『夜よ鼠たちのために』(連城三紀彦)_書評という名の読書感想文

『夜よ鼠たちのために』(復刻名作1位)連城 三紀彦 宝島社 2014年9月18日第一刷


夜よ鼠たちのために (宝島社文庫)

 

年末年始に読む本を仕入れに行ったら、どどっと並んでいたので思わず買ってしまいました。「このミステリーがすごい! 2014年版」の「復刻希望! 幻の名作ベストテン」の第1位とくれば、とりあえず読んで損はない、と。

恥ずかしながら、私はこんなに有名な作家さんの本をこれまでに一冊も読んだことがありません。読まなかった理由があることにはあるのですが、あまりに個人的な理由なので省略するとして、真っ新な気持ちで正月早々読んでおりました。

三十年以上も前に書かれた話ですが、さすがにランキングトップに相応しいだけのことはありますね。古くないし、アクがなく誰もに受け入れられる正統派の作品が揃っています。プロットは練りに練られており、簡単には事件の全容に辿り着けない周到な準備が施されています。

表題作の「夜よ鼠たちのために」は特徴的で、普通に「こいつが犯人だ」と信じて読み進めて行くと、途中で「ちょっと待ってよ。それ誰のこと言ってるの?」といった具合で、読む手がとまります。殺人事件の様相は大きく方向転換して、複雑でより深い真相へと読者は導かれていくのです。今の若い人にも通用する、上質なサスペンス・ミステリーです。

この本には9つの短編が収められています。「夜よ鼠たちのために」の他に、冒頭の「二つの顔」と、続く「過去からの声」を少しだけご紹介しましょう。

「二つの顔」
肖像画のモデルとして他にない魅力を感じ、真木は契子と結婚しました。しかし、妻としては理想的な契子でしたが、画家の真木が望んだ想像の女性ではありませんでした。

深夜、真木は警察から突然の電話を受けます。新宿のホテルで発生した殺人事件の被害者が妻の契子らしいという連絡に、真木は激しく動揺します。契子なら、ついさっきまで絨毯の上に横たわっていた...真木自身が寝室で契子を殺した直後に、その電話はかかってきたのでした。

ホテルの部屋の状況は、まるで寝室での様子を再現したように全てが酷似していました。顔こそ潰されているものの、遺留品などから死体は間違いなく契子です。真木の弟・新司も、義姉の契子に違いないと証言します。
ホテルで殺されたのが本当に契子なら、自分の犯罪の隠れ蓑になってくれるかもしれない...咄嗟にそう考えた真木は、警察の問いかけに「たしかに妻の契子です」と、はっきり答えていました。

「過去からの声」
たった二年で刑事を辞めると言った僕を、岩さんは怒りませんでした。「逃げるのもいいだろう...」淋しそうに笑った岩さんは、僕の肩を励ますように二度叩いてくれました。岩さんにだけは、あのことを話しておかなければならない...僕が辞めた、本当の理由を。

僕が岩さんと組んだ最後の仕事は、全日航空副社長・山藤武彦の三歳になる一人息子の誘拐事件でした。身代金の受渡し現場から逃走する犯人車両を追跡する途中、予期せぬ事故が目の前で発生し、追尾役の刑事は誤った連絡を本部へ入れてしまいます。犯人車両の行方を実際とは逆方向に報告した結果、車は遂にキャッチ出来ず仕舞いに終わります。

公開捜査の結果、岡田啓介という男が誘拐犯であることが判明しますが、岡田は指名手配になった二日後、事故死体となって発見されます。車には身代金のほとんどが残されており、岡田の死は単なる事故死と断定され、事件は無事終止符を打ったかに思えました。

しかし、それは新聞に報道された限りの表の事情で、事件の全てを語る内容ではありませんでした。記事にはならない事実と気持ちを、僕は岩さんに告白しようと思っています。
・・・・・・・・・・
短編ですので、書き出すと全てがネタバレぎみになりそうなので、後はじっくりとお読みいただくことにしましょう。とりあえず、損はないと思います。

 

この本を読んでみてください係数 80/100


夜よ鼠たちのために (宝島社文庫)

◆連城 三紀彦

1948年愛知県名古屋市生まれ。2013年10月、65歳で没。

早稲田大学政治経済学部卒業。真宗大谷派の僧侶でもあった。

作品 「変調二人羽織」「戻り川心中」「宵待草夜情」「恋文」「隠れ菊」「私という名の変奏曲」「黄昏のベルリン」「美女」「造花の蜜」他多数

◇ブログランキング

いつも応援クリックありがとうございます。
おかげさまでランキング上位が近づいてきました!嬉しい限りです!
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ

関連記事

『夢を与える』(綿矢りさ)_書評という名の読書感想文

『夢を与える』綿矢 りさ 河出文庫 2012年10月20日初版 夢を与える (河出文庫)

記事を読む

『世にも奇妙な君物語』(朝井リョウ)_書評という名の読書感想文

『世にも奇妙な君物語』朝井 リョウ 講談社文庫 2018年11月15日第一刷 世にも奇妙な君

記事を読む

『よるのふくらみ』(窪美澄)_書評という名の読書感想文

『よるのふくらみ』窪 美澄 新潮文庫 2016年10月1日発行 よるのふくらみ (新潮文庫)

記事を読む

『やりたいことは二度寝だけ』(津村記久子)_書評という名の読書感想文

『やりたいことは二度寝だけ』津村 記久子 講談社文庫 2017年7月14日第一刷 やりたいこと

記事を読む

『夜をぶっとばせ』(井上荒野)_書評という名の読書感想文

『夜をぶっとばせ』井上 荒野 朝日文庫 2016年5月30日第一刷 夜をぶっとばせ (朝日文庫

記事を読む

『夜の床屋』(沢村浩輔)_書評という名の読書感想文

『夜の床屋』沢村 浩輔 創元推理文庫 2014年6月28日初版 夜の床屋 (創元推理文庫)

記事を読む

『杳子・妻隠』(古井由吉)_書評という名の読書感想文

『杳子・妻隠』古井 由吉 新潮文庫 1979年12月25日発行 杳子・妻隠(つまごみ) (新潮文庫

記事を読む

『夜明けの縁をさ迷う人々』(小川洋子)_書評という名の読書感想文

『夜明けの縁をさ迷う人々』小川 洋子 角川文庫 2010年6月25日初版 夜明けの縁をさ迷う人

記事を読む

『やがて海へと届く』(彩瀬まる)_書評という名の読書感想文

『やがて海へと届く』彩瀬 まる 講談社文庫 2019年2月15日第一刷 やがて海へと届く (

記事を読む

『ようこそ、わが家へ』(池井戸潤)_書評という名の読書感想文

『ようこそ、わが家へ』池井戸 潤 小学館文庫 2013年7月10日初版 ようこそ、わが家へ (

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

『ドクター・デスの遺産』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『ドクター・デスの遺産』中山 七里 角川文庫 2020年5月15日4

『知らない女が僕の部屋で死んでいた』(草凪優)_書評という名の読書感想文

『知らない女が僕の部屋で死んでいた』草凪 優 実業之日本社文庫 20

『肉弾』(河﨑秋子)_書評という名の読書感想文

『肉弾』河﨑 秋子 角川文庫 2020年6月25日初版 肉弾

『プラナリア』(山本文緒)_書評という名の読書感想文

『プラナリア』山本 文緒 文春文庫 2020年5月25日第10刷

『少年と犬』(馳星周)_書評という名の読書感想文

『少年と犬』馳 星周 文藝春秋 2020年7月25日第4刷 【

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑