『闘う君の唄を』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『闘う君の唄を』中山 七里 朝日文庫 2018年8月30日第一刷


闘う君の唄を (朝日文庫)

新任の教諭として、埼玉県秩父郡の神室幼稚園に赴任した喜多嶋凛。三歳児クラスを担任することになり理想に燃えていたが、彼女の前に立ちはだかったのは 〈保護者会〉 という名のモンスターペアレンツたちだった。保護者たちの理不尽な要求に呆れる凛。けれど園長は、凛が驚くほどあっさりと保護者の言いなりになる。そこにはこの幼稚園の 〈保護者会には逆らえない理由〉 があったのだ・・・・・・・。(物語の導入部/解説より)

“中島みゆきの楽曲からインスパイアされたミステリは、前半と後半で印象が大きく異なるグリコアーモンドキャラメル。最大の謎は、前半に。” - という、@sakura honno64さんの言う通り。

知らない方のために(というか、書きたいだけなのですが)、タイトルや章毎に付けられたフレーズが出て来る 『ファイト! 』 の歌詞の一部を紹介しましょう。

あたし中卒やからね 仕事を もらわれへんのやと書いた
女の子の手紙の 文字はとがりながら震えている

ガキのくせにと 頬を打たれ 少年たちの眼が年をとる
悔しさを握りしめすぎた 拳の中 爪が突き刺さる

私、本当は 目撃したんです 昨日電車の駅 階段で
転がり落ちた子供と つきとばした女の うすわらい

私、驚いてしまって 助けもせず 叫びもしなかった
ただ怖くて 逃げました 私の敵は私です

ファイト!   闘う君の唄を 闘わない奴等が笑うだろう
ファイト!   冷たい水の中を ふるえながらのぼってゆけ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
勝つか負けるか それはわからない それでもとにかく 闘いの
出場通知を抱きしめて あいつは海になりました ファイト!  ・・・・・・・

 

第一章 闘いの出場通知を抱きしめて
第二章 こぶしの中 爪が突き刺さる
第三章 勝つか負けるか それはわからない
第四章 私の敵は私です
第五章 冷たい水の中をふるえながらのぼってゆけ

第三章までのほぼ99%がフリ。田舎の幼稚園に赴任して来た若き女性の新米教諭が、並み居るモンスターペアレンツをものともせず、物議を醸すも厭わず、一心に園児と向き合い、同僚はもとより強く反発する保護者会の面々からも一目置かれるようになる -

ここだけ読むとまさに中島みゆきの楽曲 『ファイト! 』  の通り、未熟な自分でありながら、何も出来ない自分でありながら、もがいて、もがき苦しんで、ようやく (教育者としての) 一歩が踏み出せた、みたいな、かつての 「青春学園ドラマ」 の女版のような、およそ中山七里らしくない (つまりはミステリーとは思えないような) 話が続きます。

いつしか私はこれが中山七里が書いたミステリーとは思わずに読んでいました。できれば、お決まりの 〈どんでん返し〉 も起こらずに、”気持ちいいまま” 終わってほしいとすら思っていました。

ところが、第四章で、その願いは儚くも叶わなくなります。ここでは書かずにおきますが、あなたは二度、驚くことになります。そして、この唄に秘められた思いが、殊更に、大きく深いものであるのを知ることになります。

※この曲を聴いたことがない方は、ユーチューブで簡単に聴くことができます。たくさんのミュージシャンがカバーしていますが、私のおススメは竹原ピストル。圧倒的な熱量で歌う彼の 『ファイト! 』 を、ぜひ一度聴いてみてください。

 

この本を読んでみてください係数 85/100


闘う君の唄を (朝日文庫)

◆中山 七里
1961年岐阜県生まれ。
花園大学文学部国文科卒業。

作品 「切り裂きジャックの告白」「贖罪の奏鳴曲」「追憶の夜想曲」「七色の毒」「さよならドビュッシー」「ヒポクラテスの誓い」「連続殺人鬼カエル男」他多数

関連記事

『翼』(白石一文)_書評という名の読書感想文

『翼』白石 一文 鉄筆文庫 2014年7月31日初版   翼 (鉄筆文庫 し

記事を読む

『セイレーンの懺悔』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『セイレーンの懺悔』中山 七里 小学館文庫 2020年8月10日初版 セイレーンの懺悔 (小

記事を読む

『ツタよ、ツタ』(大島真寿美)_書評という名の読書感想文

『ツタよ、ツタ』大島 真寿美 小学館文庫 2019年12月11日初版 ツタよ、ツタ (小学館

記事を読む

『連続殺人鬼カエル男』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『連続殺人鬼カエル男』中山 七里 宝島社 2011年2月18日第一刷 連続殺人鬼 カエル男 (

記事を読む

『その先の道に消える』(中村文則)_書評という名の読書感想文

『その先の道に消える』中村 文則 朝日新聞出版 2018年10月30日第一刷 その先の道に消え

記事を読む

『天使が怪獣になる前に』(山田悠介)_書評という名の読書感想文

『天使が怪獣になる前に』山田 悠介 文芸社文庫 2015年2月15日初版 【文庫】 天使が怪獣

記事を読む

『月の上の観覧車』(荻原浩)_書評という名の読書感想文

『月の上の観覧車』荻原 浩 新潮文庫 2014年3月1日発行 月の上の観覧車 (新潮文庫) 本書

記事を読む

『枯れ蔵』(永井するみ)_書評という名の読書感想文

『枯れ蔵』永井 するみ 新潮社 1997年1月20日発行 枯れ蔵 (新潮ミステリー倶楽部)

記事を読む

『隣のずこずこ』(柿村将彦)_書評という名の読書感想文

『隣のずこずこ』柿村 将彦 新潮文庫 2020年12月1日発行 隣のずこずこ(新潮文庫)

記事を読む

『太陽の塔』(森見登美彦)_書評という名の読書感想文

『太陽の塔』森見 登美彦 新潮文庫 2018年6月5日27刷 太陽の塔(新潮文庫) 私

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

『騙る』(黒川博行)_書評という名の読書感想文

『騙る』黒川 博行 文藝春秋 2020年12月15日第1刷 騙

『ケーキの切れない非行少年たち』(宮口幸治)_書評という名の読書感想文

『ケーキの切れない非行少年たち』宮口 幸治 新潮新書 2020年9月

『ひとでちゃんに殺される』(片岡翔)_書評という名の読書感想文 

『ひとでちゃんに殺される』片岡 翔 新潮文庫 2021年2月1日発行

『藤色の記憶』(あさのあつこ)_書評という名の読書感想文

『藤色の記憶』あさの あつこ 角川文庫 2020年12月25日初版

『初めて彼を買った日』(石田衣良)_書評という名の読書感想文

『初めて彼を買った日』石田 衣良 講談社文庫 2021年1月15日第

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑