『ジャズをかける店がどうも信用できないのだが・・・・・・。』(姫野 カオルコ)_書評という名の読書感想文

『ジャズをかける店がどうも信用できないのだが・・・・・・。』姫野 カオルコ 徳間文庫 2016年3月15日初刷

ファンデーションは女性全員をブスにするのに、すっぴんに大騒ぎするのはおかしい。「おまえといても男といるみたいだって言われる」 とボヤく女性に 「そんなことないよ」 と励ますべからず。「小悪魔」 は若い女性では意味がない。ジャズを流す店に垣間見える誤魔化しの法則。- 毎日の暮らしの中にはびこる思い込みに 「待った」 をかける、目からウロコのエッセイ集。(徳間文庫/『すっぴんは事件か? 』改題)

今回は、ちょっと “箸休め” 。そんな感じで読んでください。以下は、本文の前にある文章の全文です。それを紹介しようと決めました。そうするに値する文章だと思うからです。

それってヘンでは? - はじめに

先日、縫い物をしながらラジオを聞いていたら、「二十代のころは外出するとき、週に三回はすっぴんでした。三十代では週に一回になり、五十代の今ではすっぴんの日はゼロです」 という投稿があった。

このあと何かオチがあるのだと思って、針をチクチクさせながら待っていたのに、何とこの投稿はこれで終わりで、司会の男性アナは大笑いしている。しばらくすると世界中のリスナーから、共感する、しない、両方の意見がメールやFAXで寄せられてきた。

また先日、新幹線の三列席にすわっていたら、会社の同僚らしい隣席の女性二人 (見たところ、二十代後半&四十代前半) が、「××さんは前はすっぴんだったのに、〇〇さんとつきあうようになってから化粧が濃くなった」 と話していた。東京から京都に着くまで、二人は 「すっぴん」 にまつわる社内の人間関係についてえんえんと考察していた。

この二例がたまたま最近の事だったのでここに挙げたが、喫茶店でも公園のベンチでも、TVや雑誌でも、「すっぴんと化粧」 を対決させた議論は頻繁におこなわれている (一見、対決していたり、議論しているようには見えず、軽い話題に見える)。「化粧くらいしろよ」 とか 「化粧しなくなったら女も終わり」 とかいう発言も、よく耳にする。

でも・・・・・・・。
ヘンなのである。
この話題が、いかに盛り上がろうが、いかに多岐にわたろうが、「あること」 は覆されないのである。

「あること」 は、大岩のようにびくともしないのである。
「あること」 が第一歩になってしまっていて、第一歩が真実なのかどうかについては、疑う人や検証してみる人がいないのである。

では、「あること」 とは? それは 「化粧していたほうがきれいだ」 という信仰。
活発な対決議論は、すべては、化粧していたほうがきれいだという 「前提」 のもとにおこなわれているのだ。

しかし、この前提は真実なのか?
「本当に化粧していたほうがきれいかなあ? 」 と、第一歩自体について考え、首をかしげる人が、きっと島根県と宮城県にはいるはずだ。

「すっぴんvs.化粧」 にかぎらない。
たとえば、おいしくてステキだとガイドブックに紹介されていた飲食店に行ってみたとする。店内にはジャズが流れている。「なぜ、ここの店はジャズをかけることにしたのだろう? 」 と考える人が、きっと神奈川県と大阪府にはいるはずだ。

「あの人、サバサバしてていいわね」 なんてよく言うけど、「サバサバしているってどういうこと? 」 と考える人だって、きっと岐阜県と北海道にいてくださる。怒っているのではなく、まちがっていると正すのでもなく、「首をかしげている人」 が、たとえ数は少なくとも、全国にきっといると思うのである。

「小悪魔」 ということばから、若い娘ではなく、カブ (魔法使いサリー) やベロ (妖怪人間) の顔を連想する人が、かつて滋賀県にはいて、こうして書いているのだから。

すっぴんや化粧や美容に首をかしげるのではない。
「そういうことになっている」 について首をかしげる、これはそんなエッセイ集です。

※それと最後の 「小学生の夢、ベニスに記す」。中身を全部すっ飛ばしても、ここだけは読んでみてください。著者が大人になって初めてベニスに行き、偶然にもオノ・ヨーコと出会ったときの事が書いてあります。どんな話かといいますと - 文庫の表紙をよーく見てください。ファンの方ならすぐに気付くはずです。

この本を読んでみてください係数 85/100

◆姫野 カオルコ
1958年滋賀県甲賀市生まれ。
青山学院大学文学部日本文学科卒業。

作品 「受難」「整形美女」「ツ、イ、ラ、ク」「ひと呼んでミツコ」「昭和の犬」「純喫茶」「部長と池袋」「彼女は頭が悪いから」他多数

関連記事

『サリン/それぞれの証』(木村晋介)_書評という名の読書感想文

『サリン/それぞれの証』木村 晋介 角川文庫 2025年2月25日 初版発行 地下鉄サリン事

記事を読む

『すべての男は消耗品である』(村上龍)_書評という名の読書感想文

『すべての男は消耗品である』村上 龍 KKベストセラーズ 1987年8月1日初版 1987年と

記事を読む

『自由なサメと人間たちの夢』(渡辺優)_書評という名の読書感想文

『自由なサメと人間たちの夢』渡辺 優 集英社文庫 2019年1月25日第一刷 痛快

記事を読む

『地面師たち アノニマス』(新庄耕)_書評という名の読書感想文

『地面師たち アノニマス』新庄 耕 集英社文庫 2024年11月25日 第1刷 100億円と

記事を読む

『ブラックライダー』(東山彰良)_書評という名の読書感想文_その1

『ブラックライダー』(その1)東山 彰良 新潮文庫 2015年11月1日発行 ここは、地球の歴

記事を読む

『小説 学を喰らう虫』(北村守)_最近話題の一冊NO.2

『小説 学を喰らう虫』北村 守 現代書林 2019年11月20日初版 『小説 学を

記事を読む

『スモールワールズ』(一穂ミチ)_書評という名の読書感想文

『スモールワールズ』一穂 ミチ 講談社文庫 2023年10月13日 第1刷発行 2022年本

記事を読む

『銃とチョコレート 』(乙一)_書評という名の読書感想文

『銃とチョコレート』 乙一 講談社文庫 2016年7月15日第一刷 大富豪の家を狙い財宝を盗み続け

記事を読む

『さまよえる脳髄』(逢坂剛)_あなたは脳梁断裂という言葉をご存じだろうか。

『さまよえる脳髄』逢坂 剛 集英社文庫 2019年11月6日第5刷 なんということで

記事を読む

『最悪』(奥田英朗)_書評という名の読書感想文

『最悪』奥田 英朗 講談社 1999年2月18日第一刷 「最悪」の状況にハマってしまう3名の人物

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『八月の母』(早見和真)_書評という名の読書感想文

『八月の母』早見 和真 角川文庫 2025年6月25日 初版発行

『おまえレベルの話はしてない』(芦沢央)_書評という名の読書感想文

『おまえレベルの話はしてない』芦沢 央 河出書房新社 2025年9月

『絶縁病棟』(垣谷美雨)_書評という名の読書感想文

『絶縁病棟』垣谷 美雨 小学館文庫 2025年10月11日 初版第1

『木挽町のあだ討ち』(永井紗耶子)_書評という名の読書感想文

『木挽町のあだ討ち』永井 紗耶子 新潮文庫 2025年10月1日 発

『帰れない探偵』(柴崎友香)_書評という名の読書感想文

『帰れない探偵』柴崎 友香 講談社 2025年8月26日 第4刷発行

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑