『左手首』(黒川博行)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/14 『左手首』(黒川博行), 作家別(か行), 書評(は行), 黒川博行

『左手首』黒川 博行 新潮社 2002年3月15日発行

表題作の「左手首」を始め、「内会」「徒花」「淡雪」「帳尻」「解体」「冬桜」の全7編からなる短編集です。

この人が書く小説に、聖人君子のような人物が登場することはまずありません。大別すればほとんどが悪党かそのちょっと手前、悪党の予備軍みたいな人物です。ときには取り締まる側の警察官でさえ平気でワルさをして、澄ました顔をしています。

この短編集は、いわば黒川博行が描く悪党の見本市です。「左手首」に登場する研次と瑠美、バラバラ死体になった木村や木村の連れの立花、立場は違えども、彼らは何事にも場当たり的で、クソ面白くもない毎日をその日の気分次第で生きてるような連中です。

【そもそも、ケチのつき始めはどこだったのか?ちょっとした油断、小さな綻びが一攫千金の計画を崩壊させ、彼らを奈落へ転がり落とす。ギャンブル、ヤクザ、美人局、風俗。漆黒の裏社会で、ギリギリの攻防を繰り広げる男たち。命を懸けた一世一代の大博打、その首尾や如何に-。】

〈命を懸けた一世一代の大博打〉とは、ちょっとカッコ良すぎる言い方ですね。そもそも、命なんか懸けるべきではないものに懸けている。というか、懸けてはならないことに情熱を燃やすわけです。そんなの、上手く行くはずがないのです。

ご想像の通り、彼らは彼らなりに一か八かの賭けに出るのですが、最後はあえなく散り果てて、ジエンド。自分たちよりももっと怖いお兄さんたちに追い詰められたり、警察のお世話になってしまいます。世の中そんなに甘くはないですよ、という話です。
・・・・・・・・・・
黒川博行の得意とするところは、何と言っても長編小説です。つい最近も『国境』を読み返していたのですが、澱みなく緻密で緊迫感溢れるプロットに興奮し、間で交わされる洒落っ気たっぷりの関西弁にニヤッと笑い、時が経つのを忘れてしまいます。

人気の「疫病神シリーズ」や「大阪府警シリーズ」を読み慣れている方にとって、やはり短編は少々物足りないかも知れません。面白くないということではなくて、きっと「もう終わるのかよ」と感じ、もっと続きを読みたくなるはずです。

この本を読んでみてください係数 85/100


◆黒川 博行
1949年愛媛県今治市生まれ。6歳の頃に大阪に移り住み、現在大阪府羽曳野市在住。
京都市立芸術大学美術学部彫刻科卒業。妻は日本画家の黒川雅子。
スーパーの社員、高校の美術教師を経て、専業作家。無類のギャンブル好き。

作品 「二度のお別れ」「雨に殺せば」「キャッツアイころがった」「カウント・プラン」「絵が殺した」「疫病神」「国境」「悪果」「文福茶釜」「暗礁」「螻蛄」「破門」「後妻業」他多数

◇ブログランキング

いつも応援クリックありがとうございます。
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ

関連記事

『variety[ヴァラエティ]』(奥田英朗)_書評という名の読書感想文

『variety[ヴァラエティ]』奥田 英朗 講談社 2016年9月20日第一刷 迷惑、顰蹙、無理

記事を読む

『半落ち』(横山秀夫)_書評という名の読書感想文

『半落ち』横山 秀夫 講談社 2002年9月5日第一刷 「妻を殺しました」。現職警察官・梶聡一

記事を読む

『対馬の海に沈む』 (窪田新之助)_書評という名の読書感想文

『対馬の海に沈む』 窪田 新之助 集英社 2024年12月10日 第1刷発行 JAで 「神様

記事を読む

『ビニール傘』(岸政彦)_書評という名の読書感想文

『ビニール傘』岸 政彦 新潮社 2017年1月30日発行 共鳴する街の声 - 。絶望と向き合い、そ

記事を読む

『陰日向に咲く』(劇団ひとり)_書評という名の読書感想文

『陰日向に咲く』劇団ひとり 幻冬舎文庫 2008年8月10日初版発行 この本が出版されたのは、も

記事を読む

『犯罪調書』(井上ひさし)_書評という名の読書感想文

『犯罪調書』井上 ひさし 中公文庫 2020年9月25日初版 白い下半身を剥き出し

記事を読む

『ハング 〈ジウ〉サーガ5 』(誉田哲也)_書評という名の読書感想文

『ハング 〈ジウ〉サーガ5 』誉田 哲也 中公文庫 2024年10月25日 改版発行 Key

記事を読む

『死ねばいいのに』(京極夏彦)_書評という名の読書感想文

『死ねばいいのに』京極 夏彦 講談社 2010年5月15日初版 3ヶ月前、マンションの一室でアサミ

記事を読む

『レモンと殺人鬼』(くわがきあゆ)_書評という名の読書感想文

『レモンと殺人鬼』くわがき あゆ 宝島社文庫 2023年6月8日第4刷発行 202

記事を読む

『奴隷小説』(桐野夏生)_書評という名の読書感想文

『奴隷小説』桐野 夏生 文芸春秋 2015年1月30日第一刷 過激です。 桐野夏生の新刊『

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『今日のハチミツ、あしたの私』(寺地はるな)_書評という名の読書感想文

『今日のハチミツ、あしたの私』寺地 はるな ハルキ文庫 2024年7

『アイドルだった君へ』(小林早代子)_書評という名の読書感想文

『アイドルだった君へ』小林 早代子 新潮文庫 2025年3月1日 発

『現代生活独習ノート』(津村記久子)_書評という名の読書感想文

『現代生活独習ノート』津村 記久子 講談社文庫 2025年5月15日

『受け手のいない祈り』(朝比奈秋)_書評という名の読書感想文

『受け手のいない祈り』朝比奈 秋 新潮社 2025年3月25日 発行

『蛇行する月 』(桜木紫乃)_書評という名の読書感想文

『蛇行する月 』桜木 紫乃 双葉文庫 2025年1月27日 第7刷発

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑