『劇場』(又吉直樹)_書評という名の読書感想文
公開日:
:
『劇場』(又吉直樹), 作家別(ま行), 又吉直樹, 書評(か行)
『劇場』又吉 直樹 新潮文庫 2019年9月1日発行
高校卒業後、大阪から上京し劇団を旗揚げした永田と、大学生の沙希。それぞれ夢を抱いてやってきた東京で出会った。公演は酷評の嵐で劇団員にも見放され、ままならない日々を送る永田にとって、自分の才能を一心に信じてくれる、沙希の笑顔だけが救いだった - 。理想と現実の狭間でもがきながら、かけがえのない誰かを思う、不器用な恋の物語。芥川賞 『火花』 より先に着手した著者の小説的原点。(新潮文庫)
永田はきっと、あの頃の私であり、あなたに違いありません。目指すものが何であれ、おそらく永田と同じように葛藤し、迷走し、それでも答えらしい答えが見つからず悶々としていたことがありはしないでしょうか? あまりな自分の姑息さに、思わず叫び出したくなるような。そんなことはなかったでしょうか。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
終演後、永田は演劇を観て生まれて初めて泣いた。
「具志堅用高やったやろ? 」
野原は僕の反応を見たうえで、そう言ったのだと思う。
「かなり具志堅用高やった」
それは僕達が中学時代によく使っていた、素晴らしいものを表するための最大級の賛辞だった。
・・・・・・・・・・・・・・
駅を背にして歩く。街の中心部から離れると、人の数が極端に少なくなる。人々のなかにいるから疎外を感じていたはずなのに、人混みを抜けると、それはそれで物足りなさを感じてしまう。案外、疎外という感覚は孤独と同じくらい歩くうえでの支えになるものなのかもしれない。
冬の夜の静けさだけが続く歩道の長閑さは、簡単に自分から抵抗力を奪い、心地いいあきらめの渦に引きずりこもうとする。あれには負けても仕方がないと認めてしまえば楽になるのかもしれない。それに逆らい、適切に傷つきながら冷たい道を汚れた靴で歩いた。(本文より)
この本を読んでみてください係数 80/100
◆又吉 直樹
1980年大阪府寝屋川市生まれ。
吉本クリエイティブ・エージェンシー所属のお笑いタレント。
北陽高校(現関西大学北陽高校)卒業後、放送大学教養学部に進学。その後、吉本興業FSC東京校の5期生となる。
作品 「第2図書係補佐」「東京百景」せきしろとの共著に「カキフライが無いなら来なかった」「まさかジープで来るとは」「火花」など
関連記事
-
-
『合理的にあり得ない』(柚月裕子)_書評という名の読書感想文
『合理的にあり得ない』柚月 裕子 講談社文庫 2020年5月15日第1刷 合理的にあり得ない
-
-
『起終点駅/ターミナル』(桜木紫乃)_書評という名の読書感想文
『起終点駅/ターミナル』桜木 紫乃 小学館文庫 2015年3月11日初版 起終点駅(ターミナル
-
-
『学校の青空』(角田光代)_書評という名の読書感想文
『学校の青空』角田 光代 河出文庫 2018年2月20日新装新版初版 学校の青空 (河出文庫)
-
-
『本を読んだら散歩に行こう』(村井理子)_書評という名の読書感想文
『本を読んだら散歩に行こう』村井 理子 集英社 2022年12月11日第3刷発行
-
-
『嵐のピクニック』(本谷有希子)_書評という名の読書感想文
『嵐のピクニック』本谷 有希子 講談社文庫 2015年5月15日第一刷 嵐のピクニック (講談
-
-
『君は永遠にそいつらより若い』(津村記久子)_書評という名の読書感想文
『君は永遠にそいつらより若い』津村 記久子 筑摩書房 2005年11月10日初版 君は永遠にそ
-
-
『鬼の跫音』(道尾秀介)_書評という名の読書感想文
『鬼の跫音』道尾 秀介 角川 書店 2009年1月31日初版 鬼の跫音 角川文庫 &nb
-
-
『噛みあわない会話と、ある過去について』(辻村深月)_書評という名の読書感想文
『噛みあわない会話と、ある過去について』辻村 深月 講談社文庫 2021年10月15日第1刷
-
-
『首の鎖』(宮西真冬)_書評という名の読書感想文
『首の鎖』宮西 真冬 講談社文庫 2021年6月15日第1刷 首の鎖 (講談社文庫)
-
-
『くらやみガールズトーク』(朱野帰子)_書評という名の読書感想文
『くらやみガールズトーク』朱野 帰子 角川文庫 2022年2月25日初版 「