『左手首』(黒川博行)_書評という名の読書感想文

『左手首』黒川 博行 新潮社 2002年3月15日発行


左手首 (新潮文庫)

 

表題作の「左手首」を始め、「内会」「徒花」「淡雪」「帳尻」「解体」「冬桜」の全7編からなる短編集です。

この人が書く小説に、聖人君子のような人物が登場することはまずありません。大別すればほとんどが悪党かそのちょっと手前、悪党の予備軍みたいな人物です。ときには取り締まる側の警察官でさえ平気でワルさをして、澄ました顔をしています。

この短編集は、いわば黒川博行が描く悪党の見本市です。「左手首」に登場する研次と瑠美、バラバラ死体になった木村や木村の連れの立花、立場は違えども、彼らは何事にも場当たり的で、クソ面白くもない毎日をその日の気分次第で生きてるような連中です。

【そもそも、ケチのつき始めはどこだったのか?ちょっとした油断、小さな綻びが一攫千金の計画を崩壊させ、彼らを奈落へ転がり落とす。ギャンブル、ヤクザ、美人局、風俗。漆黒の裏社会で、ギリギリの攻防を繰り広げる男たち。命を懸けた一世一代の大博打、その首尾や如何に-。】

〈命を懸けた一世一代の大博打〉とは、ちょっとカッコ良すぎる言い方ですね。そもそも、命なんか懸けるべきではないものに懸けている。というか、懸けてはならないことに情熱を燃やすわけです。そんなの、上手く行くはずがないのです。

ご想像の通り、彼らは彼らなりに一か八かの賭けに出るのですが、最後はあえなく散り果てて、ジエンド。自分たちよりももっと怖いお兄さんたちに追い詰められたり、警察のお世話になってしまいます。世の中そんなに甘くはないですよ、という話です。
・・・・・・・・・・
黒川博行の得意とするところは、何と言っても長編小説です。つい最近も『国境』を読み返していたのですが、澱みなく緻密で緊迫感溢れるプロットに興奮し、間で交わされる洒落っ気たっぷりの関西弁にニヤッと笑い、時が経つのを忘れてしまいます。

人気の「疫病神シリーズ」や「大阪府警シリーズ」を読み慣れている方にとって、やはり短編は少々物足りないかも知れません。面白くないということではなくて、きっと「もう終わるのかよ」と感じ、もっと続きを読みたくなるはずです。

 

この本を読んでみてください係数 85/100


左手首 (新潮文庫)

◆黒川 博行
1949年愛媛県今治市生まれ。6歳の頃に大阪に移り住み、現在大阪府羽曳野市在住。
京都市立芸術大学美術学部彫刻科卒業。妻は日本画家の黒川雅子。
スーパーの社員、高校の美術教師を経て、専業作家。無類のギャンブル好き。

作品 「二度のお別れ」「雨に殺せば」「キャッツアイころがった」「カウント・プラン」「絵が殺した」「疫病神」「国境」「悪果」「文福茶釜」「暗礁」「螻蛄」「破門」「後妻業」他多数

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