『リアル鬼ごっこ』(山田悠介)_書評という名の読書感想文
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最終更新日:2024/01/10
『リアル鬼ごっこ』(山田悠介), 作家別(や行), 山田悠介, 書評(ら行)
『リアル鬼ごっこ』山田 悠介 幻冬舎文庫 2015年4月1日75版
全国500万の 〈佐藤〉 姓を皆殺しにせよ! - 西暦3000年、国王はある日突然、7日間にわたる大量虐殺を決行した。生き残りを誓う大学生・佐藤翼の眼前で殺されていく父や友。陸上選手の翼は、幼い頃に生き別れた妹を探し出すため “死の競走路(トラック)” を疾走する。奇抜な発想とスピーディな展開が若い世代を熱狂させた大ベストセラーの 〈改訂版〉。(幻冬舎文庫)
山田悠介、20歳のデビュー作。2001年に文芸社から自費出版本として刊行され、発行部数100万部を超える話題作とあります。(wikipedia参照。尚、現在は200万部を超えているらしい) 漫画になり、(小学館ジュニア文庫から) イラスト付きの本で発売され、映画になり、連続ドラマにもなっているような。
若い世代、特に10代には絶大な人気があるようですが、(ごく一般的な読者の感想はというと) これが思いのほか手厳しいものがあります。というか、かなり辛辣なものが目立ちます。そして、そのほとんどが (原作に関する) 文章の稚拙さを指摘しています。
例えば -
「二人が向かった先は地元で有名なスーパーに足を踏み入れた」 「騒々しく騒いでいる」 「最後の大きな大会では見事全国大会に優勝」 「十四年間の間」 「いざ、着地してみるとそこは森の様な草むらに二人は降り立っていた」 等々、
中で有名な一文がこれです。
宮殿では朝食の時間を迎えており、メイド達が次々と豪華な料理を運び出していた。それは朝食とは思えないほどの豪華さで、一般市民がこの料理を見たらこれが本当に朝食か? と目を仰天させるに違いない。これだけで一般市民との差は歴然と離れており、王様が毎日どのようにして暮らしているかはこの朝食だけでも想像がついてしまう。なおも料理は運び込まれていく。王様の目の前に全てが金で作られているナイフやフォーク。そして、背もたれが必要以上に天井へと伸びている豪華なイス。全てが “豪華” これ以上の単語が見当たらない程、豪華であった。
さて。では、この文章のどこが変なのか。あたなはこれを読んで、どこかおかしなところがあると感じましたか? それとも、さして違和感もなく読むことができたのでしょうか。
この文章が、〈改訂版〉 では以下のように書き直されています。どんな理由がもとでそうなったのか、よーく考えてみてください。
宮殿は朝食の時間を迎えており、メイドたちが次々と豪華な料理を運び入れていた。王様の目の前に全ての料理が出揃った。そして、無言のままステーキにナイフを入れ、口に運ぶ瞬間、コックたちは生唾を飲み込んでいた。
最初の一口を食べ終わると王様はフムフムと頷いた。特に満足そうな表情ではないが、一応は合格なのだろう。コックたちは一様に安堵の表情を浮かべた。合格と分かった途端、コックたちは部屋から立ち去った。(P232.233)
こう書き替えられたのは、何が為だったのでしょう? 文法上の不都合や理屈ではなく、読んだ “感性” として、あなたもまた先の (原作の) 文章には “著しい落ち度” があると感じ、〈改訂版〉 ではそれが正しく表現されていると感じ取ったのでしょうか。
正直なところ、私にはよくわかりません。先の文章がそれほど “やばい” ものだとは思えないし、言われてみればなるほどそうですねといった程度で、ことさら大袈裟に言うほどのことではないように思え、さらに言うなら、わざと (敢えて) そう書いたんじゃないかと。
日頃あまり本など読まないであろう若者だからこそ、この小説に飛びついた。あまりに稚拙で、読み慣れた者からすると読むに堪えない代物である。- というのなら、あなたのその “感性” をこそ疑うべきで、歳を取り、”慣らされている” ことを思い知るべきである - と、そう思わせてくれる一冊です。
この本を読んでみてください係数 85/100
◆山田 悠介
1981年東京都生まれ。
平塚学園高等学校卒業。
作品 「天使が怪獣になる前に」「親指さがし」「ブレーキ」「名のないシシャ」「奥の奥の森の奥に、いる。」「貴族と奴隷」他多数
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