『オブリヴィオン』(遠田潤子)_書評という名の読書感想文

『オブリヴィオン』遠田 潤子 光文社文庫 2020年3月20日初版

オブリヴィオン (光文社文庫)

苦痛の果てに、希望は見えるか。小説の、渾身の一撃!
本の雑誌が選ぶ2017年度ベスト10第1位の話題作、ついに文庫化!

解 説  杉江恋松
昨日があるから明日もある。
しかし、変えられない過去は時に桎梏として心を縛ることになり、あまりの重さに人は絶望してしまう。遠田潤子は、そうした人のありようを描く作家だ。
『オブリヴィオン』 はその遠田が2017年10月20日に光文社より書き下ろしで発表した、第9長篇である。英語の Oblivion には二つの意味がある。一つは忘却、もう一つは赦しだ。an act of oblivion といえば、法律用語で大赦令のことである。その意味通り赦しを主題の一つとする小説なのだ。

物語は、主人公の吉川森二が刑務所を出る場面から始まる。塀の外で待っていたのは実兄の光一と、義理の兄にあたる長嶺圭介だ。光一はノミ行為を主たるシノギにするヤクザで、圭介は大学で教鞭を執るラテン語学者である。森二は、圭介の妹であり自分の妻であった唯を殺した罪で服役していたのだ。身元引受人となった今も、圭介は義弟をまったく赦していない。入所前の仕事を捨てて木工所で働き始めた森二は他人とも交わらず、社会の片隅でひっそり生きて行こうとするが、圭介は頻繁に彼の前に現れ、なぜ唯を殺したのかを問い質すのである。森二と唯の間に生まれた一粒種の冬香も今は圭介が引き取って育てている。その冬香が森二の前に現れ、「私は戸籍上のお父さんが、どれだけ最低の人間かを見に来たんです」 と詰る場面が、本作で最も辛い箇所だろう。わずか10歳の少女が、懸命に憎悪の感情を掻き立てて、そんな言葉を口にするのである。その心中は察するに余りある。(続く)

森二には出自にかかるそもそもの負い目があります。育った環境、特に父親との間には深い溝がありました。森二が有する特殊な能力が父親には災いとなり、結果家族の崩壊を招くことになります。

当時の森二にとって、圭介と唯に出会ったことはいわば “奇跡” みたいな出来事でした。二人と話すうち、彼は人生の再出発を決意します。やりたくてもやれなかった勉学に励み、大学を卒業して社会人となり、やがて唯と結婚することになります。彼が妻の唯を殺したのは、娘の冬香が6歳になった頃のことでした。

※気付くと父親はギャンブル狂、実の兄はヤクザ - 。森二にとって家族は最悪の状況でした。しかし、それでも彼はそこから逃れることができません。呪うべきことに、父や兄からすれば、彼を手放すわけにはいかなかったのです。

この本を読んでみてください係数  80/100

オブリヴィオン (光文社文庫)

◆遠田 潤子
1966年大阪府生まれ。
関西大学文学部独逸文学科卒業。

作品 「月桃夜」「カラヴィンカ」「アンチェルの蝶」「お葬式」「あの日のあなた」「雪の鉄樹」「蓮の数式」「冬雷」他

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