『劇場』(又吉直樹)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/09 『劇場』(又吉直樹), 作家別(ま行), 又吉直樹, 書評(か行)

『劇場』又吉 直樹 新潮文庫 2019年9月1日発行

高校卒業後、大阪から上京し劇団を旗揚げした永田と、大学生の沙希。それぞれ夢を抱いてやってきた東京で出会った。公演は酷評の嵐で劇団員にも見放され、ままならない日々を送る永田にとって、自分の才能を一心に信じてくれる、沙希の笑顔だけが救いだった - 。理想と現実の狭間でもがきながら、かけがえのない誰かを思う、不器用な恋の物語。芥川賞 『火花』 より先に着手した著者の小説的原点。(新潮文庫)

永田はきっと、あの頃の私であり、あなたに違いありません。目指すものが何であれ、おそらく永田と同じように葛藤し、迷走し、それでも答えらしい答えが見つからず悶々としていたことがありはしないでしょうか? あまりな自分の姑息さに、思わず叫び出したくなるような。そんなことはなかったでしょうか。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

終演後、永田は演劇を観て生まれて初めて泣いた。

「具志堅用高やったやろ? 」
野原は僕の反応を見たうえで、そう言ったのだと思う。
「かなり具志堅用高やった」
それは僕達が中学時代によく使っていた、素晴らしいものを表するための最大級の賛辞だった。

・・・・・・・・・・・・・・

駅を背にして歩く。街の中心部から離れると、人の数が極端に少なくなる。人々のなかにいるから疎外を感じていたはずなのに、人混みを抜けると、それはそれで物足りなさを感じてしまう。案外、疎外という感覚は孤独と同じくらい歩くうえでの支えになるものなのかもしれない。

冬の夜の静けさだけが続く歩道の長閑さは、簡単に自分から抵抗力を奪い、心地いいあきらめの渦に引きずりこもうとする。あれには負けても仕方がないと認めてしまえば楽になるのかもしれない。それに逆らい、適切に傷つきながら冷たい道を汚れた靴で歩いた。(本文より)

この本を読んでみてください係数 80/100

◆又吉 直樹
1980年大阪府寝屋川市生まれ。
吉本クリエイティブ・エージェンシー所属のお笑いタレント。
北陽高校(現関西大学北陽高校)卒業後、放送大学教養学部に進学。その後、吉本興業FSC東京校の5期生となる。

作品 「第2図書係補佐」「東京百景」せきしろとの共著に「カキフライが無いなら来なかった」「まさかジープで来るとは」「火花」など

関連記事

『猫を棄てる』(村上春樹)_父親について語るとき

『猫を棄てる 父親について語るとき』村上 春樹 文藝春秋 2020年4月25日第1刷

記事を読む

『婚礼、葬礼、その他』(津村記久子)_書評という名の読書感想文

『婚礼、葬礼、その他』津村 記久子 文春文庫 2013年2月10日第一刷 「旅行の日程など関

記事を読む

『仮面病棟』(知念実希人)_書評という名の読書感想文

『仮面病棟』知念 実希人 実業之日本社文庫 2014年12月15日初版 強盗犯により密室と化す病院

記事を読む

『羊と鋼の森』(宮下奈都)_書評という名の読書感想文

『羊と鋼の森』宮下 奈都 文春文庫 2018年2月10日第一刷 高校生の時、偶然ピアノ調律師の板鳥

記事を読む

『完全犯罪の恋』(田中慎弥)_書評という名の読書感想文

『完全犯罪の恋』田中 慎弥 講談社 2020年10月26日第1刷 「人は恋すると、

記事を読む

『献灯使』(多和田葉子)_書評という名の読書感想文

『献灯使』多和田 葉子 講談社文庫 2017年8月9日第一刷 大災厄に見舞われ、外来語も自動車もイ

記事を読む

『君は永遠にそいつらより若い』(津村記久子)_書評という名の読書感想文

『君は永遠にそいつらより若い』津村 記久子 筑摩書房 2005年11月10日初版 この小説は、津

記事を読む

『琥珀のまたたき』(小川洋子)_書評という名の読書感想文

『琥珀のまたたき』小川 洋子 講談社文庫 2018年12月14日第一刷 もう二度と

記事を読む

『孤狼の血』(柚月裕子)_書評という名の読書感想文

『孤狼の血』柚月 裕子 角川文庫 2017年8月25日初版 昭和63年、広島。所轄署の捜査二課に配

記事を読む

『オールド・テロリスト』(村上龍)_書評という名の読書感想文

『オールド・テロリスト』村上 龍 文春文庫 2018年1月10日第一刷 「満州国の人間」を名乗る老

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『百年と一日』(柴崎友香)_書評という名の読書感想文

『百年と一日』柴崎 友香 ちくま文庫 2024年3月10日 第1刷発

『燕は戻ってこない』(桐野夏生)_書評という名の読書感想文

『燕は戻ってこない』桐野 夏生 集英社文庫 2024年3月25日 第

『羊は安らかに草を食み』(宇佐美まこと)_書評という名の読書感想文

『羊は安らかに草を食み』宇佐美 まこと 祥伝社文庫 2024年3月2

『逆転美人』(藤崎翔)_書評という名の読書感想文

『逆転美人』藤崎 翔 双葉文庫 2024年2月13日第15刷 発行

『氷の致死量』(櫛木理宇)_書評という名の読書感想文

『氷の致死量』櫛木 理宇 ハヤカワ文庫 2024年2月25日 発行

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑