『自由なサメと人間たちの夢』(渡辺優)_書評という名の読書感想文

『自由なサメと人間たちの夢』渡辺 優 集英社文庫 2019年1月25日第一刷

自由なサメと人間たちの夢 (集英社文庫)

痛快な毒気をはらんだ物語センスが炸裂! 自殺未遂を繰り返す女が、入院先の病院で決意する最後の日の顛末とは -「ラスト・デイ」 冴えない男が事故で手を切断。新型の義手で人生を一発逆転する力を手に入れ -「ロボット・アーム」 メンヘラ気味のキャバ嬢のたったひとつの生きがいは、サメを飼うことだった -「サメの話」 新感覚フィクション、怒涛の全7編。(「BOOK」データベースより)

[ラスト・デイ]

さて、私は死にたい。本当に死にたい。心の底から死にたい。
そんなことを言うと世の中には、じゃあ死ねば? とか言ってくる思いやりの欠如したクズ共がいる。クズ共め。しかし私は死なない。もちろん死なない。すると想像力の欠如したクズ共は、なんだ本当は死にたくなんかないんじゃないか、とか言ってくる。まったく愚かしい限りである。私が死なないのは、死にたくないからではない。一度しか死ねないからもったいないのだ。
(P9)

宮村朋香。31歳、主婦。彼女が抱く希死念慮 (死に憧れ、死にたいと強く望む気持ち) は重篤で、決してふりや演技ではありません。

心から死にたいと願い、命を犠牲にしてでも死にたいくらい死が大好きな彼女は、故に、そう易々と死ぬなどということはもったいなくてとてもできません。彼女は、わざとなんちゃって自殺未遂を繰り返し、周囲をすっかりうんざりさせています。

彼女は現在、総合病院の精神科、解放病棟に入院しています。初めてのことではありません。部屋は四畳ほどの個室で、彼女はここがとても気に入っています。ベッドとチェスト。壁紙は白で、床は茶色のフローリング。縦にすりガラスの入ったクリーム色のドア。ドアノブはシルバーの丸いタイプで、そこにワイシャツを引っ掛けて首吊りを試みたのは11日前のことでした。

あれは私の歴代自殺未遂のなかでももっともしょうもない部類に入るものであった。首にうっすら赤い跡がつき、長期入院中のミカちゃんだけが心配してる風にコメントをくれたが、看護師共はみな総スルーだった。(P11)

彼女がまだ “本気” ではないのを、皆は薄々ながら勘付いています。そして彼女も、自分が本物(の患者)ではなく偽物であるということを、よく承知しています。(何を以て偽物と判断するかはともかくも) それがため、彼女は滅多なことでは本心を晒しません。

私が偽物であることは院内の共通認識となりつつあり、基本的に放っておくスタイルが取られているくさい。食事が心身の健康を表す大切なバロメーターであることは周知の事実だが、私が二、三食抜いたくらいでは誰も真剣に取り合ってくれない。(P15.16)

「死」 をテーマにした話にしてはいやに軽い - と思わせて、実はこの話には “裏” があります。死ぬぞ、死ぬぞと見せかけて、ここら辺りまでは、いわばこれから先に続く話の前振り - 、序盤にしか過ぎません。

彼女がこの日と決めて臨んだ退院の日、”それ” は決行されます。望み通りではなかったものの、彼女は予定通りに “それ” を実行してみせます。あなたには “それ” が何かがわかるでしょうか? 最後になってやっと明かされる、彼女はある事情を抱えています。

[収録作品]
1.ラスト・デイ
2.ロボット・アーム
3.夏の眠り
4.彼女の中の絵
5.虫の眠り
6.サメの話
7.水槽を出たサメ  以上7作品。(太字は私のおススメ)

この本を読んでみてください係数  80/100

自由なサメと人間たちの夢 (集英社文庫)

◆渡辺 優
1987年宮城県仙台市生まれ。
宮城学院女子大学国際文化学科卒業。

作品 2015年 「ラメルノエリキサ」 で第28回小説すばる新人賞を受賞し、デビュー。他に「地下にうごめく星」

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