『グラニテ』(永井するみ)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/10 『グラニテ』(永井するみ), 作家別(な行), 書評(か行), 永井するみ

『グラニテ』永井 するみ 集英社文庫 2018年2月25日第一刷

“女” になるあなたが許せない。カフェの経営者・市ノ瀬万里は42歳。10年前に夫を亡くし、17歳の一人娘・唯香と暮らしている。年下の新進映画監督の凌駕とは密かに恋愛関係にあった。一方で、凌駕の新作に主演女優として起用された唯香も次第に彼に惹かれていく。女として美しくなる娘に嫉妬する万里。いつまでも女であろうとする母に苛立つ唯香。一人の男を巡る母親と娘の三角関係の終幕とは・・・・・・・? (集英社文庫)

美貌の母と、美貌の娘。母からすれば、娘が私の恋人に恋をした、という話である。

夫と死別し、万里はここ10年来「独身」で、数軒のカフェを経営している。現在、彼女には一回り以上年下の恋人がいる。五十嵐凌駕は新進気鋭の映画監督で、今は名が売れもてはやされてはいるが、万里の前では変わらない、気取りのない、陽気な男性である。

クレセント交響楽団の常任指揮者である葛城怜司は、万里の亡き夫・悠太郎の高校時代からの友人で、妻の寿々子と共に、万里と唯香の母娘とは今も変わらず家族ぐるみの付き合いがある。母娘にとり二人はかけがえのない存在で、特に怜司は、母娘にとって他にない相談相手でもある。

ところが - 。

凌駕が、自分の作る映画の主役に、唯香を起用したいと言い出した。唯香はそれを強く望んだせいで、万里の心は乱れに乱れてしまう。

怜司が京都で演奏会を開くという。その時万里も京都へ行く仕事があり、二人は空いた時間を利用し、嵐山へ行く。怜司がボートに乗ろうと言い、それに従ったまではよかったものの、知らぬ間にそれが雑誌の「記事」になる。興味本位に書かれたそれは、思わぬ事態の引き金となる。

唯香にとって万里は母であり、「女」ではない。女としては、見られない。
怜司にとって万里は女であり、友がいた頃からそうで、それは今も変わらない。
怜司の妻、寿々子はどうだろう? 彼女の本心はどこにあるのだろう。

そして、凌駕は - 彼は万里を捨て、唯香を選ぶのか。
唯香は - 母を捨て、彼女は凌駕の心を奪い取るのだろうか・・・・・・・

グラニテとは、フランス料理のコースにおいて供されるシャーベット状の氷菓のこと。本来、コースの中で肉料理とローストの間の口直しを目的として供されるが、コースの最後にデザートとして供されるものを指していうこともある。

この本を読んでみてください係数 80/100

◆永井 するみ
1961年東京生まれ。
東京芸術大学音楽学部中退、北海道大学農学部卒業。2010年9月3日、死去。

作品 「マリーゴールド」「隣人」「枯れ蔵」「ミレニアム」「ダブル」「義弟」他

関連記事

『崖の館』(佐々木丸美)_書評という名の読書感想文

『崖の館』佐々木 丸美 創元推理文庫 2006年12月22日初版 哀しい伝説を秘めた百人浜の断崖に

記事を読む

『飼う人』(柳美里)_書評という名の読書感想文

『飼う人』柳 美里 文春文庫 2021年1月10日第1刷 結婚十年にして子どもがで

記事を読む

『ゆれる』(西川美和)_書評という名の読書感想文

『ゆれる』西川 美和 文春文庫 2012年8月10日第一刷 故郷の田舎町を嫌い都会へと飛び出し

記事を読む

『片想い』(東野圭吾)_書評という名の読書感想文

『片想い』東野 圭吾 文春文庫 2004年8月10日第一刷 十年ぶりに再会した美月は、男の姿をして

記事を読む

『人面瘡探偵』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『人面瘡探偵』中山 七里 小学館文庫 2022年2月9日初版第1刷 天才。5ページ

記事を読む

『枯れ蔵』(永井するみ)_書評という名の読書感想文

『枯れ蔵』永井 するみ 新潮社 1997年1月20日発行 富山の有機米農家の水田に、T型トビイロウ

記事を読む

『草祭』(恒川光太郎)_書評という名の読書感想文

『草祭』恒川 光太郎 新潮文庫 2011年5月1日 発行 たとえば、苔むして古びた

記事を読む

『仮面病棟』(知念実希人)_書評という名の読書感想文

『仮面病棟』知念 実希人 実業之日本社文庫 2014年12月15日初版 強盗犯により密室と化す病院

記事を読む

『この話、続けてもいいですか。』(西加奈子)_書評という名の読書感想文

『この話、続けてもいいですか。』西 加奈子 ちくま文庫 2011年11月10日第一刷 先日たまた

記事を読む

『きのうの影踏み』(辻村深月)_書評という名の読書感想文

『きのうの影踏み』辻村 深月 角川文庫 2018年8月25日初版 雨が降る帰り道、後輩の女の子と

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『神童』(谷崎潤一郎)_書評という名の読書感想文

『神童』谷崎 潤一郎 角川文庫 2024年3月25日 初版発行

『孤蝶の城 』(桜木紫乃)_書評という名の読書感想文

『孤蝶の城 』桜木 紫乃 新潮文庫 2025年4月1日 発行

『春のこわいもの』(川上未映子)_書評という名の読書感想文

『春のこわいもの』川上 未映子 新潮文庫 2025年4月1日 発行

『銀河鉄道の夜』(宮沢賢治)_書評という名の読書感想文

『銀河鉄道の夜』宮沢 賢治 角川文庫 2024年11月15日 3版発

『どうしてわたしはあの子じゃないの』(寺地はるな)_書評という名の読書感想文

『どうしてわたしはあの子じゃないの』寺地 はるな 双葉文庫 2023

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑