『オールド・テロリスト』(村上龍)_書評という名の読書感想文
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『オールド・テロリスト』(村上龍), 作家別(ま行), 書評(あ行), 村上龍
『オールド・テロリスト』村上 龍 文春文庫 2018年1月10日第一刷
「満州国の人間」を名乗る老人からのNHK爆破予告電話をきっかけに、元週刊誌記者セキグチは巨大なテロ計画へと巻き込まれていく。暴走を始めたオールド・テロリストたちを食い止める使命を与えられたセキグチを待つものは!? 横溢する破壊衝動と清々しさ。これぞ村上龍と唸るほかない、唯一無比の長篇。解説・田原総一朗 (文春文庫)
【著者「あとがき」より】
後期高齢者の老人たちが、テロも辞さず、日本を変えようと立ち上がるという物語のアイデアが浮かんだのは、もうずいぶん前のことだ。その年代の人々は何らかの形で戦争を体験し、食糧難の時代を生きている。だいたい、殺されもせず、病死も自殺もせず、寝たきりにもならず生き延びるということ自体、すごいと思う。彼らの中で、さらに経済的に成功し、社会的にもリスペクトされ、極限状況も体験している連中が、義憤を覚え、ネットワークを作り、持てる力をフルに使って立ち上がればどうなるのだろうか。どうやって戦いを挑み、展開するだろうか。
【wikipediaから】
時は2018年。NHKにテロの予告電話があり、フリーの記者・セキグチが取材にあたる。テロは予告通り実行され、現場にいたセキグチは、犯人グループを追いかけていく。続いて2番目、3番目のテロが起こり、セキグチは老人からなる、「キニシ スギオ」なる組織の存在に行き着く。彼らの目的は日本をリセットするという大それたものであったが、レポートを依頼されたセキグチは次第に引き込まれていく。そして彼らの真の標的とは・・・・・。
ちょっと疲れた。644ページはさすがに長い。しかも村上龍である。
隙間なく埋め尽くされた文章は、状況も感情も綯い交ぜに、連綿と緻密な描写が続く。容赦なく、切れ目がない。怒涛の展開についていくのが大変で、息継ぎするのももどかしく、呼吸できずに苦しくなってくる。ぐらいに面白い。
予告され、次々と実行されるテロでは大勢の市民の命が奪われる。しかし、そもそも何が為のテロなのか? それがわからない。実行犯は判明するも、真に画策した人物は別にいる。それは確かだが、それが誰かかがわからない。標的は? 目的は何なのか?
奇想天外な想定で、あるはずのない話だと思いながらも、いつの間にやら夢中になって読んでいる。何がそうさせるのだろう。
悲惨で、時に甚だしくグロテスクで、極めて反社会的であるにもかかわらず、どこか爽快に感じているのはなぜなんだろう?
素になって考えてみる。とそれは、誰もが秘めている謂れなき破壊願望故? なのかも知れない。理由や是非はともかくも、とにかく今あるすべてをリセットし、新たな状況を作り出す。そこからなら別の何かがきっと始まる、という企み。
たとえ未遂に終わろうと、たとえ多大な犠牲を払おうと、やると決めたらきっちりやり遂げる。それでこそ、生きる意味があるというものだ。人生は面白い。否、面白くない人生など意味がない。年寄りたちによる、そういう夢の話が書いてあります。
※中に登場する「カツラギ」という女性がいい。彼女は事の真相を明かすべく重要な人物としてセキグチの前に現れ、その後彼と行動を共にします。(彼女は小学生の頃、預けられた叔父にアナルセックスを強要された過去があり、精神的にやや不安定なところがあります)
この本を読んでみてください係数 85/100
◆村上 龍
1952年長崎県佐世保市生まれ。
武蔵野美術大学造形学部中退。
作品 「限りなく透明に近いブルー」「コインロッカー・ベイビーズ」「愛と幻想のファシズム」「五分後の世界」「村上龍映画小説集」「希望の国のエクソダス」「半島を出よ」他多数
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