『泣いたらアカンで通天閣』(坂井希久子)_書評という名の読書感想文
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最終更新日:2024/01/09
『泣いたらアカンで通天閣』(坂井希久子), 作家別(さ行), 坂井希久子, 書評(な行)
『泣いたらアカンで通天閣』坂井 希久子 祥伝社文庫 2015年7月30日初版

大阪・新世界のどん詰まりに店を構える 「ラーメン味よし」。放蕩親父ゲンコの作るラーメンはえらく不味くて閑古鳥が鳴いている。しっかり者の一人娘センコは頭を抱える日々だ。最近、ぼんやりしているおばあやんも気にかかる。そんなある日、幼馴染の質屋の息子カメヤが東京から帰って来て・・・・・・・。下町商店街に息づく、鬱陶しいけどあったかい、とびっきりの浪速の人情物語。(祥伝社文庫)
これは大阪の下町商店街に店をかまえる 「ラーメン味よし」 の一人娘センコを主人公にした物語だ。通天閣より南側は近年のレトロブームに乗って串カツの街として生まれ変わり大賑わいだが、「ラーメン味よし」 のある北詰通商店街は新世界の北の端っこ。住民以外はほとんど通らない横町で、シャッターが目立つ寂しげな一角だ。
センコの母は、センコが小学三年生のときに交通事故で亡くなり、その後は父親そしておばあちゃんとの三人暮らし。この父親が問題で、しょっちゅう店を放って遊びに行ってしまう。センコは商事会社で働いているので、その間の店番はおばあちゃんだ。ところがこのおばあちゃん、反応が鈍くて客がきてもなかなか立ち上がらず、どうにかラーメンを作っても麺は茹ですぎスープは冷めきり、ただでさえまずいと評判の店なのに客足はますます遠のいていく。
二十六歳のセンコは十歳年上の上司、細野と付き合っている。問題は、大阪に単身赴任の細野には東京に妻子がいることだ。そういうセンコの日々が描かれていく。
彼女はヘコむと通天閣にのぼる。それが幼いときからの彼女の癖だ。高校受験に失敗したときも、初恋の相手にふられたときも、そして母親が死んだときも、通天閣にのぼって一人で泣いた。(解説より抜粋 by北上次郎)
賢悟の娘・千子は、本当は、千子と書いて 「ちね」 と読みます。しかし、「ちね」 と呼ばれた試しがありません。
凡そ二人をよく知る人は、賢悟のことは 「ゲンコ」 と、一人娘の千子のことは 「センコ」 と呼びます。父の賢悟もまた、千子を 「センコ」 と呼び、センコはセンコで、父である賢悟を 「ゲンコ」 と呼んではばかりません。
父・賢悟は、身長が百九十近くもある大男で短気でガサツ、おまけに顔がゲンコツみたいにゴツゴツしています。ゆえに 「ゲンコ」 と呼ばれています。
実は、 “ラーメン味よしの味” は、亡くなった賢悟の妻・芙由子の手になるものでした。先代の味を引き継いで、あっさりした中に鳥ダシの風味が濃く生きた人気のラーメンだったのですが、妻亡きあと、賢悟は未だその味を再現できずにいます。
見る間に評判を落とした店の内情は聞くも無残な状態で、千子が貰う月々の給料からの補てんがあればこそ、かろうじて経営が成り立っています。千子はそれを内緒にし、賢悟はそれに気付きもしません。
千子は商事会社に勤めており、職場の十歳上の上司、細野と付き合っています。ところがこの細野という男、大阪には単身赴任で、もといた東京には妻子がいます。いずれ別れると知りながら、それを承知の上で、なおも千子は細野のことを忘れることができません。
これだけ書くと、如何にも辛い話に思われるかもしれません。ところがどっこい、この物語にはそんな空気は微塵も見当たりません。昔よくみた “新喜劇” みたいに滑稽で、時にほろっとし、さらに、ゲンコとセンコの未来には思わぬ奇跡が起こります。
賢悟54歳、千子26歳の頃のことです。
この本を読んでみてください係数 85/100

◆坂井 希久子
1977年和歌山県生まれ。
同志社女子大学学芸学部日本語日本文学科卒業。
作品 「虫のいどころ」「ヒーローインタビュー」「虹猫喫茶店」「ただいまが、聞こえない」「ウィメンズマラソン」「こじれたふたり」他
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