『スメル男 (新装版)』(原田宗典)_書評という名の読書感想文

『スメル男 (新装版)』原田 宗典 講談社文庫 2021年1月15日第1刷

スメル男 新装版 (講談社文庫)

腐ったような臭いがし、吐き気を催す」 異臭はほぼ都内全域に漂い、風向きによっては千葉、埼玉などの周辺地域へも波及している模様・・・・・・・。異臭の原因未だ不明 前代未聞のパニック・ストーリーの名作、ついに新装版に!

無嗅覚症になったぼくのために臭いの研究をしていた親友が事故死する。悲嘆にくれていると彼の恋人を名乗る女性が現れ、ぼく宛だと言ってシャーレを手渡す。その中身に触れたときから体に異変が起こる。ぼくの臭いを嗅いだ人がみんな嘔吐し、ついには東京都内全域を巻き込む異臭騒ぎに。傑作小説の新装版! (講談社文庫)

[主な登場人物]
武井 武留 主人公。岡山から上京して東京の大学に通う。母の死で無嗅覚症に。
六川 渉 武留の高校時代からの親友。東大農学部に籍を置いて、バイオテクノロジーを研究。
マリノレイコ 六川の元恋人。六川の死がきっかけで、武留の協力者に。
山葉 みどり 武留の元恋人。武留の無嗅覚症が原因で、彼の元を離れていった。
津田 ナルヒト 日本全国から密かに選抜された天才中学生。なぜか武留の味方に。
マキジャク 井上牧夫) ナルヒトと同じ天才少年。所属する 「日本天才アカデミー」 でトップの成績。

[事の経緯を簡潔に]


嗅覚を失った青年がとてつもない悪臭を放ち始め、東京中が大混乱におちいる。原因不明の事態に戸惑いながらも、青年は天才少年たちの助けを借りて自身が巻き込まれた謎の正体に迫っていく、という奇想天外な冒険譚だが、物語を支えているのは友情であり、恋であり、家族の情であり、主人公の孤独と葛藤、希望と絶望だ。つまり、原田宗典は青春小説の要素をぎゅっと詰め込んで、やさしい視線で主人公の成長を描いている。そのみずみずしさが心地のよい読後感を生み出しているのである。

主人公は緊張したり興奮したりするとどもってしまう繊細な青年で、無残な交通事故で母親を亡くしたショックのあまり無嗅覚症となる。匂いがしないと食べ物の味も半減、性欲もわかず、あらゆることが面倒くさく厭世的な気分にすらなる。始終部屋でごろごろしているうちに恋人に振られ、唯一の親友まで事故で亡くしてしまう。

孤独と絶望に打ちのめされ酒浸りの怠惰な日々を送っていた彼は、母親の保険金と事故の補償金がなくなる11年後に死ぬことを決める。自身の没年月日を決めたその日に親友の元カノから電話がかかってきて、・・・・・・・ (解説より)

ここから、物語は一気に加速します。

無嗅覚症になった上に、今度は人が吐き気を催す (十中八九実際に吐いてしまう) ほどの悪臭を放つようになります。腋の下から浸み出す膿は、一向に止まる気配がありません。とんでもない悪臭に最初に反応したのが、犬でした。周りの犬の遠吠えに始まり、彼の “体臭” は瞬く間に広がっていきます。区を越えて東京都内全域に。風向きによっては隣県にまで。

臭いの元が武留であるのが遂に詳らかになり、マスコミ各社は彼に対し、どれもが興味本位で、まるで容赦のない名前を付けます。それが、『スメル男』 『悪臭野郎』 『超ワキガ男』 『ウルトラ・ワキガ男』 『異臭人間』 『史上最悪臭の男』 『東京を臭くした張本人』 といったものでした。

彼でなくても、これでは 「いっそ死んでしまいたい」 と思うのも当然で、底なしの彼の絶望感は、何より臭いの原因となるものの 「正体がわからない」 という点でした。

マリノレイコと知り合ったのは、彼の人生の、そんなどん底の頃のことでした。この先物語は思いもしない、前代未聞のパニック・ストーリーへと展開していきます。

※驚くべきは、この物語にはあの東日本大震災で甚大な被害を被った福島原発が登場し、メルトダウンの危険性についての詳細な説明がなされています。1989年のこの小説で、後に起こる現実をあたかも予言するかのように。実に20年以上も前のことです。

若い頃ですが、私は原田宗典の特に抱腹絶倒のエッセイが大好きでした。小説なら 『優しくって少しばか』 が記憶に残っています。長い間が空きましたが、この人本当は小説を書きたかったんですね、それも大真面目の。作風からはうかがうことができませんが、自分が書きたいと思う小説が書けずに悩みに悩み、事件を起こし、いっとき重い病気にもなりました。そんなことをご存知でしょうか。

この本を読んでみてください係数 85/100

スメル男 新装版 (講談社文庫)

◆原田 宗典
1959年東京都新宿区新大久保生まれ。
早稲田大学第一文学部卒業。妹は、小説家の原田マハ。

作品 「時々、風と話す」「十九、二十」「しょうがない人」「優しくって少しばか」「何者でもない」「吾輩ハ苦手デアル」「透明な地図」「劇場の神様」「醜い花」他多数

関連記事

『隠し事』(羽田圭介)_書評という名の読書感想文

『隠し事』羽田 圭介 河出文庫 2016年2月20日初版 隠し事 (河出文庫) &nbs

記事を読む

『静かな雨』(宮下奈都)_書評という名の読書感想文

『静かな雨』宮下 奈都 文春文庫 2019年6月10日第1刷 静かな雨 (文春文庫)

記事を読む

『その街の今は』(柴崎友香)_書評という名の読書感想文

『その街の今は』柴崎 友香 新潮社 2006年9月30日発行 その街の今は (新潮文庫) ここが昔

記事を読む

『作家的覚書』(高村薫)_書評という名の読書感想文

『作家的覚書』高村 薫 岩波新書 2017年4月20日第一刷 作家的覚書 (岩波新書) 「図

記事を読む

『ジャズをかける店がどうも信用できないのだが・・・・・・。』(姫野 カオルコ)_書評という名の読書感想文

『ジャズをかける店がどうも信用できないのだが・・・・・・。』姫野 カオルコ 徳間文庫 2016年3月

記事を読む

『死にぞこないの青』(乙一)_書評という名の読書感想文

『死にぞこないの青』乙一 幻冬舎文庫 2001年10月25日初版 死にぞこないの青 (幻冬舎文

記事を読む

『死にたくなったら電話して』(李龍徳/イ・ヨンドク)_書評という名の読書感想文

『死にたくなったら電話して』李龍徳(イ・ヨンドク) 河出書房新社 2014年11月30日初版

記事を読む

『痺れる』(沼田まほかる)_書評という名の読書感想文

『痺れる』沼田 まほかる 光文社文庫 2012年8月20日第一刷 痺れる (光文社文庫)

記事を読む

『ブエノスアイレス午前零時』(藤沢周)_書評という名の読書感想文

『ブエノスアイレス午前零時』藤沢 周 河出書房新社 1998年8月1日初版 ブエノスアイレス午

記事を読む

『政治的に正しい警察小説』(葉真中顕)_書評という名の読書感想文

『政治的に正しい警察小説』葉真中 顕 小学館文庫 2017年10月11日初版 政治的に正しい

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

『5時過ぎランチ』(羽田圭介)_書評という名の読書感想文

『5時過ぎランチ』羽田 圭介 実業之日本社文庫 2021年10月15

『きみはだれかのどうでもいい人』(伊藤朱里)_書評という名の読書感想文

『きみはだれかのどうでもいい人』伊藤 朱里 小学館文庫 2021年9

『はるか/HAL – CA』(宿野かほる)_書評という名の読書感想文

『はるか/HAL - CA』宿野 かほる 新潮文庫 2021年10月

『変な家』(雨穴)_書評という名の読書感想文

『変な家』雨穴 飛鳥新社 2021年9月10日第8刷発行 変な

『でえれえ、やっちもねえ』(岩井志麻子)_書評という名の読書感想文

『でえれえ、やっちもねえ』岩井 志麻子 角川ホラー文庫 2021年6

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑