『プラナリア』(山本文緒)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2020/08/25 『プラナリア』(山本文緒), 作家別(や行), 山本文緒, 書評(は行)

『プラナリア』山本 文緒 文春文庫 2020年5月25日第10刷

プラナリア (文春文庫)

どうして私はこんなにひねくれているんだろう - 。乳がんの手術以来、何もかも面倒くさく 「社会復帰」 に興味が持てない25歳の春香。恋人の神経を逆撫でし、親に八つ当たりをし、バイトを無断欠勤する自分に疲れ果てるが、出口は見えない。現代の “無職” をめぐる心模様を描いて共感を呼んだベストセラー短編集。(第124回直木賞受賞作品。(文春文庫)

プラナリア [Planaria] 三岐腸目のプラナリア科に属する扁形動物の総称。体は扁平で、口は腹面中央にある。体長20~30ミリメートル。渓流などにすむ。再生の実験によく使われる。(「大辞林」 第二版より)

自分のことを書きたいと思います。

幼稚園へ行くのがとても嫌でした。嫌で嫌で仕方なく、親を困らせ、先生を困らせて、1年のうちの、結局行ったのは三分の一ほどでした。

眠くもないのに昼寝をさせられる。昼寝が終わると、今度はみんなで外で遊びましょうと言われました。そんなことの一々が嫌でした。さぞや親は嘆いていたことだろうと思います。この先小学校ではどうなってしまうのだろうと。

ところが、当の本人はまるで違う思いでいました。(信じてもらえないでしょうが) 行くべきは小学校で、やるべきは (きちんと決まった) 勉強だろうと。昼寝や遊びのために、何が無理して幼稚園なんだと。そんなことを考えていました。

上手く馴染めずにふてくされ、ひねくれていたのだと思います。

高校へ行くのが死ぬほど嫌でした。1年生のとき、学校を辞めたいと、二度、担任の先生に言いに行きました。夜間の高校に入り直し、昼間は働くと言いました。仕事がしたかったからではありません。クラスの空気がどうにも嫌で、我慢ならなかったのです。

入学直後、登校して教室に入ると誰もいません。窓からグラウンドを見ると、クラスの連中が輪になってバレーボールのトスをしています。数えてみると、私以外の男子は全員揃っています。男女が入り交じり、いかにも親し気にパスをし合っています。

まだよくは知らない者同士であるはずの彼らが、そうしなければ仲間外れにされるとでも言うように。私の後から登校してきた女子も、カバンを置くなりすぐに教室から駆け出して行きました。彼女が急いで輪に加わるのを、私は窓からただ呆然と眺めていました。

その時の私の心境はと言えば、 “絶望” に近いものだったと思います。一番ではないにせよ、県下では進学校に数えられる高校の新入生の、思いもしない幼稚さに。その行動の、恥ずかし気のなさに。

中学生でもあるまいし、よくもそんなことができたものだと。改めて人数を数えてみると、私以外のクラスの全員が揃っています。たった一人の教室で、感じたのは疎外感ではありません。自分は何かとんでもない間違いをしたのではないかという、途方に暮れた思いでした。

騙し騙し高校を終え、一浪の末、大学に入りました。4年で何とか卒業したまではよかったのですが、私が本当に嫌だったのは、働くことでした。

とはいえ、(あらゆる意味で) 人は働かなければなりません。辞めるタイミング、その日をいつも心に思い描きながら、騙し騙し働きました。結局私が仕事を辞めたのは、定年のはるか前の58歳半ばのことでした。

いまどき、定年を過ぎても働いている人はたくさんいます。理由は様々あるのでしょうが、一律に、私はそんな人たちを心から尊敬しています。勤勉さと粘り強さ、その真面目さに心底頭が下がる思いがします。

皮肉ではありません。人より早く仕事を辞めたのは、それが私の限界だったからです。余裕ができたわけでも、したいことがあったわけでもありません。辞めたいと願う一心で、辞めることを決めました。

朝早くに起き出して、定時に会社へ行き、本意ではない仕事を遅くまでするのは辛いことでした。できるだけ自分の思う生き方に近づきたいと思いました。だから、そうしました。

この本を読んでみてください係数 85/100 

プラナリア (文春文庫)

◆山本 文緒
1962年神奈川県生まれ。
神奈川大学卒業。

作品 「恋愛中毒」「群青の夜の羽毛布」「眠れるラプンツェル」「紙婚式」「結婚願望」「落花流水」「ファースト・プライオリティー」他多数

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