『幸せになる百通りの方法』(荻原浩)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2017/12/07 『幸せになる百通りの方法』(荻原浩), 作家別(あ行), 書評(さ行), 荻原浩

『幸せになる百通りの方法』荻原 浩 文春文庫 2014年8月10日第一刷


幸せになる百通りの方法 (文春文庫)

 

荻原浩が好きである。

 

荻原浩の十八番、現代社会を象徴する世相を皮肉った視点で眺め、そこで生きる人々の「生きにくさ」をコミカルに描いた短編集です。

温水ゆかりさん(知ってる人は知っている女性フリーライター、らしい)の解説では「荻原浩版『クローズアップ現代』~笑ってヘコむ平成の小市民史」となります。

あらゆる電化製品が溢れる生活の中で強いられる電力使用制限令「原発がともす灯の下で」
役者を目指しながら一方でオレオレ詐欺に加担する若者「俺だよ、俺。」
見知らぬ他人同士がいつの間にかネットでつながる社会「今日もみんなつながっている。」
リストラされた男が通う公園で出会ったもう一人の男「ベンチマン」
歴史、歴史、どうして今が好きになれないの?「歴史がいっぱい」
自己啓発本を読んでは日夜実践に励む営業マン「幸せになる百通りの方法」

と、まぁ荻原さんよく読んでる人ならこれだけでも何となく話の雰囲気分かるでしょ。幸せになる方法はそれこそ何百通りもあるはずですが、
その内のたったひとつを手に入れるのがこれまた大変なことなんですよ、という話。

残る一篇「出会いのジャングル」については、ちょっと詳しく。

マントヒヒにさつまいものかけらを投げながら、「私、何してるんだろ。こんなところで」..陶子は、九月の空に浮かんだ雲を眺めながらぼんやりしています。
動物園を会場にした婚活パーティーに陶子は参加していました。お見合いパーティーは初めてで、弥生の強引な誘いに負けて仕方なくのことでした。

自己紹介は三分間、テーブルを挟んで座る男が回転寿司のように次から次へ移動して進みます。女性をリードする頼れるタイプに思われたいのか、先に口を開くのは男性です。
三分間は短いようで、実は結構長いのです。あらかじめ用意していた話が尽きると、残り一分四十五秒ぐらいで男たちの目は宙に泳ぐのでした。

ネームプレートm9原田は、ダイビングに興味を示した数少ないひとりでした。海外の波について熱く語る原田ですが、陶子は意味がわからない薀蓄にうんざりします。
m5岡本健一、海運会社勤務。課長代理という大きな字に(年収1050万)と添え書きしていた男です。
m13桜井は商社マン。推定年収900。身長179。桜井は入口に集合した時、チケット売場の窓を鏡にして、ずーっと顔ばかり見ていた、きっと自分大好き人間です。
m12本田直人、不動産販売会社勤務。聞かなくても営業だとわかる物腰で、喋るのが得意のようですが、口先と頭の中が別々でちゃんと繋がってない感じです。

要するに、陶子は本気ではありません。その分、自分に近寄ってくる男性にも魅力を感じないのです。
猿山を見れば、堂々と性器を丸出しにして、あげく交尾を始めてしまうやつまであらわれます。
陶子はその様子を見て、「これがお前らの正体だ」と言われているように感じるのでした。

陶子が二年半つきあっている達郎とは不倫の関係でした。その達郎が半年前に正式離婚したとたん、結婚を匂わすせりふを吐きはじめます。
しかし結婚してしまえば、今度は陶子から達郎が離れていくのが分かっています。達郎は根っからの狩人タイプ、女が外にいるあいだは懸命に追い回すのです。
達郎は魅力的な男ですが、これから先のことを考えて、思いを断ち切るために陶子はパーティーへ参加したのでした。

会場は動物園、陶子は元々大学の理学部出身で、専攻は動物行動学。現在は、動物モノを得意とするテレビ番組制作会社の社員という、デキすぎた設定です。
陶子の動物に関する豊富な知識やチョイネタが至る所で披露されつつお見合いは終盤を迎え、最後に陶子は動物特有のディスプレイ行動の範を自ら示すのでした。

オスがメスを求めて右往左往する生態、麗しいメスの正体があらわになる舞台裏、動物たる人間の涙ぐましい求愛ドラマです。

 

この本を読んでみてください係数 85/100


幸せになる百通りの方法 (文春文庫)

◆荻原 浩

1956年埼玉県大宮市生まれ。

成城大学経済学部卒業。広告制作会社、コピーライターを経て、1997年小説家デビュー。

作品 「オロロ畑でつかまえて」「コールドゲーム」「明日の記憶」「お母様のロシアのスープ」「誰にも書ける一冊の本」「あの日にドライブ」「四度目の氷河期」「愛しの座敷わらし」「砂の王国」他多数

◇ブログランキング

応援クリックしていただけると励みになります。
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ

関連記事

『さよなら、ニルヴァーナ』(窪美澄)_書評という名の読書感想文

『さよなら、ニルヴァーナ』窪 美澄 文春文庫 2018年5月10日第一刷 さよなら、ニルヴァー

記事を読む

『ジミ・ヘンドリクス・エクスペリエンス』(滝口悠生)_書評という名の読書感想文

『ジミ・ヘンドリクス・エクスペリエンス』滝口 悠生 新潮文庫 2018年4月1日発行 ジミ・ヘ

記事を読む

『その可能性はすでに考えた』(井上真偽)_書評という名の読書感想文

『その可能性はすでに考えた』井上 真偽 講談社文庫 2018年2月15日第一刷 その可能性はす

記事を読む

『さよなら、田中さん』(鈴木るりか)_書評という名の読書感想文

『さよなら、田中さん』鈴木 るりか 小学館 2017年10月17日初版 さよなら、田中さん

記事を読む

『それまでの明日』(原尞)_書評という名の読書感想文

『それまでの明日』原 尞 早川書房 2018年3月15日発行 それまでの明日 11月初旬のあ

記事を読む

『EPITAPH東京』(恩田陸)_書評という名の読書感想文

『EPITAPH東京』恩田 陸 朝日文庫 2018年4月30日第一刷 EPITAPH東京 (朝

記事を読む

『HEAVEN/萩原重化学工業連続殺人事件』(浦賀和宏)_書評という名の読書感想文

『HEAVEN/萩原重化学工業連続殺人事件』浦賀 和宏  幻冬舎文庫  2018年4月10日初版

記事を読む

『事件』(大岡昇平)_書評という名の読書感想文

『事件』大岡 昇平 創元推理文庫 2017年11月24日初版 事件 (創元推理文庫) 196

記事を読む

『きみのためのバラ』(池澤夏樹)_書評という名の読書感想文

『きみのためのバラ』池澤 夏樹 新潮文庫 2010年9月1日発行 きみのためのバラ (新潮文庫

記事を読む

『君のいない町が白く染まる』(安倍雄太郎)_書評という名の読書感想文

『君のいない町が白く染まる』安倍 雄太郎 小学館文庫 2018年2月27日初版 君のいない町が

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

『きのうの影踏み』(辻村深月)_書評という名の読書感想文

『きのうの影踏み』辻村 深月 角川文庫 2018年8月25日初版

『さよなら、ビー玉父さん』(阿月まひる)_書評という名の読書感想文

『さよなら、ビー玉父さん』阿月 まひる 角川文庫 2018年8月25日

『工場』(小山田浩子)_書評という名の読書感想文

『工場』小山田 浩子 新潮文庫 2018年9月1日発行 工場 (

『彼女は頭が悪いから』(姫野カオルコ)_書評という名の読書感想文

『彼女は頭が悪いから』姫野 カオルコ 文藝春秋 2018年7月20日第

『抱く女』(桐野夏生)_書評という名の読書感想文

『抱く女』桐野 夏生 新潮文庫 2018年9月1日発行 抱く女

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑