『ミーナの行進』(小川洋子)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/08 『ミーナの行進』(小川洋子), 作家別(あ行), 小川洋子, 書評(ま行)

『ミーナの行進』小川 洋子 中公文庫 2018年11月30日6刷発行

美しくて、かよわくて、本を愛したミーナ。あなたとの思い出は、損なわれることがない - ミュンヘンオリンピックの年に芦屋の洋館で育まれた、ふたりの少女と、家族の物語。あたたかなイラストとともに小川洋子が贈る、新たなる傑作長編小説。第42回谷崎潤一郎賞受賞作。(中公文庫)

※「読売新聞」 2005年2月12日から同年12月24日にかけて、毎週土曜日に計46回にわたって連載された、著者の小川洋子にとって初めての新聞連載小説。2006年4月、中央公論新社より単行本が刊行。2009年6月、中公文庫にて文庫化。

あらすじ
朋子は、12歳のとき、1972年の春に、阪急電鉄の芦屋川駅の北西、芦屋川の支流である高座川沿いの山手に建つ伯父の屋敷を訪れ、それからおよそ1年間、そこで過ごした。屋敷は、伯父の父親が、ラジウム入りの清涼飲料水 「フレッシー」 の販売で成功を収めたことによって建てられたもので、1500坪の敷地面積を有するスパニッシュ様式の洋館であった。朋子の1つ年下の従妹であり、ドイツ人の血が流れているミーナは、喘息を患っていた。屋敷では、ポチ子と名付けられたコビトカバがペットとして飼われていた。(wikipediaより)

桁違いの資産家一家に預けられたまだ幼い少女にとって、そこはまるで別の世界に見えました。外観をはじめ、内装や調度品の一々に、自分のしてきた暮らしと比べ、そのあまりの落差に言葉を失ってしまいます。

一方、(使用人を含め) そこで暮らす人々は、朋子に対し、どこまでも優しいのでした。彼女は、元々家族の一員であったように迎え入れられ、家族と同様に愛されて1年を過ごします。その1年は、朋子にとって終生忘れられないものとなります。

とりわけ印象深かったのは、1つ年下の従妹のミーナのことでした。二人は出会ってすぐにうちとけて、仲の良い姉妹のようになります。ミーナは、何より本を読むのが好きでした。それと、珍しい絵柄のマッチ箱を集めることが。

ミーナという子供を一言で説明しようとすれば、喘息持ちの少女、本好きの少女、コビトカバに乗る少女と、さまざまな言い方ができるだろう。けれど他の誰とも違う、ミーナがミーナである証拠を示そうとするならば、マッチで美しい火を点すことのできる少女、と言わなければならない。

どういうきっかけでミーナがあのようにマッチ箱を愛するようになったのか、またどうして大人たちが危ないからとそれを止めなかったのかは、よく分からない。とにかく私が芦屋の家へ来た時、既にミーナのスカートのポケットにはいつも必ずマッチ箱が入っていたし、お風呂のガスに点火するのも、光線浴室のランプを点けるのも、停電の夜や特別な夕食の席でろうそくに火を点すのも、ミーナの役目と決まっていた。

彼女に出会う以前、私にとってマッチはマッチ以外の何ものでもなかった。ところがひとたび彼女がマッチ箱を取り出すと、それは無言の儀式になり、敬虔な祈りにもなることを知った。(本文より)

朋子とミーナのほかに、屋敷には血の繋がった家族の他にいる使用人や風変りなペットを含め、「家族」 と呼べる大勢の住人が暮らしています。

・伯父さん - 飲料水会社の現社長。本名はエーリッヒ・健。とびきりのハンサム。
・伯母さん - 伯父さんとは職場結婚。煙草を吸い、お酒を嗜みます。
・ローザおばあさん - 伯父さんの母親。旧ドイツ・ベルリン生まれ。
・龍一さん - 現在はスイスに留学中。そのため、朋子は龍一の部屋を自分の部屋として使っています。
・小林さん - 通いの庭師ですが、ポチ子の世話をはじめ雑用全般を引き受けています。
・米田さん - 住み込みのお手伝いさん。ローザおばあさんとは双子のような間柄です。
・カバのポチ子 - 長くいるペット。ミーナの “足” となって活躍しています。

ミーナの本名は、美奈子といいます。彼女は毎日、コビトカバのポチ子に乗って小学校に通っています。

この本を読んでみてください係数 85/100

◆小川 洋子
1962年岡山県岡山市生まれ。
早稲田大学第一文学部文芸専修卒業。

作品 「揚羽蝶が壊れる時」「妊娠カレンダー」「博士の愛した数式」「沈黙博物館」「貴婦人Aの蘇生」「ことり」「ホテル・アイリス」「ブラフマンの埋葬」他多数

関連記事

『カインは言わなかった』(芦沢央)_書評という名の読書感想文

『カインは言わなかった』芦沢 央 文春文庫 2022年8月10日第1刷 男の名は、

記事を読む

『緋い猫』(浦賀和宏)_書評という名の読書感想文

『緋い猫』浦賀 和宏 祥伝社文庫 2016年10月20日初版 17歳の洋子は佐久間という工員の青年

記事を読む

『ノボさん/小説 正岡子規と夏目漱石』(伊集院静)_書評という名の読書感想文

『ノボさん/小説 正岡子規と夏目漱石』(下巻)伊集院 静 講談社文庫 2016年1月15日第一刷

記事を読む

『コロナと潜水服』(奥田英朗)_書評という名の読書感想文

『コロナと潜水服』奥田 英朗 光文社文庫 2023年12月20日 初版1刷発行 ちょっぴり切

記事を読む

『田村はまだか』(朝倉かすみ)_書評という名の読書感想文

『田村はまだか』朝倉 かすみ 光文社 2008年2月25日第一刷 田村は、私の妻の旧姓です。そん

記事を読む

『ニムロッド』(上田岳弘)_書評という名の読書感想文

『ニムロッド』上田 岳弘 講談社文庫 2021年2月16日第1刷 仮想通貨をネット

記事を読む

『しゃもぬまの島』(上畠菜緒)_書評という名の読書感想文

『しゃもぬまの島』上畠 菜緒 集英社文庫 2022年2月25日第1刷 それは突然や

記事を読む

『希望が死んだ夜に』(天祢涼)_書評という名の読書感想文

『希望が死んだ夜に』天祢 涼 文春文庫 2023年9月1日第7刷 - 『あの子の殺

記事を読む

『まずいスープ』(戌井昭人)_書評という名の読書感想文

『まずいスープ』戌井 昭人 新潮文庫 2012年3月1日発行 父が消えた。アメ横で買った魚で作

記事を読む

『竜血の山』(岩井圭也)_書評という名の読書感想文

『竜血の山』岩井 圭也 中央公論社 2022年1月25日初版発行 北の鉱山に刻まれ

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『朱色の化身』(塩田武士)_書評という名の読書感想文

『朱色の化身』塩田 武士 講談社文庫 2024年2月15日第1刷発行

『あなたが殺したのは誰』(まさきとしか)_書評という名の読書感想文

『あなたが殺したのは誰』まさき としか 小学館文庫 2024年2月1

『ある行旅死亡人の物語』(共同通信大阪社会部 武田惇志 伊藤亜衣)_書評という名の読書感想文

『ある行旅死亡人の物語』共同通信大阪社会部 武田惇志 伊藤亜衣 毎日

『アンソーシャル ディスタンス』(金原ひとみ)_書評という名の読書感想文

『アンソーシャル ディスタンス』金原 ひとみ 新潮文庫 2024年2

『十七八より』(乗代雄介)_書評という名の読書感想文

『十七八より』乗代 雄介 講談社文庫 2022年1月14日 第1刷発

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑