『今昔百鬼拾遺 河童』(京極夏彦)_書評という名の読書感想文

『今昔百鬼拾遺 河童』京極 夏彦 角川文庫 2019年6月15日再版

今昔百鬼拾遺 河童 (角川文庫)

昭和29年、夏。複雑に蛇行する夷隅川水系に、次々と奇妙な水死体が浮かんだ。3体目発見の報せを受けた科学雑誌 「稀譚月報」 の記者・中禅寺敦子は、薔薇十字探偵社の益田が調査中の模造宝石事件との関連を探るべく現地に向かった。第一発見者の女学生・呉美由紀、妖怪研究家・多々良勝五郎らと共に怪事件の謎に迫るが - 。山奥を流れる、美しく澄んだ川で巻き起こった惨劇と悲劇の真相とは。百鬼夜行シリーズ待望の長編! (角川文庫)

冒頭、それはそれは延々と、河童に関する女学生たちの他愛の無い会話を聞かされることになります。約50ページの間続き、漸く本来の物語 - 奇怪極まる連続水死事件へと繋がってゆきます。

何て品のないお話なの -
そうとも思わない。
呉美由紀は、別に何とも思わなかったのだけれど、橋本佳奈は顔を顰めた。そう云う謂い伝えなんですもの仕方ないですわと市成裕美は云う。

紫色のお尻が好(い)いんですってと裕美は云う。

土曜の午後、美由紀達は校庭のベンチに腰を下ろして、他愛もない会話を交わしている。
能くある光景ではあるのだろうが、話題にしているのは凡そ世間の人が考えるだろう女学生らしいそれではない。

美由紀達は選りに選って 河童 の話をしている。

馬を引きますでしょ と佳奈は云う。
馬を引っ張るのですわと佳奈は云った。馬は大きいだろうに。美由紀の認識だと河童は子供くらいの大きさなのだが、力があるのか。

「岩手では引きません? 宮崎では引きますの」
「それは引きますわ。引くって、馬を水に引き込むと云うことですわね? 河童はそうするものですわ」

河童は胡瓜が好きなのではなくって?
「そうそう。胡瓜や、茄子が好きなの」
「河童って、餡ころ餅好きじゃない? 」

後は、人間の臓物だと聞きましたけど・・・・・・・」
「臓物って」
そこですわと清花が云った。

「ではお尋きしますわ。佳奈さん、呼び方は知りませんけども、九州の河童はそれをどうやって食べますの?
「河童は、お腹を割いて臓物を抜いたりするのかしら? 九州では」
「そんな話は聞きませんけど」
なら、お尻 - ですわよね?

裕美はどこか勝ち誇ったような口調で云った。
「最初に云ったじゃない? お尻から抜くんですわ」
そうなのよ河童はお尻が好きなのよと裕美が云った。

(笑っている途中で、美由紀は突如思い出す)

「あ、そうだ、千葉にも河童いるよ」
「・・・・・・・そう云えば少し離れた村に神社があった。親戚が住んでるの。あれは慥(たし)か河童神社」 *正しくは「河伯」神社。それを美由紀は「河童」と勘違いしています。

総元村(ふさもとむら) - だったと思う。
隣村と云えば隣村なのだろうが、かなり遠かった。慥か川もあったから、河童もいたのかもしれない。否、河童の謂い伝えがあった、とするべきか。

(この期に及び、美由紀の記憶はどんどん遡る)

とにもかくにも、お尻だ - と。元来河童はお尻が好きで、食べるのは内臓ではなく、尻子玉だと。尻子玉とは何なのか、それは誰にもわからない。但し、尻子玉を抜かれると、人は腑抜けになると云う。

水の神様、龍王様。 河伯神社。 利根川に夷隅川 ・・・・・・・ ここいら辺で漸く女学生らは、河童の話の前に、本来話題にしていたことを思い出します。最近頻繁に現れるという破廉恥漢のことでした。

ここひと月半程の間、浅草を中心にして覗き魔が横行しており、どう云う訳か被害者は皆、男性なのでした。風呂場や脱衣場を覗かれたのも、凡て成年男子 - 否、中年男性ばかりでした。最初は女性と間違えたのではないかとも言われたのですが、女性からの被害届は一向に出ません。男ばかりを狙っているとしか思えないのです。

但し、だからどうだ、という話ではあります。(続く)

この本を読んでみてください係数 85/100

今昔百鬼拾遺 河童 (角川文庫)

◆京極 夏彦
1963年北海道小樽市生まれ。
北海道倶知安高等学校卒業。専修学校桑沢デザイン研究所中退。

作品 「鉄鼠の檻」「魍魎の匣」「嗤う伊右衛門」「百鬼夜行-陰」「覘き小平次」「後巷説百物語」「邪魅の雫」「西巷説百物語」他多数

関連記事

『ニュータウンは黄昏れて』(垣谷美雨)_書評という名の読書感想文

『ニュータウンは黄昏れて』垣谷 美雨 新潮文庫 2015年7月1日発行 ニュータウンは黄昏れて

記事を読む

『FLY,DADDY,FLY』(金城一紀)_書評という名の読書感想文

『FLY,DADDY,FLY』金城 一紀 講談社 2003年1月31日第一刷 フライ,ダディ,

記事を読む

『続々・ヒーローズ (株)!!! 』(北川恵海)_仕事や人生に悩む若いあなたに

『続々・ヒーローズ (株)!!! 』北川 恵海 メディアワークス文庫 2019年12月25日初版

記事を読む

『ねこまたのおばばと物の怪たち』(香月日輪)_書評という名の読書感想文

『ねこまたのおばばと物の怪たち』香月 日輪 角川文庫 2014年12月25日初版 ねこまたのお

記事を読む

『海よりもまだ深く』(是枝裕和/佐野晶)_書評という名の読書感想文

『海よりもまだ深く』是枝裕和/佐野晶 幻冬舎文庫 2016年4月30日初版 海よりもまだ深く

記事を読む

『夜の公園』(川上弘美)_書評という名の読書感想文

『夜の公園』川上 弘美 中公文庫 2017年4月30日再版発行 夜の公園 (中公文庫)

記事を読む

『アニーの冷たい朝』(黒川博行)_黒川最初期の作品。猟奇を味わう。

『アニーの冷たい朝』黒川 博行 角川文庫 2020年4月25日初版 アニーの冷たい朝 (角川

記事を読む

『悪の血』(草凪優)_書評という名の読書感想文

『悪の血』草凪 優 祥伝社文庫 2020年4月20日初版 悪の血 (祥伝社文庫) 和翔

記事を読む

『てとろどときしん』(黒川博行)_書評という名の読書感想文

『てとろどときしん』黒川博行 角川文庫 2014年9月25日初版 てとろどときしん 大阪府警・

記事を読む

『あこがれ』(川上未映子)_書評という名の読書感想文

『あこがれ』川上 未映子 新潮文庫 2018年7月1日発行 あこがれ (新潮文庫) 第1回 渡辺

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

『毒母ですが、なにか』(山口恵以子)_書評という名の読書感想文

『毒母ですが、なにか』山口 恵以子 新潮文庫 2020年9月1日発行

『物語が、始まる』(川上弘美)_書評という名の読書感想文

『物語が、始まる』川上 弘美 中公文庫 2012年4月20日9刷

『魯肉飯のさえずり』(温又柔)_書評という名の読書感想文

『魯肉飯のさえずり』温 又柔 中央公論新社 2020年8月25日初版

『理系。』(川村元気)_書評という名の読書感想文

『理系。』川村 元気 文春文庫 2020年9月10日第1刷 理

『樽とタタン』(中島京子)_書評という名の読書感想文

『樽とタタン』中島 京子 新潮文庫 2020年9月1日発行 樽

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑