『あの日、君は何をした』(まさきとしか)_書評という名の読書感想文
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『あの日、君は何をした』(まさきとしか), まさきとしか, 作家別(ま行), 書評(あ行)
『あの日、君は何をした』まさき としか 小学館文庫 2020年7月12日初版
北関東の前林市で暮らす主婦の水野いづみ。平凡ながら幸せな彼女の生活は、息子の大樹が連続殺人事件の容疑者に間違われて事故死したことによって、一変する。大樹が深夜に家を抜け出し、自転車に乗っていたのはなぜなのか。
十五年後、新宿区で若い女性が殺害され、重要参考人である不倫相手の百井辰彦が行方不明に。無関心な妻の野々子に苛立ちながら、母親の智恵は必死で辰彦を捜し出そうとする。捜査に当たる刑事の三ツ矢は、無関係に見える二つの事件をつなぐ鍵を掴み、衝撃の真実が明らかになる。
家族が抱える闇と愛の極致を描く、傑作長編ミステリ。(小学館文庫)
まさきとしかの最新作 (文庫書き下ろし) 『あの日、君は何をした』 を読みました。最近気になる作家の一人。出ればすぐに買いに行きます。
物語は、2004年、北関東で幕が上がる。世間を騒がせた 「宇都宮女性連続殺人事件」 の容疑者・林竜一が、警察署のトイレから脱走した。その三日後、宇都宮市から約75キロ離れた前林市で、深夜に警察が不審人物を発見、職務質問しようとしたところ相手が自転車に乗ったまま逃走、駐車中のトラックに衝突して死亡するという悲劇が起きた。死んだのは男子中学生の水野大樹。林容疑者とは何の関係もない、とばっちりとしか言いようがない死だったが、この出来事は大樹の家族、特に母親のいづみの人生を一変させる。
最初に断っておきます。これは「宇都宮女性連続殺人事件」 の話ではありません。同じ頃、違う場所で発生した別の出来事の、十五年越しの顛末が綴られています。
問題は、殺人事件の犯人と間違われ、不幸にも死んでしまった中学生、水野大樹の方にあります。夜中に家を抜け出して、彼は何をしていたのでしょう? そのとき何があり、なぜ警察から逃げなければならなかったのでしょう?
主にいづみの視点から描かれているので、読者は自然と、彼女に感情移入するかたちで読み進めることになる。しかし、まだ大樹が死ぬ前、「私を見て! 私はこんなに幸せなんだよ! 」 と、まるで自分は幸せだ、幸せだと言い聞かせるかのような心理状態の描写の時点で、いづみにどこか歪なものを感じる読者もいるだろう。また、娘の沙良の視点が挟み込まれることで、いづみの母性は相対化されることになる。そして、自分の中の理想の家族像を破壊されたいづみの心理状態が常軌を逸してゆくあたりから、読者も 「これは危ないぞ」 と感じるようになるのではないか。案の定、彼女はとんでもない行動に出てしまう。(太字部分は解説より抜粋)
大樹の死は明らかに 「事故死」 でした。ところが、それだけでは納得しない人物がいます。刑事の三ツ矢でした。彼は、大樹には 「死ぬ理由があった」 と考えています。
※物語は第一部/2004年 と 第二部/2019年 の二部で構成されています。一部二部共に、読むべきは 「常軌を逸した心理状態」「これは危ないぞ」 という気配 、枕はいずれも、母親の、です。
この本を読んでみてください係数 85/100
◆まさき としか
1965年東京都生まれ。北海道札幌市育ち。
作品 「夜の空の星の」「完璧な母親」「いちばん悲しい」「途上なやつら」「熊金家のひとり娘」「ゆりかごに聞く」「屑の結晶」他
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