『惑いの森』(中村文則)_書評という名の読書感想文

『惑いの森』中村 文則 文春文庫 2018年1月10日第一刷


惑いの森 (文春文庫)

毎夜、午前一時にバーに現われる男。投函されなかった手紙をたったひとり受け留め続ける郵便局員。植物になって生き直したいと願う青年 - 狂おしいほどに愛を求めながら、満たされず生きてきた彼らの人生に、ふいに奇跡が訪れる。抗えないはずの運命に光が射すその一瞬を捉えた、著者史上もっともやさしい作品集。(文春文庫)

この本は、アマゾン上にあるWeb文芸誌 『マトグロッソ』 でのショートストーリー連載 (全二十八話) に、新たに書き下ろした二十二話を加えて、全五十話としたものです。(以下略)」(五十話目「Nのあとがき」より)

12 雨
チャイムが鳴ってドアを開けると、知らない男がいた。
「・・・・・・・廃品、回収です」 男は帽子を被り、顔がよく見えない。袖口が酷く汚れている。
「・・・・・・・頼んでませんけど」
「違うんです」 男は、ばつが悪そうに下を向く。

「本当は、わたしはひとのいらないものを、こうやって受け取りにくる。・・・・・・・でも、あなたの捨てたものが、限界を超えたので。・・・・・・・もうこれ以上は無理だと。どれかひとつでも、逆ということになりますが・・・・・・・、あなたが捨てたものを、引き取ってもらおうと

「たとえば、あなたの家族を」「父親でも母親でも夫でも。・・・・・・・もしくは、あなたの思い出でも」 男はしゃべり続ける。鼓動が微かに乱れる。まだ人生が、私を動揺させるものとしてあることに、私は気づく。

「知らない男に呼ばれ、泥酔した母親を雨の中迎えに行った、あなたの赤い長靴を。クラスメイト達に破られた、白いお弁当の袋を。あなたを見ようとしなかった教師達の笑みを」

「健気に男の帰りを待っていた夜を。昼も夜も働いた日々を。幸福になった友人達を。自分なら男を変えられると思っていた自信を。取り乱した夜を。窓ガラスを割った自分に、驚いて座り込んだ床の冷たさを。通院の日々、その市営バスの窓から見た、寂れた町の眺めを。人生に期待する感情を

といったふうに綴られてゆきます。(これ、比較的わかりやすい話の一つ)

折に触れ、胸に謎のバッジをつけた人物が登場します。中に、「教祖」 などという言葉が出てきます。それらは何を意味しているのでしょう? 誰を想像して書いてあるのでしょうか?

中村文則の小説を読み慣れた人には、何とはなしにイメージできます。この本が初めてだという人は、(余計なお世話ですが)無理して読むことはありません。どうせ読んでも、わからないと思いますから。

 

この本を読んでみてください係数 80/100


惑いの森 (文春文庫)

◆中村 文則
1977年愛知県東海市生まれ。
福島大学行政社会学部応用社会学科卒業。

作品 「銃」「遮光」「悪意の手記」「迷宮」「土の中の子供」「王国」「掏摸〈スリ〉」「何もかも憂鬱な夜に」「A」「最後の命」「悪と仮面のルール」「教団X」他多数

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