『優しくって少しばか』(原田宗典)_書評という名の読書感想文
公開日:
:
最終更新日:2025/06/05
『優しくって少しばか』(原田宗典), 作家別(は行), 原田宗典, 書評(や行)
『優しくって少しばか』原田 宗典 1986年9月10日第一刷
つい最近のことです。「文章が上手い」 といって人から褒められた、と息子が言いました。息子のブログを読んだ人が 「原田宗典か、リリー・フランキーみたいな文章が書けるんじゃないか」 と言ってくれたようなのです。
原田宗典とリリー・フランキー!?・・・・・。微妙な並びですが、言いたいニュアンスは何となくわからなくもありません。そして、その人の年齢も。おそらく40歳を過ぎたくらいの人ではないかと思うのですが、ひょっとしたらもうちょっと年輩かも知れません。少なくとも若い人ではないでしょう。
久しぶりに 「原田宗典」 という名前を聞いたような気がします。今から20年以上も前になりますが、私はこの人が書く小説やエッセイが大好きでした。特にエッセイが面白く、刊行されている数もはるかに小説を上回っているのではないかと思います。
その人が息子に言ったのは、きっと原田宗典が書いたエッセイをイメージしてのことだと思います。軽妙洒脱、バカっぽいのですが 「そうだ、そうだ」 と頷いてしまう。バカを装いながら、肝心なところはズバッと決めてみせる。それが痛快で、心地いい。
大人らしくない大人、決して大人ぶらない大人の男、と言えばいいでしょうか。とにかくかっこよかったのです。こんな人になれたらいいと、一時期真面目に思っていました。でもなれんよな、ホントはめっちゃ頭のいい人やもんな、という諦めとともに。
今回、敢えて原田宗典の 「小説」 を読み返してみようと思ったのは、息子の話のせいばかりではありません。息子のことだけなら、何度も言うようですがエッセイでよかったのです。
しかし、原田宗典の現在を思うとき、読むべきはやはり小説ではと思ったのですが・・・・・・・。
が、しかし、うまく読めません。(中身とは別の) 余計なことばかりが頭の中を占領して読んでる気持ちになれません。何もなければガハハと笑えるようなふざけた文章も、「こんなの書くのに、どんだけ辛い思いをしてたんだろう・・・・・・・」と、つい読む手を止めて考えてしまいます。
そんなことの繰り返しでした。元々この人は小説が苦手だと公言していました。そんなことは知っていたし、小説とエッセイでは別人のようなのも承知の上でした。面白かったし、それでいいと思っていました。
「ふざけたことを大真面目にやる」 彼のパフォーマンスは本物で、決し て〈ふざけた〉 だけのものではありませんでした。行動したことは、きちんとエッセイにしてみせる。その作業にはかなりなエネルギーが必要だったろうと思います。
それでも、原田宗典が本当に書きたかったのは、彼が考える 「本物の小説」 だったのでしょう。でなければ、心の病気になどなるわけがありません。ましてや覚醒剤などは論外です。才気溢れる人であるが故の悲劇、というほか言うべき言葉がありません。
『優しくって少しばか』は、ごく初期の6編からなる作品集です。巻頭の 「優しくって少しばか」 だけは別物ですが、あとの5編はサスペンス調で背筋が少々寒くなるような短編ばかりが揃っています。
◆この本を読んでみてください係数 80/100
◆原田 宗典
1959年東京都新宿区新大久保生まれ。
早稲田大学第一文学部卒業。妹は、小説家の原田マハ。
作品 「時々、風と話す」「十九、二十」「しょうがない人」「何者でもない」「吾輩ハ苦手デアル」「透明な地図」「劇場の神様」「醜い花」他多数
◇ブログランキング
関連記事
-
-
『なまづま』(堀井拓馬)_書評という名の読書感想文
『なまづま』堀井 拓馬 角川ホラー文庫 2011年10月25日初版 激臭を放つ粘液に覆われた醜悪
-
-
『隠し事』(羽田圭介)_書評という名の読書感想文
『隠し事』羽田 圭介 河出文庫 2016年2月20日初版 すべての女は男の携帯を見ている。男は
-
-
『そして、海の泡になる』(葉真中顕)_書評という名の読書感想文
『そして、海の泡になる』葉真中 顕 朝日文庫 2023年12月30日 第1刷発行 『ロスト・
-
-
『イノセント・デイズ』(早見和真)_書評という名の読書感想文
『イノセント・デイズ』早見 和真 新潮文庫 2017年3月1日発行 田中幸乃、30歳。元恋人の家に
-
-
『夜の谷を行く』(桐野夏生)_書評という名の読書感想文
『夜の谷を行く』桐野 夏生 文芸春秋 2017年3月30日第一刷 39年前、西田啓子はリンチ殺人の
-
-
『夜蜘蛛』(田中慎弥)_書評という名の読書感想文
『夜蜘蛛』田中 慎弥 文春文庫 2015年4月15日第一刷 芥川賞を受賞した『共喰い』に続く作品
-
-
『時穴みみか』(藤野千夜)_書評という名の読書感想文
『時穴みみか』藤野 千夜 双葉文庫 2024年3月16日 第1刷発行 平成生まれの少女がある
-
-
『収容所(ラーゲリ)から来た遺書』(辺見じゅん)_書評という名の読書感想文
『収容所(ラーゲリ)から来た遺書』辺見 じゅん 文春文庫 2021年11月5日第23刷
-
-
『半自叙伝』(古井由吉)_書評という名の読書感想文
『半自叙伝』古井 由吉 河出文庫 2017年2月20日初版 見た事と見なかったはずの事との境が私に
-
-
『夜はおしまい』(島本理生)_書評という名の読書感想文
『夜はおしまい』島本 理生 講談社文庫 2022年3月15日第1刷 誰か、私を遠く