『サキの忘れ物』(津村記久子)_書評という名の読書感想文

『サキの忘れ物』津村 記久子 新潮社 2020年6月25日発行

サキの忘れ物

見守っている。あなたがわたしの存在を信じている限り。

ある日、千春はアルバイト先の喫茶店で客が忘れていった一冊の本を手にする。それは誰からもまともに取り合ってもらえなかった千春がはじめて読み通した本となった。十年後、書店員となった彼女の前に現れたのは。人生は、ほんとうにちいさなことをきっかけに動きだす。たやすくない日々に宿る僥倖のような、まなざしあたたかな短篇集。(新潮社)

[目次]
・サキの忘れ物
・王国
・ペチュニアフォールを知る二十の名所
・喫茶店の周波数
・Sさんの再訪
・行列 
(前の東京オリンピック以来の来日で、十二時間待ちの展示の行列に並びはじめた主人公がその果てに出会った光景)
・河川敷のガゼル
・真夜中をさまようゲームブック
 (ある晩、家の鍵をなくした私は居場所を探して町内をさまようことに。一篇のなかに無数の物語が展開! )

・隣のビル
宝ビルと私の働いている会社のビルは、手を伸ばせば届きそうなほど近くにあり、窓から縁に飛び移って植木を育てている屋上のフェンスをつかんでよじ登れば中に入れそうだった。

(ビルの谷間をひとっ跳び - って、スパイ映画じゃあるまいし、普通、そんなことやらんし。やってみようとも思わない。そもそも、四階の窓から隣のビルの屋上へ飛び移る、理由がない! )

屋上の植木の成長や入れ替わりもよく見ていたけれども、私はそれ以上に三階の窓の方をよく見ていた。

よく覚えているのは、ある日ミニオンの大きなぬいぐるみが、ソファと座卓の間の床にうつ伏せに倒れていた光景だった。べつにそれだけなら、そういう日もあるだろうで済むのだが、仕事が忙しくて一週間以上のぞかないでいた後にまたのぞきに行くと、同じように、ミニオンがうつ伏せに倒れていたということがあった。寸分違わず、と言うと言い過ぎかもしれないけれども、ミニオンは一週間前に見た時とほぼ同じ場所に倒れていたと思う。大丈夫か、と私は思った。それはミニオンに対してもだし、うつ伏せのミニオンを放置している住人に対してもだった。

(とどのつまり、私は津村記久子のこんなところ (文章) が好きなのだと思う。大抵は見過ごしてしまうであろう些細な違和感を捉え、それを文章に置き換える、その目の付けどころ。飾らず、あくまで等身大で。臆さず本音で語るところ)

※そもそもは おまえ、トイレが長すぎるんだよ! と怒鳴られた。ことがきっかけでした。”私” は職場を抜け出して、四階にあるロッカールームの窓から隣のビルの屋上へ飛び移り、よく見ていた三階の窓の住民と、ばったり出くわしたのでした。

その偶然は、もはや元の職場に戻る気のない “私” にとって、まさに 僥倖のような 出来事でした。

この本を読んでみてください係数 85/100

サキの忘れ物

◆津村 記久子
1978年大阪府大阪市生まれ。
大谷大学文学部国際文化学科卒業。

作品 「まともな家の子供はいない」「君は永遠にそいつらより若い」「ポトスライムの舟」「ミュージック・ブレス・ユー!! 」「とにかくうちに帰ります」「浮幽霊ブラジル」「ディス・イズ・ザ・デイ」他多数

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