『作家刑事毒島』(中山七里)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/10 『作家刑事毒島』(中山七里), 中山七里, 作家別(な行), 書評(さ行)

『作家刑事毒島』中山 七里 幻冬舎文庫 2018年10月10日初版

内容についての紹介文を、二つ掲載します。(文庫の裏に書いてある) まずはスタンダードな方から。

新人賞の選考に関わる編集者の刺殺死体が発見された。三人の作家志望が容疑者に浮上するも捜査は難航。警視庁捜査一課の新人刑事・高千穂明日香の前に現れた助っ人は、人気ミステリ作家兼刑事技能指導員の毒島真理。冴え渡る推理と鋭い舌鋒で犯人を追い詰めていくが・・・・・・・。人間の業と出版業界の闇が暴かれる、痛快・ノンストップミステリ!

二つ目。こちらは幻冬舎ウェブサイトにある単行本出版時のもの。文庫と比べより詳細に、毒島をはじめ登場する人物らのキャラクターがより饒舌に書いてあります。

この男、前代未聞のトンデモ作家か。はたまた推理冴え渡る名刑事か!?  中山史上最毒・出版業界激震必至の本格ミステリ!  殺人事件解決のアドバイスを仰ごうと神保町の書斎を訪れた刑事・明日香を迎えたのは流行作家の毒島。虫も殺さぬような温和な笑顔の持ち主は、性格の歪んだ皮肉屋だった。捜査過程で浮かび上がってきたのは、巨匠病にかかった新人作家、手段を選ばずヒット作を連発する編集者、ストーカーまがいの熱狂的な読者。ついには毒島本人が容疑者に!?  新・爆笑小説!

毒島の仕事場は神田神保町の中にあった。大型書店と古書店が立ち並ぶ間を埋めるように、昔ながらの飲食店が点在している。その中にあってひときわ古びた外観の天ぷら屋の二階がそうだと、明日香は聞かされていた。(P31)

毒の島と書いてぶすじま、名は真理(しんり) - 毒島真理。二年前に新人賞を受賞してデビュー、現在売出し中のミステリ作家である毒島は、元刑事。わけあって一度は退官したものの、すぐに “刑事技能指導員” として再雇用されています。

彼は “刑事としては” とびきり優秀な人物で、それは元同僚の誰もが認めるところ。ところがその元同僚の、これまた誰もが彼を大の苦手としています。ある理由がもとで、滅多なことで関わろうとはしません。

閑話休題。

ある編集者の刺殺死体が発見されます。そこで指名されたのが、新米刑事・高千穂明日香でした。。明日香はここで初めて作家兼刑事の毒島真理と出会うことになります。皆が尻込みする中、出版業界に滅法強い刑事がいると、彼女は半ば強引に 「参考意見を聞いてこい」 と命じられたのでした。

(果たして、それが彼女の今後のキャリアにとって真に有益であったのか。はたまた、知らずにおくべき災いでしかなかったのか・・・・・・・)

そこで明日香は、おのずと毒島の “正体” を知ることになります。被疑者との面談に際し、毒島がする容赦ない詰問の連続に、(一瞬とはいえ) 明日香は気が遠くなります。

彼女は何も言えません。毒島が言う言葉以上に、被疑者を追い込む言葉が見当たらないからです。被疑者もまた言葉を失くします。それを見透かしたかのように、毒島がする詰問は、さらに相手の心を抉ります。

最初の事件以降、二人は(出版業界絡みの)事件が起こると召集されるようになります。その度明日香は、毒島の舌鋒鋭い詰問の聞き役となり、時に眩暈がしたりもするのですが、事件は概ね毒島が推理した通りの経過を辿ります。

彼はとびきり優秀で、実は被疑者と直接出会う前、事前情報のみを知る段階で、大方誰が犯人かの目星を付けています。後は裏付けを取るだけなのですが、それでも被疑者と面談します。なぜなら、毒島は、要は被疑者を “いたぶりたい” だけなのです。

第一話 ワナビの心理試験
第二話 編集者は偏執者
第三話 賞は獲ってはみたものの
第四話 愛瀆者
第五話 原作とドラマの間には深くて暗い川がある

この本を読んでみてください係数 85/100

◆中山 七里
1961年岐阜県生まれ。
花園大学文学部国文科卒業。

作品 「切り裂きジャックの告白」「贖罪の奏鳴曲」「追憶の夜想曲」「七色の毒」「さよならドビュッシー」「連続殺人鬼カエル男」「ヒポクラテスの誓い」他多数

関連記事

『じっと手を見る』(窪美澄)_自分の弱さ。人生の苦さ。

『じっと手を見る』窪 美澄 幻冬舎文庫 2020年4月10日初版 物語の舞台は、富

記事を読む

『猿の見る夢』(桐野夏生)_書評という名の読書感想文

『猿の見る夢』桐野 夏生 講談社 2016年8月8日第一刷 薄井正明、59歳。元大手銀行勤務で、出

記事を読む

『あおい』(西加奈子)_書評という名の読書感想文

『あおい』西 加奈子 小学館文庫 2007年6月11日初版 西加奈子のデビュー作です。「あお

記事を読む

『センセイの鞄』(川上弘美)_書評という名の読書感想文

『センセイの鞄』川上 弘美 平凡社 2001年6月25日初版第一刷 ひとり通いの居酒屋で37歳

記事を読む

『空飛ぶタイヤ』(池井戸潤)_書評という名の読書感想文

『空飛ぶタイヤ』 池井戸 潤 実業之日本社 2008年8月10日第一刷 池井戸潤を知らない人でも

記事を読む

『ジウⅢ 新世界秩序 NWO 』(誉田哲也)_書評という名の読書感想文

『ジウⅢ 新世界秩序 NWO 』誉田 哲也 中公文庫 2021年3月25日 改版発行 シリー

記事を読む

『絶唱』(湊かなえ)_書評という名の読書感想文

『絶唱』湊 かなえ 新潮文庫 2019年7月1日発行 悲しみしかないと、思っていた。

記事を読む

『八月六日上々天氣』(長野まゆみ)_書評という名の読書感想文

『八月六日上々天氣』長野 まゆみ 河出文庫 2011年7月10日初版 昭和20年8月6日、広島は雲

記事を読む

『死神の浮力』(伊坂幸太郎)_書評という名の読書感想文

『死神の浮力』伊坂 幸太郎 文春文庫 2025年2月10日 新装版第1刷 累計150万部大人

記事を読む

『過ぎ去りし王国の城』(宮部みゆき)_書評という名の読書感想文

『過ぎ去りし王国の城』宮部 みゆき 角川文庫 2018年6月25日初版 中学3年の尾垣真が拾った中

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『アイドルだった君へ』(小林早代子)_書評という名の読書感想文

『アイドルだった君へ』小林 早代子 新潮文庫 2025年3月1日 発

『現代生活独習ノート』(津村記久子)_書評という名の読書感想文

『現代生活独習ノート』津村 記久子 講談社文庫 2025年5月15日

『受け手のいない祈り』(朝比奈秋)_書評という名の読書感想文

『受け手のいない祈り』朝比奈 秋 新潮社 2025年3月25日 発行

『蛇行する月 』(桜木紫乃)_書評という名の読書感想文

『蛇行する月 』桜木 紫乃 双葉文庫 2025年1月27日 第7刷発

『でっちあげ/福岡 「殺人教師」 事件の真相 』(福田ますみ)_書評という名の読書感想文

『でっちあげ/福岡 「殺人教師」 事件の真相 』福田 ますみ 新潮文

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑