『裏アカ』(大石圭)_書評という名の読書感想文
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最終更新日:2024/01/07
『裏アカ』(大石圭), 作家別(あ行), 大石圭, 書評(あ行)
『裏アカ』大石 圭 徳間文庫 2020年5月15日初刷
青山のアパレルショップ店長、真知子。どこか満たされない日々のある夜、部下の何気ない言葉がきっかけで下着姿の写真を自撮りし、Twitterの裏アカウントにUPしてみた。すると 『いいね』 の嵐が。実世界では得られぬ好反応に陶酔を覚えた真知子の投稿は過激さを増し、やがてフォロワーの男性と会うことにした。「ゆーと」 と名乗るその若者に、自分と同じ心の渇きを見い出した真知子は・・・・・・・。 (徳間文庫)
本書は、映画 『裏アカ』 (脚本 高田亮・加藤卓哉) の小説版として著者が書下ろした作品です。映画は、瀧内公美・神尾楓珠主演で2021年春全国ロードショー予定。
映画の話をしましょう。
主演は、映画 『火口のふたり』 で第93回キネマ旬報の主演女優賞受賞、第41回ヨコハマ映画祭最優秀新人賞受賞などその確かな演技力で今注目を集めている実力派女優・瀧内公美。思い描いていたものとは違う毎日に行き場のない気持ちを抱え、ふとしたきっかけでSNSの裏アカウントにハマっていく女性をリアルに演じている。
相手役の年下の男には話題のドラマ 「3年A組 - 今から皆さんは、人質です -」 などへの出演をきっかけにブレイク中の若手俳優・神尾楓珠。表の顔と裏の顔を巧みに使い分けながらも、心に深い闇を抱えて生きる複雑な青年を繊細に演じ切った。(以下略)
「本当の自分」 とは? SNS時代を生きる誰もが経験しうる物語
SNS上であれば自分以外の誰かになることもできる時代に、私たちはどう自分自身を見つめ、自分を保って生きるべきなのか。誰もが孤独や満たされぬ思いを抱えて生きる今、主人公・真知子の身に起きた出来事は決して他人事ではない。裏アカウントの沼にはまり込み、自分を見失った真知子がどこへ向かっていくのか。その姿は、きっと観る者の心をざわつかせる。(映画 『裏アカ』 公式サイトより)
洗面所に入ると、大きな鏡に下着姿のわたしが映った。ホックを外したブラジャーがショルダーストラップだけでぶら下がり、カップのところから小豆色をした乳首が見え隠れしていた。きょうのブラジャーはライトブルーだったけれど、ショーツは薄いピンクだった。小さな化繊のショーツの薄い生地の向こうに、縮こまった黒い毛がうっすらと透けて見えていた。
「スタイルがいいし、すごく綺麗なのに・・・・・・・」
店にいる時にさやかが言った言葉を、口に出して呟いてみる。
さやかが言った通り、三十四歳になった今も、わたしはモデルのようにすらりとした体つきをしている。ウエストはさやかに負けないくらいに細いし、二の腕や下腹部にも贅肉と呼ばれるようなものはまったくついていない。脇腹には肋骨がうっすらと透けていて、鎖骨が浮き上がり、左右の肩は少女のように尖っている。
下着姿で部屋に戻る。
ソファに投げ出されていたスマートフォンを手に取り、それを持って再び洗面所へと向かう。
スマートフォンのカメラ機能を立ち上げる。
そのレンズを洗面台の上の鏡へと向ける。
そこには下着姿のほっそりとした女が映っている。
ジェルネイルに彩られた指先で、シャッターの部分にそっと触れる。カシャッというシャッター音が響く。胸がドキンと高鳴る。
やってはならないことをしている。わたしは今、馬鹿なことをしている。
小説は、いつも以上に過激な描写が続きます。男の行為は時に暴力的にも感じられるのですが、それをも受け入れ、より快楽の高みに達しようとする真知子の、生への抜き差しならぬ “渇望” が描きたかったのだと思います。
この本を読んでみてください係数 80/100
◆大石 圭
1961年東京都目黒区生まれ。
法政大学文学部卒業。
作品「履き忘れたもう片方の靴」「蜘蛛と蝶」「女が蝶に変るとき」「奴隷契約」「殺意の水音」「甘い鞭」「殺人鬼を飼う女」「地獄行きでもかまわない」他多数
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