『ボダ子』(赤松利市)_書評という名の読書感想文

『ボダ子』赤松 利市 新潮社 2019年4月20日発行

ボダ子

あらゆる共感を拒絶する、極限を生きた 「ある家族」 の肖像

バブルのあぶく銭を掴み、順風満帆に過ごしてきたはずだった。
大西浩平の人生の歯車が狂い始めたのは、娘が中学校に入学して間もなくのこと。
愛する我が子は境界性人格障害 (ボーダー) と診断された・・・・・・・。

震災を機に、ビジネスは破綻。東北で土木作業員へと転じる。
極寒の中での過酷な労働環境、同僚の苛烈ないじめ、迫り来る貧困 - 。
チキショウ、金だ! 金だ! 絶対正義の金を握るしかない!

再起を賭し、ある事業の実現へ奔走する浩平。
しかし、待ち受けていたのは
逃れ難き運命の悪意だった。(新潮社)

娘はボダ子と呼ばれた。ボーダーだからボダ子。
ボーダーとは境界性人格障害と呼ばれる深刻な精神障害で、それは成長とともに軽快する障害だが、その一方で、成人までの自殺率が十パーセントを超えるという。またリストカットをはじめとする自傷行為も繰り返す。

三度目の結婚で授かった娘だった。

冒頭、物語は如何にも “ボダ子” が主人公であるかのように始まってゆきます。しかし、そうではありません。正しくは 「恵子」 という名前がありながら、ボダ子が “ボダ子” であり続けねばならなかった彼女の、その背景にこそまず目を向けるべきだろうと。

読んだあなたは、きっと思うはずです。これは一体、どこまでが真実で、どこからがフィクションなんだろう? - と。

そして、いたたまれなくなるに違いありません。せめても、そんな少女は何処にもおらず、故意に作った架空の人物なんだと、そう願わずにはいられなくなります。それ程に、救いのない話ばかりが書いてあります。

最低の上に最低を上塗りしたようなゲスでクズな男の浩平は、それでも、ボダ子が唯一頼みとする人物です。母・悦子と別れ、父と二人で暮らした僅かばかり間のことを、彼女はいつの、どの時よりも楽しかったと言います。

一人娘のボダ子のことを、浩平は誰よりも愛していました。それは事実です。ところが、にもかかわらず、浩平は彼女の内なる葛藤を結局のところ見て見ぬふりを通します。それがボダ子にとってどれほど辛いことであったかを知るや知らずや・・・・・・・

逃げてばかりの父と、端から我が子を我が子とも思わない母の間で、ボダ子が “ボダ子” であり続けねばならなかった運命の、その果てのなさを思うとき、一体私は何を読まされているのだろうと。

たとえ、物語の主体が父・浩平の人生にあったとしても、それを差し置いて、なお “ボダ子” の慟哭こそを、強くイメージすべきだろうと。

境界性人格障害 ボーダー)]とは -
不安定で激しい対人関係を特徴とする障害。青年期以降に表面化することが多く、女性の方が多い。相手の些細な動作や態度から、見捨てられたと感じ、怒り出したりパニック状態になる。また親子関係などでは依存と攻撃が突然入れ替わり、周囲の者は巻き込まれていく。衝動的・自己破壊的な行為をしがちで、リスト・カットや大量服薬などの自傷行為、暴飲暴食、行きずりの性行動などが見られることもある。その背景には、慢性的な強い空虚感や孤独感がある。心理療法においても、不安定な人間関係が再現されて困難に陥ることも多いが、専門家との長期にわたる継続的な関わりが意味を持つ。(田中信市/東京国際大学教授 2007年/朝日新聞 「知恵蔵」より)

この本を読んでみてください係数 85/100

ボダ子

◆赤松 利市
1956年香川県生まれ。

作品 「藻屑蟹」「鯖」「らんちう」

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