『月の満ち欠け』(佐藤正午)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/11 『月の満ち欠け』(佐藤正午), 佐藤正午, 作家別(さ行), 書評(た行)

『月の満ち欠け』佐藤 正午 岩波書店 2017年4月5日第一刷

生きているうちに読むことができて本当によかった。そう思える一冊です。そして、できれば、あなたにとってもそうでありますように。

第157回直木賞受賞作品。

自分が命を落とすようなことがあったら、もういちど生まれ変わる。月のように。いちど欠けた月が、もういちど満ちるように - そして、あなたの前に現われる。

あたしは、月のように死んで、生まれ変わる - 目の前にいる、この七歳の少女が、いまは亡き我が子だというのか? 三人の男と一人の少女の、三十余年におよぶ人生、その過ぎし日々が交錯し、幾重にも織り込まれてゆく。この数奇なる愛の軌跡よ! 新たな代表作の誕生は、円熟の境に達した畢竟の書き下ろし。さまよえる魂の物語は戦慄と落涙、衝撃のラストヘ。(岩波書店)

東京駅21番線ホーム。初老の男性・小山内堅(おさない・つよし)が新幹線を降り立ったのは午前11時前。彼は駅前にある東京ステーションホテル2Fのカフェへ向かおうと急ぐ。

そこにいるは、30代の女性とその女性を母に持つ7歳の娘。母は女優で、娘はるりという。

この時、るりと小山内とは初対面。ところが、少女は年齢に似つかわしくない大人びた口調で、初対面であるはずの小山内のコーヒーの好みを言い当ててしまう。そして彼女は、にわかには信じがたい話を語り始めたのだった・・・・・・・

物語はこんなふうにして始まります。

小山内堅は青森県八戸市の生まれ。成人し就職の後、彼は同じ八戸高校出身の二学年後輩にあたる藤宮梢と結婚します。娘が生まれ、瑠璃と名付けられます。

瑠璃が7歳の時、高熱を出したことがありました。それを境にして瑠璃の様子が一変します。妻の梢によると、回復した以後の瑠璃は時折大人びた表情を見せ、知るはずのない黛ジュンの歌を歌い、見たこともないデュポンのライターを見分けたのだといいます。

聞くと確かにおかしなことではありますが、そのときの小山内はさほど気にはしません。それよりも気懸かりだったのは、妻・梢の精神状態の方でした。

そののち、瑠璃は家出をします。瑠璃には会いたい人がいるらしい。しかしまだ幼い少女ゆえ目的は果たせず、父である小山内はそれをとやかく問い質そうとはしません。高校を卒業するまでは我慢しろと言われ、瑠璃はその約束を守り、その後彼女は家出をしなくなります。

11年後。約束の年、高校の卒業式を終えた娘は不幸な交通事故に見舞われた。車を運転していたのは妻の梢で、ふたりとも即死だった。

それから小山内は独りになって考え始めた。

彼が、妻・梢の高校時代の友人で今は女優の緑坂ゆいとその娘・るりと出会うのは、妻と娘を失ってから15年後のことです。

この本を読んでみてください係数 90/100

◆佐藤 正午
1955年長崎県生まれ。
北海道大学文学部中退。

作品 「永遠の1/2」「Y」「リボルバー」「個人教授」「アンダーリポート/ブルー」「彼女について知ることのすべて」「身の上話」「ジャンプ」「鳩の撃退法」他多数

関連記事

『青い鳥』(重松清)_書評という名の読書感想文

『青い鳥』重松 清 新潮文庫 2021年6月15日22刷 先生が選ぶ最泣の一冊 1

記事を読む

『ホテルローヤル』(桜木紫乃)_書評という名の読書感想文

『ホテルローヤル』桜木 紫乃 集英社 2013年1月10日第一刷 「本日開店」は貧乏寺の住職の妻

記事を読む

『とらすの子』(芦花公園)_書評という名の読書感想文

『とらすの子』芦花 公園 東京創元社 2022年7月29日初版 ホラー界の新星が描

記事を読む

『太陽は気を失う』(乙川優三郎)_書評という名の読書感想文

『太陽は気を失う』乙川 優三郎 文芸春秋 2015年7月5日第一刷 人は(多かれ少なかれ)こんな

記事を読む

『正義の申し子』(染井為人)_書評という名の読書感想文

『正義の申し子』染井 為人 角川文庫 2021年8月25日初版 物語のスピードに振

記事を読む

『火口のふたり』(白石一文)_書評という名の読書感想文

『火口のふたり』白石 一文 河出文庫 2015年6月20日初版 『火口のふたり』

記事を読む

『樽とタタン』(中島京子)_書評という名の読書感想文

『樽とタタン』中島 京子 新潮文庫 2020年9月1日発行 今から三十年以上前、小

記事を読む

『みぞれ』(重松清)_書評という名の読書感想文

『みぞれ』重松 清 角川文庫 2024年11月25日 初版発行 あなたの時間を少しだけ、小説

記事を読む

『正しい愛と理想の息子』(寺地はるな)_書評という名の読書感想文

『正しい愛と理想の息子』寺地 はるな 光文社文庫 2021年11月20日初版1刷 物

記事を読む

『ヒーローインタビュー』(坂井希久子)_書評という名の読書感想文

『ヒーローインタビュー』坂井 希久子 角川春樹事務所 2015年6月18日初版 「坂井希久子」で

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『小説 木の上の軍隊 』(平一紘)_書評という名の読書感想文

『小説 木の上の軍隊 』著 平 一紘 (脚本・監督) 原作 「木の上

『能面検事の死闘』(中山七里)_書評という名の読書感想文 

『能面検事の死闘』中山 七里 光文社文庫 2025年6月20日 初版

『編めば編むほどわたしはわたしになっていった』(三國万里子)_書評という名の読書感想文

『編めば編むほどわたしはわたしになっていった』三國 万里子 新潮文庫

『イエスの生涯』(遠藤周作)_書評という名の読書感想文

『イエスの生涯』遠藤 周作 新潮文庫 2022年4月20日 75刷

『なりすまし』(越尾圭)_書評という名の読書感想文

『なりすまし』越尾 圭 ハルキ文庫 2025年5月18日 第1刷発行

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑