『ゼツメツ少年』(重松清)_書評という名の読書感想文

『ゼツメツ少年』重松 清 新潮文庫 2016年7月1日発行

ゼツメツ少年 (新潮文庫)

「センセイ、僕たちを助けてください」 ある小説家のもとに、手紙が届いた。送り主である中学二年のタケシと、小学五年の男子リュウに女子のジュン。学校や家で居場所をなくした三人を、「物語」 の中に隠してほしい。その不思議な願いに応えて、彼らのお話を綴り始めたセンセイだったが - 。想像力の奇跡を信じ、哀しみの先にある光を探す、驚きと感涙の長編。毎日出版文化賞受賞。(新潮文庫)

パキケタス・アトッキ、アンブロケタス・ナタンス、ロドケタス・カスラニ、ドルドン・アトロックス、バシロサウルス・セトイデス・・・・・・・。
舌を噛みそうな原始クジラの名前をすらすらと口にしたタケシは、
昔のクジラは脚があったんだと言った。

だって、クジラはもともと陸に棲んでたんだから
知らなかった。生き物はすべて海で生まれ、そこから陸に上がったのが他の哺乳類や爬虫類や鳥類などで、クジラはずっと海に残ったままの生き物なんだと思っていた。

だったら、クジラって、最初は海で生まれて、それから陸に上がって・・・・・・・
また戻ったんだよ、海に
なんで?
タケシはまたしばらく、うーん、と考え込んでから答えた。

俺の考えだけど・・・・・・・負けたんだよ、クジラの祖先は
負けたって、誰に?
他の動物に。このまま陸にいても、他の動物に食べ物を取られちゃって生きていけないから、強い動物のいない海に逃げたんじゃないかって、俺、ヤマ勘だけど、思ってる

タケシはそう言って、リュウの知らない言葉をまた口にした。

テーチス海 - 。
ずっと昔、インドは島だった。ユーラシア大陸とインドの間にあった海は、テーチス海と名付けられている。クジラの祖先は、テーチス海の岸辺から海に帰っていったのだ。

どんな気持ちだったんだろうあ、せっかく何万年とか何十万年もかけて海から陸に上がってきたのに、また海に帰っていくのって・・・・・・・悔しかったのかなあ、それとも、ほんとうのふるさとに帰れてうれしかったのかなあ・・・・・・・

べつになにも考えてないんじゃないの、とリュウが笑うと、タケシはちょっと怒った顔になった。
大事なのは想像力だよ
おまえも想像してみろよ、と言われた。(第一章 「テーチス海の岸辺」 より)

合宿を主催したのは 『かくれんぼの会』 というサークルでした。いじめなどが原因で学校を長期間休みつづけている子どもたちと、その親を支援する団体です。

二泊三日の合宿に参加すると決めた時、既にタケシは 「家出する」 ことを決意しています。中学二年生の夏休みのことです。

タケシは、そこで二人の小学生と出会うことになります。そして彼らこそが、タケシが探し出そうとしていた “仲間” でした。共に小学五年生のリュウとジュンは、タケシが思う仲間の条件に、みごとに一致していたのでした。

条件は、ただ一つ - 。「ゼツメツしたくないって思ってるヤツ」 ということでした。

三人は同じ思いを持っている - 会うとタケシには、それがすぐにわかります。

リュウは、そのときタケシが何を言っているのかさっぱりわかりません。なぜかはわからないのですが、妙に胸がドキドキします。

その頃リュウは、学校でいじめに遭っています。ジュンはどこにも居場所がありません。

タケシには尊敬できる兄がおり、しかしタケシが思うほどには兄のトオルはタケシのことが好きではありません。トオルだけではなく、タケシは両親からもひどく蔑ろに扱われています。

※甘くみてはいけません。この物語には壮大な仕掛けが施してあります。三人の少年少女の他に、物語には彼らと等しく重要な何人もの人物が登場します。読むうち、あなたはちょっと “まごつく” かもしれません。大事なのは想像力です。

この本を読んでみてください係数 85/100

ゼツメツ少年 (新潮文庫)

◆重松 清
1963年岡山県津山市生まれ。
早稲田大学教育学部国語国文学科卒業。

作品「定年ゴジラ」「カカシの夏休み」「ビタミンF」「十字架」「流星ワゴン」「疾走」「カシオペアの丘で」「ナイフ」「星のかけら」「また次の春へ」他多数

関連記事

『憧れの作家は人間じゃありませんでした』(澤村御影)_書評という名の読書感想文

『憧れの作家は人間じゃありませんでした』澤村 御影 角川文庫 2017年4月25日初版 憧れの

記事を読む

『雪の断章』(佐々木丸美)_書評という名の読書感想文

『雪の断章』佐々木 丸美 創元推理文庫 2008年12月26日初版 雪の断章 (創元推理文庫)

記事を読む

『贖罪の奏鳴曲(ソナタ)』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『贖罪の奏鳴曲(ソナタ)』中山 七里 講談社文庫 2013年11月15日第一刷 贖罪の奏鳴曲

記事を読む

『絶叫委員会』(穂村弘)_書評という名の読書感想文

『絶叫委員会』穂村 弘 ちくま文庫 2013年6月10日第一刷 絶叫委員会 (ちくま文庫)

記事を読む

『誰もいない夜に咲く』(桜木紫乃)_書評という名の読書感想文

『誰もいない夜に咲く』桜木 紫乃 角川文庫 2013年1月25日初版 誰もいない夜に咲く (角

記事を読む

『青春ぱんだバンド』(瀧上耕)_書評という名の読書感想文

『青春ぱんだバンド』瀧上 耕 小学館文庫 2016年5月12日初版 青春ぱんだバンド (小学館

記事を読む

『政治的に正しい警察小説』(葉真中顕)_書評という名の読書感想文

『政治的に正しい警察小説』葉真中 顕 小学館文庫 2017年10月11日初版 政治的に正しい

記事を読む

『三千円の使いかた』(原田ひ香)_書評という名の読書感想文

『三千円の使いかた』原田 ひ香 中公文庫 2021年8月25日初版 三千円の使いかた (中公

記事を読む

『セイレーンの懺悔』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『セイレーンの懺悔』中山 七里 小学館文庫 2020年8月10日初版 セイレーンの懺悔 (小

記事を読む

『余命二億円』(周防柳)_書評という名の読書感想文

『余命二億円』周防 柳 角川文庫 2019年3月25日初版 余命二億円 (角川文庫)

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。

『カインの傲慢/刑事犬養隼人』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『カインの傲慢/刑事犬養隼人』中山 七里 角川文庫 2022年6月2

『カゲロボ』(木皿泉)_書評という名の読書感想文

『カゲロボ』木皿 泉 新潮文庫 2022年6月1日発行

『あたしたち、海へ』(井上荒野)_書評という名の読書感想文

『あたしたち、海へ』井上 荒野 新潮文庫 2022年6月1日発行

『白昼夢の森の少女』(恒川光太郎)_書評という名の読書感想文

『白昼夢の森の少女』恒川 光太郎 角川ホラー文庫 2022年5月25

『あなたが私を竹槍で突き殺す前に』(李龍徳)_書評という名の読書感想文

『あなたが私を竹槍で突き殺す前に』李 龍徳 河出書房 2022年3月

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑