『刑罰0号』(西條奈加)_書評という名の読書感想文

『刑罰0号』西條 奈加 徳間文庫 2020年2月15日初刷

刑罰0号 (徳間文庫)

祝 直木賞受賞! 新直木賞作家が近未来を舞台に描く異色の傑作SF

被害者の記憶を加害者に追体験させることができる機械 〈0号〉。死刑に代わる贖罪システムとして開発されるが、被験者たち自身の精神状態が影響して、成果が上がらない。その最中、開発者の佐田博士が私的に 〈0号〉 を使用したことが発覚し、研究所を放逐された。開発は中止されたと思われたが、密かに部下の江波はるかが引き継いでいた。〈0号〉 の行方は!? [解説:大矢博子] (ヒューマン・ドラマ)

2019年、無期懲役になりたいから という理由で人を殺した犯人が、希望通り無期懲役の判決を受けた、という出来事があった。無期懲役というのはとても重い量刑だ。だがそれが被告の希望通りであったことに、重い石を飲んだような気持ちになった。受け入れがたい、と思った。なぜ受け入れがたいのか。被害者やそのご家族が受けた悲しみや無念と、希望が叶った被告の状態が、釣り合わないと感じたからである。

罪と罰は釣り合っていてほしい。目には目を、歯には歯をというのは原始的に過ぎるかもしれないが、それでも、理不尽で酷い事件のニュースを聞いたとき、犯人に対してどうしてもこう思ってしまう。被害者の身になってみろ」 「自分が被害者の側になったときも同じことが言えるのかと。

だが、ここではたと思考が止まった。そう考えた私は決して 被害者の身になって いたわけではなく、ただ自分の報復感情に任せた思いに過ぎないと気づいたからだ。ニュースを見ただけの赤の他人である私が、被害者やそのご家族がどんな思いで何を願っているのか、安易に想像できることではない

罰とは何か。被害者の身になるとはどういうことか。
そんなシビアなテーマに、SFの手法で向き合ったのが本書刑罰0号である。キーワードは、記憶、だ。(大矢博子/解説より)

思い出したのは、2019年4月、東京・池袋で発生した高齢男性による乗用車暴走事故でした。この事故で、松永真菜さん (31歳) と娘の莉子ちゃん (3歳) が亡くなりました。莉子ちゃんが大好きだった公園で遊んだ帰り道、母親の真菜さんが莉子ちゃんを乗せた自転車で青信号の横断歩道を渡る途中の出来事でした。

車を運転していた飯塚幸三被告が88歳という高齢だったことに加え、旧通産省工業技術院の元院長 - つまりは “元高級官僚” だったこともあり、大いに世間の注目を浴びました。

最愛の妻と子どもを同時に亡くした、夫であり父の松永拓也さん (34歳) の時の心境とは、如何なるものだったのでしょう。喪失感と絶望感、突然の訃報に二人に言葉ひとつ残せなかった悔しさに、果てしない未練に、歯噛みする思いでいたことでしょう。

そして何より、飯塚被告の常軌を逸した暴走に、激しい怒りを覚えたことでしょう。どんな理由があったにせよ、許せなかったはずです。

初公判において、自動車運転処罰法違反 (過失運転致死傷) 罪に問われた飯塚被告は、起訴内容を否認し、何と、無罪を主張します。車の不具合を理由に自らの過失を否定した後に、被害者参加した拓也さんに陳謝し、頭を下げたのでした。

これに対し拓也さんは 「予想していたとはいえ、残念でならない」 と述べ、「二人の命や遺族と向き合っているようには思えなかった」 と不信感をにじませたのでした。拓也さんが求めたものは、前置きなしの、飯塚被告の心からの謝罪、その一点でした。

さて、

例えばですが、(凶悪犯罪を犯した) 犯人が未成年であった場合、未成年という理由だけで、死刑に処すどころか無期懲役さえもままなりません。被害者や遺族にしてみれば、これでは憤りの持って行き場がありません。

思い余って自らの手で私刑に及んでしまう、過去にはそんな例がありました。そこで、「加害者を殺さず、それでいて被害者の気持ちを、死刑や禁固刑よりずっとやわらげることができる」 方法が密かに研究されていました。

被害者遺族が望んでいるもの - それは、何より 「加害者の贖罪」 であるということ。その実現に向けて開発されたのが 「刑罰0号」 でした。

この本を読んでみてください係数  85/100

刑罰0号 (徳間文庫)

◆西條 奈加
1964年北海道中川郡池田町生まれ。
北海道帯三条高等学校を経て、東京英語専門学校を卒業。

作品 「金春屋ゴメス」「涅槃の雪」「まるまるの毬」「心寂し川」で第164回直木賞受賞 他多数

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