『あちらにいる鬼』(井上荒野)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/09 『あちらにいる鬼』(井上荒野), 井上荒野, 作家別(あ行), 書評(あ行)

『あちらにいる鬼』井上 荒野 朝日新聞出版 2019年2月28日第1刷

小説家の父、美しい母、そして瀬戸内寂聴をモデルに、〈書くこと〉 と情愛によって貫かれた三人の 〈特別な関係〉 を長女である著者が描き切る、正真正銘の問題作。作家生活30周年及び朝日新聞出版10周年記念作品。(朝日新聞出版)

普通ではまずあり得ない世界のことがあります。素直な感想を言えば、事と次第ではこんなことがまかり通るのだ - ということです。

男にせよ、女にせよ、です。いろいろ理屈はありますが、二人は逢瀬を重ね、男は家庭を顧みず、女は世間を顧みません。思うがままに関係を続けます。

男の妻は、どんな思いでいたのでしょう。男と妻の間に生まれた娘にすれば、父は、母は、そして父の不倫相手はそれぞれに、どんなふうにみえたのでしょう。

幸か不幸か、娘はやがて小説を書くようになります。父や母と同様に。父の不倫相手ともまた同様に。

※言わずもがなですが、小説家の父というのが井上光晴で、その不倫相手が同じ小説家の瀬戸内寂聴をモデルにしています。(作中では井上光晴が白木篤郎、瀬戸内寂聴が長内みはるという名前で登場します)

篤郎と妻・笙子の間に生まれた長女・海里が、著者の井上荒野その人です。井上光晴と瀬戸内寂聴(俗名瀬戸内晴美)は当時から著名な小説家で、その上光晴の妻も、実は小説を書いていたのだそうです。

ひょっとすると、何も知らずに読むのがいいのかもしれません。いかにも可愛げなおばあちゃん顔をした今の瀬戸内寂聴さんを思い浮かべると、もういけません。不倫中の 「みはる」 が、その姿と重なって仕方なくなくなります。

この本を読んでみてください係数 80/100

◆井上 荒野
1961年東京都生まれ。
成蹊大学文学部英米文学科卒業。

作品 「潤一」「虫娘」「ほろびぬ姫」「グラジオラスの耳」「切羽へ」「つやのよる」「誰かの木琴」「ママがやった」「結婚」「赤へ」「その話は今日はやめておきましょう」他多数

関連記事

『人間タワー』(朝比奈あすか)_書評という名の読書感想文

『人間タワー』朝比奈 あすか 文春文庫 2020年11月10日第1刷 桜丘小学校の

記事を読む

『たそがれどきに見つけたもの』(朝倉かすみ)_書評という名の読書感想文

『たそがれどきに見つけたもの』朝倉 かすみ 講談社文庫 2019年10月16日第1刷

記事を読む

『おれたちの歌をうたえ』(呉勝浩)_書評という名の読書感想文

『おれたちの歌をうたえ』呉 勝浩 文春文庫 2023年8月10日第1刷 四人の少年と、ひとり

記事を読む

『オーブランの少女』(深緑野分)_書評という名の読書感想文

『オーブランの少女』深緑 野分 創元推理文庫 2019年6月21日 3刷 互いの痛みがわたし

記事を読む

『想像ラジオ』(いとうせいこう)_書評という名の読書感想文

『想像ラジオ』いとう せいこう 河出文庫 2015年3月11日初版 この物語は、2011年3

記事を読む

『平場の月』(朝倉かすみ)_書評という名の読書感想文

『平場の月』朝倉 かすみ 光文社 2018年12月20日初版 五十歳の再会 『平

記事を読む

『あの家に暮らす四人の女』(三浦しおん)_書評という名の読書感想文

『あの家に暮らす四人の女』三浦 しおん 中公文庫 2018年9月15日7刷 ここは杉並の古びた洋館

記事を読む

『くちなし』(彩瀬まる)_愛なんて言葉がなければよかったのに。

『くちなし』彩瀬 まる 文春文庫 2020年4月10日第1刷 別れた男の片腕と暮ら

記事を読む

『空飛ぶタイヤ』(池井戸潤)_書評という名の読書感想文

『空飛ぶタイヤ』 池井戸 潤 実業之日本社 2008年8月10日第一刷 池井戸潤を知らない人でも

記事を読む

『その話は今日はやめておきましょう』(井上荒野)_書評という名の読書感想文

『その話は今日はやめておきましょう』井上 荒野 毎日新聞出版 2018年5月25日発行 定年後の誤

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『滅私』(羽田圭介)_書評という名の読書感想文

『滅私』羽田 圭介 新潮文庫 2024年8月1日 発行 「楽っ

『あめりかむら』(石田千)_書評という名の読書感想文

『あめりかむら』石田 千 新潮文庫 2024年8月1日 発行

『インドラネット』(桐野夏生)_書評という名の読書感想文

『インドラネット』桐野 夏生 角川文庫 2024年7月25日 初版発

『ブルース Red 』(桜木紫乃)_書評という名の読書感想文

『ブルース Red 』桜木 紫乃 文春文庫 2024年8月10日 第

『境界線』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『境界線』中山 七里 宝島社文庫 2024年8月19日 第1刷発行

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑