人の少年少女の、小学生から高校生までの成長の記録が描かれています。

主題は性の芽生え、性の自覚です。

父親の転勤で美流間にある社宅へ引っ越して来た仁美は、裏山を探検していて同級の心太と出会います。墓のある竹林を抜けた空地に秘密の隠れ家を作ると、心太は言います。
二人で隠れ家用に土を掘り出すのですが、仁美はその内もよおして来た尿意に我慢し切れず、とうとうその場でオシッコを漏らしてしまいます。
それを見ていた心太は、汚れた半ズボンの前をずり降ろし、指で小さな肉の塊をつまみ出して自分も放尿してみせるのでした。それは心太が示した「おあいこ」の儀式です。
仁美は、その時、生まれて初めて、異性にこの身の一部を預けた未知の感覚を知り、ついうっとりとしてしまうのでした。

秘密を共有した心太に加えて、社宅の隣に住む千穂、千穂が引き合せた無量の3人は、仁美にとってかけがえのない存在となります。
4人は友情と恋愛のちょうど中間くらいの感情で結ばれた関係でした。4人だけの、特別な絆で繋がれた間柄です。
しかし、彼らの間には最後まで性的な交渉は生まれません。彼らはやがて、それぞれ別の人物と初体験を果たすことになります。

ひとつのことを知ると、人は必ず次を知りたくなり、他者を介してあらゆる欲望は増幅してどんどんと膨らんで行きます。
若者たちは、自分の欲望にきちんと正対して、まっとうにそれらを吸収しようと悩んでは試行を繰り返します。
性に限らず、人間の本能的な欲望にはきりがなく、貪欲に学び取りながら人は成長して行くのだということを4人の若者を通して山田詠美は伝えようとします。

高校生になった4人にも、山田詠美はこう語りかけます。
「生きて行く限り、過去が常に物知らずの要素を含んで置き去りにされて行くものだとは、高校二年生になろうとする彼らに、まだ解る筈もないのでした。」
少しは大人になった気でいた彼らですが、実はその時4人はまさに大人へのとば口に立ったばかりだったのです。

その後4人の性に対する渇望と情動は一気に加速して、初体験を済ませると、改めてより深く確かな欲望の在り処を模索することになります。
仁美は美術部の先輩との初体験から、自慰と実際のセックスとの関連性を示唆され、心太を想って快楽を貪った日々を回想します。
心太という生身の人間に囚われた仁美は、自分だけの儀式と捉えていた行為の箍を外して、初めて本来的な自慰の意味を知ります。
彼女はそのとき自分が「欲望の愛弟子」になった、と思うのでした。

仁美の性的な欲望の形は、幼き日の芽生えからやがて確かな自覚に至り、究極の自慰の意味を知った上で心太を思い描くことによって具体化されます。
物語のラストにかけて、仁美の飽くなき探求心に呼応して揺れ惑う艶めいた躰の疼きが、官能的な言葉で綴られます。

この本を読んでみてください係数  85/100


◆山田詠美

1959年東京都板橋区生まれ。

明治大学日本文学科中退。

大学中退後は、アルバイトをしながら漫画家として作品を発表、その後小説家。

作品 「ベッドタイムアイズ」「ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー」「僕は勉強ができない」「風葬の教室」「トラッシュ」「アニマルロジック」「A2Z」「風味絶佳」
「ジェントルマン」「放課後の音符」「熱血ポンちゃんシリーズ」他多数

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