『半落ち』(横山秀夫)_書評という名の読書感想文

『半落ち』横山 秀夫 講談社 2002年9月5日第一刷


半落ち (講談社文庫)

 

「妻を殺しました」。現職警察官・梶聡一郎が、アルツハイマーを患う妻を殺害し自首してきた。動機も経過も素直に明かす梶だが、殺害から自首までの二日間の行動だけは頑として語ろうとしない。梶が完全に〈落ち〉ないのはなぜなのか、その胸に秘めている想いとは-。日本中が震えた、ベストセラー作家の代表作。(「BOOK」データベースより)

久しぶりに横山秀夫の小説が読みたくなって、なら『64(ロクヨン)』だろうと思って読み始めたら、一度読んだのも忘れるくらい面白くて早々に読み終わってしまった。ので、まだ物足りないのでもう一冊と、手に取ったのが『半落ち』です。

13年ほど前に出た本なので若い人は知らないと思いますが、この『半落ち』という小説は当時大きな話題を集めました。何が注目されたのかを平たく言うと、小説に書かれている内容の一部が事実に反しているのではないか、という点です。

論争の舞台が直木賞の選考会であり、しかも当時すでに作家として十分名前が知られていた横山秀夫の作品だということ、加えて選考委員のメンバーの中で声高に批判したのが林真理子だったことが、ことさら話題を大きくした要因だったと思います。

「小説中の骨髄移植に関する記述に、作家の決定的な事実誤認がある」という指摘に、横山秀夫は怒ります。横山は確信をもって書いたと主張し、独自に再調査をした上で日本文学振興会に事実の検証を求めますが回答はなく、修正なしの選評がそのまま掲載されます。

候補者の質問に応じようとしない主催者に「権威のもつ驕り」を感じ取った横山は、直木賞との決別をすみやかに宣言します。

横山秀夫が最も許せなかったのは、林真理子が読者をも愚弄した点でした。彼女は2003年の『オール読物』の選評で「欠陥があるのに大した問題にもならず、未だに本は売れ続けている。一般読者と実作者とはこだわるポイントが違うのだろうか」と書いたのです。

林真理子は、他人の本が売れるのがそんなにシャクだったのかしら・・? 私自身が林真理子という人があまり好きではなく、彼女の本も読んだことがないものですから、偏見と取られても仕方ないのですが、これはちょっと書き過ぎですよね。

と言うか、書かなくてもいいことまで書いてる感満載で、まるでみっともない。同業の作家さんかいな、と思ってしまう。

ま、そんなこんなで、大騒ぎだったわけです。改めて事の成り行きを振り返ってみると、何だかこの事件がミステリーみたいで、ちょっと面白くもあるのです。当事者のみなさんには、大変失礼なことですが。

肝心の『半落ち』の内容については、「BOOK」データベースの解説のみになってしまいました。しかし、下手な解説を読んでいただくよりも、この方がいくらかみなさんの読む気をそそるのではないかと思いまして、敢えて今回は何も書きません。

『半落ち』は、2002年の「週刊文春ミステリーベスト10」、2003年の「このミステリーがすごい!」ランキングで、いずれも第1位に輝いています。騒動の影響がゼロだとは思いませんが、そんなこととは関係なしに、間違いなくこの小説は傑作です。

 

この本を読んでみてください係数 85/100


半落ち (講談社文庫)

◆横山 秀夫
1957年東京生まれ。
国際商科大学(現・東京国際大学)商学部卒業。その後、上毛新聞社に入社。

作品 「ルパンの消息」「陰の季節」「動機」「顔 FACE」「深追い」「第三の時効」「真相」「クライマーズ・ハイ」「影踏み」「看守眼」「震度0」「64(ロクヨン)」他多数

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