『死んでもいい』(櫛木理宇)_彼ら彼女らの、胸の奥の奥
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最終更新日:2024/01/08
『死んでもいい』(櫛木理宇), 作家別(か行), 書評(さ行), 櫛木理宇
『死んでもいい』櫛木 理宇 早川書房 2020年4月25日発行

「ぼくが殺しておけばよかった」 中学三年の不良少年・樋田真俊が何者かに刺殺された事件。彼にいじめを受けていた同級生・河石要は、重要参考人として呼ばれた取り調べでそう告白する。自分の手で復讐を果たしたかったのか、それとも・・・・・・・少年たちの歪な関係を描いた表題作他、ストーカーの女と盗癖に悩む女の邂逅から起きた悲劇 「その一言を」 など書き下ろしを含む全六篇を収録。人間の暗部に戦慄する傑作ミステリ短篇集。(ハヤカワ文庫)
どれもが手堅く面白い。ハズレがない。
色々考えさせられる。特筆すべきは、「不穏である」 - ということです。
「死んでもいい」
問題児だった中学生が刺殺され、被害者に暴行を受けていた同級生が事情聴取を受ける。だが、彼は 「ぼくが、この手で殺したかった」 と思う。刑事と容疑者の少年の視点から緊迫感を持って話が進行するなかで、少年たちのバックグラウンドが浮かび上がってくる。犯人は誰か、動機は何かという謎で牽引するミステリ短篇だが、それだけでなく、やがて明かされる真実は意外性を持ったもの。読み手の先入観を打ち砕き、人間の欲望や関係性のことは当人しか分からない、という永遠の真実を突き付けてくる。(解説から抜粋)
※少年は 「ぼくが殺しておけばよかった」 - そう証言したのだった。後日、彼は 「死んでもいい」 という事態を迎えることになる。
[ママがこわい」
「からたねおがたま」 (漢字で書くと、唐種招霊。全国の神社によくある木らしい)
こちらもまた、危険性を持った女性が登場する。叔父の葬儀のために数十年ぶりに故郷を訪れた 〈わたし〉 は、元義姉と再会。なぜ “元” がつくのかというと、彼女は父親の再婚相手の連れ子だったのだが、四年後に親たちは離婚したのだった。その時期 〈わたし〉 はまだ小学生だったが、義姉との間に穏やかではない思い出がある。大人になった今、彼はその出来事を振り返り、そして、おそらくもう元には戻れないだろう一歩を踏み出す。自分のために。その決意の大きさが胸に迫ってくる作品だ。(同上)
※もう子供ではない 〈わたし〉 は、目を閉じてこめかみを指で押さえる。鼻孔を通して、脳まで突き抜けるような匂いだった。息苦しいほど濃厚で、濃密だ。くらり、と四たびめまいが襲う。とても淫靡で、むせかえるほどの芳香。「かくれんぼなんかより、もっと、ずっとおもしろいこと教えてあげる」- その時祥子は 〈わたし〉 に顔を寄せ、そう囁いたのだった。
「その一言を」
ストーカーの女性が、つきまとっていた男性の妻を白昼堂々鉈で襲うという事件が発生。刑事が取り調べを始めると、彼女は微笑みながら、自分は彼の妻で、配偶者を奪われたから奪い返しただけだ、と主張する。そして回想パートでは過酷な少女時代が描かれるのだが・・・・・・・。こちらもまた嫌な人間が続々登場。なぜ一人の女性がストーカーとなり凶行に走るに至ったか、その経緯が明かされていく構造だと思って読み進めていくと、いや、たしかにそうした構造なのだが、何重にもひねりが効いていて、待っているのは意外な展開だ。これは読み終えた時にタイトルの意味がじわじわと沁みてくる。登場人物たちが心の奥底で欲していた一言とは、それぞれ一体なんだったのか。じっくり噛みしめてみたくなるはずだ。(同上)
※女は、自分は 「麻生直海」 だと言った。”麻生” は、女がここ半年というものストーキングしていた男の姓である。男は麻生正弘といい、れっきとした配偶者がいた。にもかかわらず、女はさも当然のように 「妻はわたしです」 と言うのだった。男との関係を訊かれると、いかにも不思議そうに、きょとんとした目で、そう言うのだった。
「彼女は死んだ」
「タイトル未定」
※以上の六篇。どこから読んでも大丈夫。但し 「タイトル未定」 は最後に読むように。
この本を読んでみてください係数 85/100

◆櫛木 理宇
1972年新潟県生まれ。
大学卒業後、アパレルメーカー、建設会社などの勤務を経て、執筆活動を開始する。
作品 「ホーンテッド・キャンパス」「赤と白」「侵蝕 壊される家族の記録」「僕とモナミと、春に会う」「209号室には知らない子供がいる」「死刑にいたる病」他多数
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