『婚礼、葬礼、その他』(津村記久子)_書評という名の読書感想文

『婚礼、葬礼、その他』津村 記久子 文春文庫 2013年2月10日第一刷


婚礼、葬礼、その他 (文春文庫)

 

「旅行の日程など関係なく人は結婚するし、人が結婚することになどかまわずに人は死ぬ」
・・・その通りです。さらに加えるとするならば、「いかなるときも人は腹が空く」のです。

2月の連休に屋久島へ行こうと予約を済ませて帰った日、ヨシノは大学時代の同級生・友美からの結婚式の招待状を受け取ります。運悪く予定日が重なっている上に、スピーチと二次会の幹事まで頼まれたヨシノは、仕方なく楽しみにしていた旅行をキャンセルします。

結婚式は午後からで、会場が通勤途中にあったのが油断のもとでした。寝坊したヨシノは、飲まず食わずであたふたと準備を済ませて会場へ向かいます。この時、既に携帯には見慣れない番号の着歴があったのですが、信条として彼女は知らない番号には応じません。

電車を降りた時、再び鳴った電話もヨシノは無視します。彼女が通話ボタンを押したのは3度目、ホテルのロビーでのことです。相手の素性を確かめてやろうと思って取った電話の相手は、なんとヨシノが勤める会社の常務からのものでした。

昨日の夜マジマ部長のお父さんが亡くなって、今晩がお通夜だと常務は言うのですが、いまいち電話の主旨が分からないヨシノです。聞くだけ聞いて、それではと電話を切ろうするヨシノに常務は半ばキレています。通夜の応援に出て来い、と言われているのになかなか気が付かないヨシノです。

新婦の友美に断りを入れ、スピーチと二次会の幹事役をすべて後輩のコタニ君に押し付けて、とりあえず着替えのために彼女は家に戻ります。ここでも喪服を見つけ出すのに1時間、乗ったタクシーは渋滞に巻き込まれてしまい、ヨシノはもはや涙目です。

ヨシノが勤める会社の社員は全部で18名、小さな家族主義的な会社です。斎場に到着したのは彼女が最後、驚いたのは通夜の1時間半前だというのに全員が揃っています。今日は連休の最終日、ズルして休んだっていいじゃないの、と思うヨシノです。

何より、ヨシノはお腹が空いていました。朝からこれといったものを何も食べていません。披露宴に二次会、他にもおいしいものを食べ逃したかも知れないと思うと、無性に泣きたくなるのでした。

マジマ部長の親父とやら、一体おまえは誰なんだと思い始めるヨシノです。顔も知らない人間が、死んだということで大勢の人間を呼び寄せる。結婚式も大勢呼びはするけれど、名前ぐらいは分かるのに、ヨシノは呼ばれたお通夜の主役の名前すら知らないのです。
・・・・・・・・・・
マジマ部長の亡くなったお父さんは、あまり評判が良くない人だったようです。単調な読経の合間に、ヨシノは自分の祖父母のことを思います。家の仏壇には、赤ん坊のヨシノを抱いている祖父の写真が飾られており、それを撮ったのが祖母でした。

写真の祖父を眺めるたびに、ヨシノは祖父がこの世にいないということを忘れてしまいます。生きていることと死んでいることは全く違うことなのに、どのようにして理解したらいいか分かりません。どんなふうに納得したらいいかが分からないのです。

ヨシノは、死ぬという感触を教えてほしいと思います。母親も、友達もそのうちいなくなってしまう。死ぬ瞬間は、嫌だ、と思ったのか、もういいと思ったのか、それとも、死んでゆくことすら気がつかなかったのか・・・。

自分が泣いていることに、ヨシノは気付きます。同時に、腹も鳴っています。空腹を抱えて、ヨシノは涙を流しているのでした。
・・・・・・・・・・
コタニ君や先輩のホンダさんのおかげで、披露宴と二次会も何とか無事に終わったようです。ヨシノの号泣に誘われるように、斎場では参列者の泣き声があちこちで聞こえます。ヨシノが泣き止んでも、周囲の声はやみません。また腹がひどく鳴るのを申し訳なく思うヨシノです。

※『婚礼、葬礼、その他』には、他に「冷たい十字路」が収められています。

 

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婚礼、葬礼、その他 (文春文庫)

◆津村 記久子
1978年大阪府大阪市生まれ。
大谷大学文学部国際文化学科卒業。

作品 「まともな家の子供はいない」「君は永遠にそいつらより若い」「カソウスキの行方」「ミュージック・ブレス・ユー!!」「アレグリアとは仕事はできない」「ポトスライムの舟」「とにかくうちに帰ります」他多数

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