『折れた竜骨(下)』(米澤穂信)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/14 『折れた竜骨』(米澤穂信), 作家別(や行), 書評(あ行), 米澤穂信

『折れた竜骨(下)』米澤 穂信 東京創元社 2013年7月12日初版

後半の大きな山場は、二つあります。一つは言うまでもなく<走狗>の正体が暴かれる場面です。確かな証拠を積み重ね、緻密な論理で一つずつ可能性を検証しながら、ファルクは誰が<走狗>なのかを絞り込んで行くのですが、その前にもう一つ、「呪われたデーン人」の来襲場面が用意されています。これが超が付くぐらいに迫力があって面白いのです。
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忌々しい雪に連れられて、奴らが来るそうだ...デーン人の襲来を予告したのは、マジャル人の女傭兵・ハール・エンマでした。ファルクが<走狗>の正体を暴くために、集められた傭兵を一人ずつ訊ね歩いている最中のことでした。

死者たちの船。呪われたデーン人たちは、本当にやって来ました。その船は、これまで見たことがないほど速く海面を滑って来ます。デーン人の竜船(ドラゴンシップ)です。敵船に向かって、ウェールズのイテルが迷うことなく矢を放ったのが闘いの始まりでした。

超人的な弓の腕前を持つイテルと弟のヒム、透明になれる魔術道具を使うコンラートとその一党、青銅巨人を操るスワイド、そして小ソロン島の西の塔から消えた捕虜・呪われたデーン人のトーステン、民兵を束ねたボネス市長までもが参戦します。闘いの終盤で登場するエンマは、デーン人の族長に狙いをつけていました。

闘いの序盤は、守勢一方のソロン軍です。何せ人間と人間でないものの闘いです。デーン人は死者であり、何の感情も示さず、首を刎ねない限り何度でも蘇生する化け物なのです。

しかし、傭兵たちの間一髪の逆襲で、徐々に状勢はソロン軍に有利に傾いて、エンマの戦斧がデーン人の族長を斜めに両断したところで終焉を迎えます。新しい領主・アダムが率いるソロンの騎士たちが港に到着したのは、竜船が桟橋を遠く離れた後のことでした。

ファルクとニコラも、もちろん戦闘に加わって活躍します。しかし、この活劇シーンで最も勇ましく輝かしかったのは2人の女性です。アミーナとエンマ、彼女らの戦場での凛々しさは胸がすく思いで、感動的です。一方アダムは、予想してたとは言えダメ男なのです。
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いよいよ最終盤、謎解きのクライマックスです。

ファルクは言います。「理性と理論は魔術をも打ち破る。それを証明するんだ。」「真実を証明するにあたって一つの儀式を行う」と。「事件の関係者を集め、我々が何を知ったのか、何を知り得なかったのか、何を知った上で公言を控えているのかを明らかにするのです。」

その上で、<走狗>が誰なのかを指摘する、とファルクは宣言するのでした。
第五章「儀式」で、その全容が語られます。ここは敢えて何も触れずにおきます。目次のみ書き上げておきますので、想像をめぐらせてください。
35 誰が<走狗>であったのか
36 残るはただ一人
37 父の腕の中
最後の最後まで気を抜かないでくださいね。米澤穂信は、自分が事前に準備したものをきっちりと全部解説した上で物語を閉じていますので。
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正直言うと、私SFとかファンタジー苦手なんですよね。若い頃星新一の本を集中的に読んだことがあるくらいで、魔術で透明人間になるとか、3mもある青銅の人形が暴れまくるとか、およそ現実的でない話を最後まで読めるだろうかと思っていたのです。

しかも小説の舞台はヨーロッパの北海に浮かぶ小さな島で、時代は12世紀末ときています。
米澤穂信によると、小説の舞台にこの場所と時代を選んだ理由は、シュルーズベリの修道士・ブラザー・カドフェルの面影が残る時代だったから、ということです。

みなさんは、シュルーズベリの修道士・ブラザー・カドフェルが何者かご存じですか?恥ずかしながら、私はWikipediaで調べてはじめて、あぁなるほどなと納得した次第です。イングランド王国に神聖ローマ帝国、イスラム帝国のサラセン人にデンマーク王国のデーン人ですよ。世界史に疎い人間は、ウロウロしてしまいます。

それにもかかわらず、久しぶりに「熱中して」読みました。最初の心配はどこへやら、上巻の半分くらいかな、登場人物の立ち位置さえ把握すれば、後は一気に読めます。というか、読みたくなる。ハイファンタジーであろうとなかろうと、歴史小説でも魔術師でも何でも来いです。とにかく、全部を含んで面白い。本当に、胸がワクワクするミステリーなのです。

この本を読んでみてください係数 90/100


◆米澤 穂信

1978年岐阜県生まれ。

金沢大学文学部卒業。

作品「氷菓」「心あたりのある者は」「インシテミル」「追想五断章」「満願」他多数

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