『恋』(小池真理子)_書評という名の読書感想文

『恋』小池 真理子 新潮文庫 2017年4月25日11刷


恋 (新潮文庫)

1972年冬。全国を震撼させた浅間山荘事件の蔭で、一人の女が引き起こした発砲事件。当時学生だった布美子は、大学助教授・片瀬と妻の雛子との奔放な結びつきに惹かれ、倒錯した関係に陥っていく。が、一人の青年の出現によって生じた軋みが三人の微妙な均衡に悲劇をもたらした・・・・・・・。全編を覆う官能と虚無感。その奥底に漂う静謐な熱情を綴り、小池文学の頂点を極めた直木賞受賞作。(新潮文庫)

学生運動華やかなりし時代にあって、一人の女子大生がした - 後にも先にもない、人生ただ一度の - “恋” についてが書いてあります。

その頃、20歳の学生だった布美子は、あろうことか、一度に2人の人間に “恋” をしたのでした。一人は、35歳になる大学の助教授・片瀬信太郎に。そしてもう一人は、信太郎の妻・雛子に。

その関係は明らかに倒錯したもので、しかし、布美子にとってそれは抜き差しならない恋の “前提” で、信太郎と雛子の夫婦にしても、それはその通りのことだったのでした。

狂おしくも、官能の日々が続きます。いつ果てるともない熱情に、布美子はこの関係が永遠に続けばいいと願うようになります。ところが、一人の青年が現れて、三人の関係は徐々に違うものへと変化していきます。

浅間山での籠城事件が丁度ピークを迎える頃、同じ軽井沢にある別荘で、それとは違う、もう一つの発砲事件が起こります。

1972年2月29日付朝刊は殊に重要であった。その前日の夕刻、軽井沢町の浅間山荘を舞台に繰り広げられていた連合赤軍と警官隊の銃撃戦に決着がつき、人質にされていた山荘管理人の女性が無事に救出されると共に、5名の男たちが逮捕されたからである。

後輩からは間もなくファックスが送られてきた。2月29日付朝刊の、怒号と非難が渦巻くような事件関連記事の蔭に隠れるようにして、一人の若い女の犯罪が報道されていることに気づいたのはその時だった。

女の名は矢野布美子。当時22歳。奇しくも、多数の死傷者を出した浅間山荘事件が終結した同じ日に、軽井沢の別荘地で男性を猟銃で射殺し、居合わせたもう一人の男性に重傷を負わせたのだという。(P17.18)

この時、この事件に対し一方ならぬ興味を持ったのがフリーライターの鳥飼三津彦で、彼は布美子についてのルポルタージュを書こうと思い立ちます。

矢野布美子が射殺したのは、大久保勝也という、当時25歳の男で、大久保は軽井沢にある電機店の従業員だった。重傷を負わせたのは、片瀬信太郎という35歳になる大学の助教授。恋愛感情のもつれによる犯行で、犯行現場には、片瀬信太郎の妻も居合わせた。

片瀬信太郎の妻は、二階堂忠志という元子爵の長女だった。矢野布美子は、信太郎と恋に落ちたわけだが、何故、射殺した相手が信太郎ではなく、ましてその妻でもなく、電機店の店員だったのか、はっきりしたことはなかなかわからなかった。(P19.20)

鳥飼が布美子と会って初めて話ができたのは、彼女が入院中の病院でのことでした。その時布美子は45歳。彼女は癌で、余命いくばくもない状態でいます。

最初布美子は、事件のことを取材したいという鳥飼の申し出を一切拒否します。鳥飼は繰り返し布美子のもとに足を運ぶのですが、彼女は固く口を閉ざしたまま何一つ話そうとしません。そのうち布美子の体調が悪化し、残された時間があとわずかであるのがわかってきます。

そんな頃のことです。ある日鳥飼の元に布美子から一通の手紙が届きます。読むとそこには、思いもかけぬ、在りし日の布美子の “真実” が綴られています。一度は彼女が終生語るまいと心に決めた、ある “恋” の顛末が語られています。

 

この本を読んでみてください係数 85/100


恋 (新潮文庫)

◆小池 真理子
1952年東京都中野区生まれ。
成蹊大学文学部英米文学科卒業。

作品 「妻の女友達」「欲望」「虹の彼方」「墓地を見おろす家」「無花果の森」「沈黙の人」他多数

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