『やぶへび 』(大沢在昌)_書評という名の読書感想文

『やぶへび 』大沢 在昌 講談社文庫 2015年1月15日第一刷


やぶへび (講談社文庫)

 

甲賀は女好きでしたが、女運には見放された男です。お嬢さん女子大出でモデルあがりの麻矢と結婚したものの、麻矢の正体は贅沢好きの尻軽で、”フロント”の金貸しに水揚げされていたことも知らなかったのです。元パパの駿河は、極道以上にタチの悪い男でした。

甲賀は元警察官、離婚して警察も辞めた今はその日暮らしの毎日です。杜英淑に頼まれて「偽装」結婚した相手は、李青珠(リ・チンジュ)という中国人、吉林省長春からきた女でした。警察から呼び出された病院で、甲賀は初めてそのことを知ります。

青珠と病院で出会った日は、不運にもまた甲賀が泥沼へ巻き込まれて行く始まりの日でもありました。女と出会った先は、必ずと言っていいほど悪い方向にしか向かない甲賀です。

青珠は怪我をして警察に保護され、外国人登録証明書に記載された”夫”である甲賀の元へ連絡が入ったというわけです。怪我は軽傷でしたが、青珠は記憶を失くしていました。身元が判らない限り、青珠の面倒をみるのは甲賀しかいません。甲賀は頭を抱えます。

仮にも「妻」である青珠が何かの犯罪に関係していたら、「偽装」に加担した甲賀の立場も不味くなります。青珠の身元を調べ出した矢先、元同僚の伊賀と偶然に出会い、捜索中の男の写真を見せられます。その写真は、明らかに死人を加工して写したものでした。

青珠は、写真の男を知っていました。甲賀の疑念は膨らみます。青珠は何者なのか、なぜ偽装結婚までして日本へやって来たのか。その理由を知るために、英淑から聞き出したマンションへ二人が行ってみると、そこにはもう一人の「李青珠」、偽者の青珠がいたのです。

青珠が日本へ来た目的は、水商売や売春で金を稼ぐためではないようです。その手の女を多く見てきた甲賀には、元警官の勘でそれが分かります。英語も堪能で、更に功夫(カンフー)に似た武術にも長けた青珠の正体は謎のままで、解明の糸口が見つかりません。
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周恵華という別人を青珠の替玉に仕立てて、偽装結婚を裏で進めたのが羊という男。羊は紅龍飯店社長・干の指示で動いています。一方、英淑に青珠の相手捜しを依頼したのが豊島旅業の如で、如と干は通じています。青珠が見た写真は、殺された如の姿でした。
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青珠の身元を調べるのは、簡単なことではありませんでした。英淑の店を訪ねると、いかがわしい四人組が現れて青珠を連れて行こうとします。青珠が働いていたという投資顧問会社の宗形と名乗る男は彼女を引取ると言うのですが、どうも嘘くさくて信用できません。

更に英淑が何者かに誘拐され、事は中国人だけでなく日本の暴力団まで関係していることが分かります。それも甲賀にとって最も忌まわしい人物の駿河と、駿河のバックにつく藤井組でした。中国人と駿河の組み合わせに、八方塞がりになる甲賀です。
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少しバレぎみになりますが、青珠の偽装結婚の裏には、上海の最大勢力を率いる老大(ラオダ)の存在がありました。老大の王先勇は既に引退して、今は息子の王新豹が上海の黒社会を牛耳っています。

青珠は王新豹の妹で、本当の名前は宋丹。宋丹が偽装結婚をしてまで日本の永住権を得ようとしたのは、危険な上海から逃れて日本で王先勇と二人で暮らすためでした。

相変わらずスピーディーで、解説の通り読み始めたら止まりません。やっぱり中国絡みは大沢在昌の得意ネタですね。中国人同士の複雑な人間関係も相変わらずですが、丁寧に読むと事件の背景が鮮明になって、一段と面白くなりますよ。

李青珠(リ・チンジュ)という女性が、最初はあまりぱっとしない地味な女性のような書き方になっているのですが、読み進むにつれて大変魅力的な女性へと変貌していきます。

かりそめの夫である甲賀に、青珠が遂に身を委ねるシーンがあります。この小説で唯一のエロティックな場面です。微細な描写ではないのですが、妙に艶めかしく映像として残ります。得体が知れないと承知していながら、甲賀はやっぱり青珠に惚れてしまうのです。

この小説は講談社創業100周年記念として、2010年に刊行された作品です。

 

この本を読んでみてください係数 85/100


やぶへび (講談社文庫)

◆大沢 在昌

1956年愛知県名古屋市生まれ。

慶應義塾大学法学部中退。文化学院創作コース中退。

作品 「感傷の街角」「深夜曲馬団」「新宿鮫 無間人形」「心では重すぎる」「パンドラ・アイランド」「狼花 新宿鮫IX」「海と月の迷路」他多数

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