『ラブレス』(桜木紫乃)_書評という名の感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/14 『ラブレス』(桜木紫乃), 作家別(さ行), 書評(ら行), 桜木紫乃

『ラブレス』 桜木 紫乃  新潮文庫 2013年12月1日発行

桜木紫乃は 『ホテルローヤル』 という小説で最近直木賞を受賞した、北海道の釧路市生まれの女性です。賞の発表があったとき、『ホテルローヤル』 という受賞作のタイトルに私の何かが反応し、これは一刻も早く読まねばとすぐに本屋へ行きました。

自分でもよく説明できないのですが、時々こういうことが起こります。そして、そうして読んだものの多くは最初に感じた漠然とした期待を裏切らない読後感を私に与えてくれるのでした。なかなかに爽快で、してやったり感満載の、とても幸せな瞬間です。

はじめて読んだ作家の小説が気に入ると次に私がすることは、というか大凡の人がそうでしょうが、その作家の次なる作品を読みたいと思うことです。

デビュー作でない限りできれば受賞作以前のもの、最初に世に出た作品とか評価を受けた作品を探します。

その作家の原点となる作品を読んでからでないと安心して他のが読めないのです。

これは、好きな人ができて付き合いはじめるとその人のもっと昔のこと、知り合う以前のことを俄然知りたくなる気持ちと通じるものがあります。

肝心の『ラブレス』の紹介が後回しになりました。

この作品は『ホテルローヤル』と相前後して発表されている長編小説です。

この作品も名のある文学賞を受賞している作品で、二冊目にこれを読んで私は桜木紫乃という作家の書く小説の真のファンになりました。

この人の書くものにハズレはないことを確信したからです。

舞台は北海道の道東。

開拓村での極貧生活から始まる、百合江、妹の里実、そして姉妹の母親や娘たちを含めた凄絶な人生が描写されています。

物語は昭和25年からスタートして以後60年におよぶ時間の個人史が綴られています。

特に百合江の人生は波乱万丈、この登場人物に実際のモデルが存在するのかどうかは分かりませんが、生まれ落ちた場所とその境遇、風土や習慣、そして時代の変遷とともに何処へ自分が辿りつくのかももはや朦朧となりつつ時々の偶然にただ寄り添うように生きて歳を重ねていく様が飄々と描かれているのです。

◆この本を読んでみてください係数  85/100


◆桜木 紫乃

1965年北海道釧路市生まれ。

高校卒業後裁判所のタイピストとして勤務。

24歳で結婚、専業主婦となり2人目の子供を出産直後に小説を書き始める。

2007年『氷平線』でデビュー。

ゴールデンボンバーの熱烈なファンであり、ストリップのファンでもある。

作品 「氷平線」「凍原」「ラブレス」「起終点駅」「ホテルローヤル」「無垢の領域」「蛇行する月」「星々たち」など

関連記事

『月蝕楽園』(朱川湊人)_書評という名の読書感想文

『月蝕楽園』朱川 湊人 双葉文庫 2017年8月9日第一刷 癌で入院している会社の後輩。上司から容

記事を読む

『憧れの作家は人間じゃありませんでした』(澤村御影)_書評という名の読書感想文

『憧れの作家は人間じゃありませんでした』澤村 御影 角川文庫 2017年4月25日初版 今どき流

記事を読む

『その街の今は』(柴崎友香)_書評という名の読書感想文

『その街の今は』柴崎 友香 新潮社 2006年9月30日発行 ここが昔どんなんやったか、知りたいね

記事を読む

『氷平線』(桜木紫乃)_書評という名の読書感想文

『氷平線』桜木 紫乃 文春文庫 2012年4月10日第一刷 桜木紫乃の初めての作品集。200

記事を読む

『震える天秤』(染井為人)_書評という名の読書感想文

『震える天秤』染井 為人 角川文庫 2022年8月25日初版発行 10万部突破 『

記事を読む

『孤蝶の城 』(桜木紫乃)_書評という名の読書感想文

『孤蝶の城 』桜木 紫乃 新潮文庫 2025年4月1日 発行 夜のクラブ、芸能界 - スポッ

記事を読む

『幻年時代』(坂口恭平)_書評という名の読書感想文

『幻年時代』坂口 恭平 幻冬舎文庫 2016年12月10日初版 4才の春。電電公社の巨大団地を出て

記事を読む

『罪の声』(塩田武士)_書評という名の読書感想文

『罪の声』塩田 武士 講談社 2016年8月1日第一刷 多くの謎を残したまま未解決となった「グリコ

記事を読む

『一億円のさようなら』(白石一文)_書評という名の読書感想文

『一億円のさようなら』白石 一文 徳間書店 2018年7月31日初刷 大きな文字で、一億円のさような

記事を読む

『おるすばん』(最東対地)_書評という名の読書感想文

『おるすばん』最東 対地 角川ホラー文庫 2019年9月25日初版 絶対にドアを開

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『今日のハチミツ、あしたの私』(寺地はるな)_書評という名の読書感想文

『今日のハチミツ、あしたの私』寺地 はるな ハルキ文庫 2024年7

『アイドルだった君へ』(小林早代子)_書評という名の読書感想文

『アイドルだった君へ』小林 早代子 新潮文庫 2025年3月1日 発

『現代生活独習ノート』(津村記久子)_書評という名の読書感想文

『現代生活独習ノート』津村 記久子 講談社文庫 2025年5月15日

『受け手のいない祈り』(朝比奈秋)_書評という名の読書感想文

『受け手のいない祈り』朝比奈 秋 新潮社 2025年3月25日 発行

『蛇行する月 』(桜木紫乃)_書評という名の読書感想文

『蛇行する月 』桜木 紫乃 双葉文庫 2025年1月27日 第7刷発

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑