『雨に殺せば』(黒川博行)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2015/05/24 『雨に殺せば』(黒川博行), 作家別(か行), 書評(あ行), 黒川博行

『雨に殺せば』黒川 博行 文芸春秋 1985年6月15日第一刷


雨に殺せば (創元推理文庫)

 

今から30年前、第2回サントリーミステリー大賞の佳作受賞作品です。大変人気のある「大阪府警シリーズ」のごく初期の作品です。

「佳作受賞」というのが、いかにもこの人らしい。実は第1回も『二度のお別れ』で佳作、86年、3度目の『キャッツアイころがった』で、漸う大賞を射止めています。

ご存じの方も多いと思いますが直木賞の場合は尚更で、1996年『カウントプラン』で初めて候補になり、その後なんと4度の候補を経て、18年後の2014年遂に『破門』で直木賞受賞作家となっています。これは一般のニュースでも報道されたほどの、かなり有名な話です。

閑話休題。

舞台は大阪、事件が発生したのは12月10日午前10時20分頃。三協銀行築港支店の現金輸送車が襲われ、府立南港高校、住之江西高校、及び市立南港西中学校に運搬途中のボーナス、計1億970万円が強奪されます。

犯行場所は阪神高速湾岸線、住之江南港と港区港晴を結ぶ港大橋の上で、輸送の任にあたっていた行員2名が短銃で撃たれ死亡しています。捜査はまず、輸送車がなぜ橋の中央で停まっていたのかという疑問の解明からスタートします。

事件の2日後、今度は築港支店の行員・川添隆幸(29)が公団住宅11階の自宅のベランダから飛び降りて死亡したという報せが入ります。川添は前日、現金強奪事件について事情聴取を受けた行員の一人です。現場の状況から、川添の死は自殺と断定されます。

事件の捜査にあたるのが、大阪府警捜査一課強盗班刑事の名物コンビ、黒さんとマメちゃんの〈黒マメコンビ〉です。黒さんこと黒木憲造巡査部長は、30歳半ばの独身男。2DKで家賃が月々4万円の独身用住宅で独り侘しく、かつ怠惰に暮らしています。

マメちゃんのフルネームは亀田淳也。30歳手前で既婚者。童顔、色黒で背が低く、ころころとした体形から皆は彼を「マメダ」と呼びます。「豆狸」と「カメダ」でマメダ、通称マメちゃんです。

賭け事と酒をこよなく愛し、私生活には語るべきものがない、およそ警察官らしからぬ2人です。その外見と関西弁丸出しのアホな会話からは想像しにくいのですが、実はこの二人見た目とは違いタフで優秀な刑事なのです。

特にマメちゃんは、たとえ担当外の事件であっても休日返上で訊き込みに没頭するような、探偵顔負けの粘りと推理力の持ち主です。この事件の最終局面でも、その実力が如何なく発揮されます。
・・・・・・・・・・
事情聴取の際にうろたえるような素振りをみせた川添。その川添が、4時間後には死体となって発見される。・・・黒さんとマメちゃんは、川添が何らかの形で現金強奪事件に関わっているとみて、事件当日のアリバイ捜査に乗り出します。

その捜査から浮かんで来たのが、「ミムロ」と名乗る不審な人物。一方、川添が担当した貸付業務を調べていた二課・岡崎の協力で浮上したのが、大手の「碧水画廊」と街金の「桜木商事」という会社。どうやら川添は不正融資に手を染めていたらしいことが分かります。

川添がしたのは「拘束預金」=「両建預金」と、さらに悪質な「浮き貸し」という行為です。金融機関以外にお勤めの方には、何のことかさっぱり分からないと思いますが、どうかご心配なく。小説の中では、丁寧で分かり易く解説されていますので。

ついでに言いますと、このような金融機関の融資に絡む専門的な手法の説明だけでなく、そもそもの強奪事件の推理が捩れて頭の中がこんがらがるような事態を、黒川博行はちゃんと想定しています。

ややこしくなる直前には、一旦それまでの事実を時系列に整理することで、ストレスなく続きが読み進められる工夫がされています。どうか安心してください。実に心遣いの行き届いた読み物なのです。

1億余りの現金が奪われ、3名の行員が死亡する。-実は、この事件の背後には、予想だにしない〈本来の〉企みが隠されています。そして、事件の真相が明らかになるまでには、さらに2人の人間が死ぬことになります。

古い作品ですが、内容は決して古くありません。ただ一点断っておきたいのは、冒頭の説明で気付いておられるでしょうが、この事件が起きたのが、まだボーナスが現金で支給されていた、今よりはずっと良い時代の話だということぐらいです。

 

この本を読んでみてください係数 85/100


雨に殺せば (創元推理文庫)

◆黒川 博行
1949年愛媛県今治市生まれ。6歳の頃に大阪に移り住み、現在大阪府羽曳野市在住。
京都市立芸術大学美術学部彫刻科卒業。妻は日本画家の黒川雅子。
スーパーの社員、高校の美術教師を経て、専業作家。無類のギャンブル好き。

作品 「二度のお別れ」「左手首」「キャッツアイころがった」「カウント・プラン」「絵が殺した」「疫病神」「国境」「悪果」「文福茶釜」「暗礁」「螻蛄」「破門」「後妻業」他多数

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