『ボニン浄土』(宇佐美まこと)_書評という名の読書感想文
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最終更新日:2024/01/07
『ボニン浄土』(宇佐美まこと), 作家別(あ行), 宇佐美まこと, 書評(は行)
『ボニン浄土』宇佐美 まこと 小学館 2020年6月21日初版
刺客は、思わぬところからやって来た。
1840年、気仙沼から出航した五百石船・観音丸は荒天の果てに、ある島に漂着する。そこには、青い目をした先住民たちがいた。彼らは、その地を 「ボニン・アイランド」 と告げた。
時を隔てた現在。すべてを失った中年男は、幼少期、祖父が大切にしていた木製の置物をふとしたことで手に入れる。それを契機に記憶が蘇り、彼は、小笠原行のフェリーに足を向けた。物語は、ゆっくりと自転を始める。怒りと赦し 超弩級の人間ドラマ(小学館)
日本 (東京) のはるか南の 「小笠原諸島」 が舞台となった小説を初めて読みました。選んでこの本を読んだのは、著者の 『愚者の毒』 を読んだからです。何か禍々しいもの、そして後にやって来る 「正しく生きた人の証」 のようなものを読みたいと思いました。
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1593年に小笠原貞頼という人物が、太平洋の真ん中に諸島を発見し、よって小笠原諸島と名付けられたとなってはいるが、この説には不明瞭な点が多いとあった。1670年に、阿波国の蜜柑船が母島に漂着する。これが文献に残る初めての正式な発見となる。彼らは本土に生還し、伊豆の奉行所に島の存在を報告した。
それに基づき、5年後には幕府から送られた調査団が巡検を行う。その時に作成された地図には 「無人島(むにんしま)」 と記された。英名でボニン・アイランドと称されるのは、この地図が始まりだ。
その約200年後の1830年にやって来た5人の欧米人と20人余りのハワイアンが、初めて父島に定住する。ハワイアンとは、ハワイ王国のオアフ島やその他太平洋諸島出身の使用人として雇われた女性たちだった。
鎖国中の日本では、大洋を航海できる大型船を造ることは禁じられていたので、小笠原に来る日本人は、もっぱら海で遭難した船の乗組員たちだった。彼らは島に定住することはなく、船を再建して去って行った。
文献にはそのうちのいくつかの事例が記されている。1840年に陸奥国気仙沼の船、観音丸が父島に漂着した。上陸した7人のうち、1人が島で亡くなったとある。残りの6人が翌年に手造りの船で出航し、下田に無事帰着した。
その時御役所の吟味を受けた際の口述書が残っていた。船頭の源之丞以下6人は、ボニン・アイランドで異国の人々から親切な待遇を受けた。若い水主(かこ) の1人が滞在中に病気で死んだが、島民らの協力もあり、船を再建できたので、それで戻って来た。(P172.173)
ボニン・アイランドに滞在中に病気で死んだという観音丸の乗組員 - その青年は名を吉之助といったのですが、実は、吉之助は死んでなどいません。島で出会った海の天女、死んでしまったマリアを想い、島に残ると決めたのでした。
死んだマリアと島に残ると決めた吉之助の、二人の恋の話 - これが一等最初の物語。他に、現代の日本で今を生きる2人の人物の、生き辛さを語る話が並行して進んで行きます。
時空を超え、やがて3つは重なり、ある物語へと帰結して行きます。その舞台が小笠原 - 誰が付けたか 「ボニン浄土」 と呼ばれた島でした。
※ “ボニン” の響きは “浄土” という言葉のイメージにとてもよく似合っていると思います。「ボニン浄土」 とは、どこか遠くの、(人のかたちをした) 人ではない誰かが住むところ。永遠の命を与えられ、穏やかに生きるためだけに生きている、そんなものたちがいる “楽園” に似たイメージがあります。
この本を読んでみてください係数 85/100
◆宇佐美 まこと
1957年愛媛県松山市生まれ。
松山商科大学人文学部卒業。
作品 「るんびにの子供」「愚者の毒」「虹色の童話」「入らずの森」「角の生えた帽子」「死はすぐそこの影の中」「熟れた月」他
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