『葦の浮船 新装版』(松本清張)_書評という名の読書感想文

『葦の浮船 新装版』松本 清張 角川文庫 2021年6月25日改版初版発行

葦の浮船 新装版 (角川文庫)

期待していた “社会派推理小説” とはやや趣きが異なる作品ではありますが、これはこれとして、案外楽しく読めました。しかし、今、なぜわざわざ 「松本清張」 なのか? しかも 「ゼロの焦点」 や 「点と線」 や 「或る 『小倉日記』 伝」 ではなくて、(おそらくはあまり知られていない) なぜこの作品なのか? それはわかりません。

腐敗人事の裏で有名学者の醜聞が!  巨匠が仕掛けた戦慄のラスト!

小関と折戸は同じ大学に勤める助教授同士。業績もなく風采の上らない小関に対し、折戸は秀才型で女性からも人気。性格は対照的だが不思議とウマが合った。折戸は妻子ある身で通信教育で教える人妻と不倫関係に陥るが、やがて出世に目がくらみ、相手を面倒に思うようになる。さらには、小関が親密にする女性まで毒牙にかけようとし始めて・・・・・・・。学問の場に蔓延る腐敗人事と、生々しい男女の愛憎を描き切った松本清張の野心作! (角川文庫)

同じく東京のR大学に勤めているが、性格も学問の研究スタイルも正反対の二人の助教授を主人公とした本作品 『葦の浮船』 は、1966年から翌年にかけて雑誌 「婦人倶楽部」 に連載された。

折戸二郎は36歳、国史科の上代史専攻の助教授で、二つ年下の小関久雄は中世史専攻の助教授である。秀才型の折戸は、独自の発想から研究をすすめて業績もあった。自らを鈍才と思っている小関は、学問研究において尊敬してやまぬ折戸から離れられず、羽振りがよく女遊びのすぎる折戸に辟易としつつも、その頼みを断りきれない。折戸には既婚者で過剰なまでに情熱的な笠原幸子を、小関には知的で冷静、考古学好きの近村達子を配し、物語は酷 (むご) い結末に向かって読者をひっぱりつづける。

(一方)

個々の人間関係がめまぐるしくうごくのに対し、ほとんど揺るがないのが、大学における学閥の支配である。

「内」 で独裁的にふるまうのが史学会の大物でもある浜田学部長で、折戸も小関も浜田の弟子として出世し、すでに助教授のポストを得ていた。他方、浜田と同じ磯村博士門下の西脇俊雄は、浜田によってずっと専任講師にとめおかれたままである。浜田にまさる学問的業績がありながら、あらゆる権威を認めず学会にも出ない万年講師の西脇は、見せしめ人事の犠牲者として、大学内部の 「外」 をたえず可視化する。

作品中では、登場する学者それぞれの学問的傾向と具体的な研究内容にはほとんどふれられていない。ときに物足りなく感じられもするが、その内容の如何を問わず、個々の大学において形成されている学問の顔をした悪しき支配秩序をうかびあがらせたい、というのが松本清張の目論見であったろう。戦前の堅固で排他的なアカデミズムにくらべればはるかに弱体化したかに見えて、しかしそのじつ、小さくソフトでありながら権威主義的な秩序が大学内、学部内にいくつも根をはっているという醜悪なさまを、である。(高橋敏夫/解説より抜粋)

※折戸二郎の変わり身の早さに、大学人事のあまりなご都合主義に、あ然とすると思います。「男と女」 も 「大学内部」 のことも、今も昔も変わらぬような・・・・・・・、否、昔の方が露骨に過ぎて節度がないような。そんな感じを受けました。

読み易く、さほど古さは感じません。男と女の下世話な話が満載で、為になると言えば言えそうな。女性の細かな心理描写に関していえば、男の “ホンネ” が垣間見えるような。そんな思いになりました。

この本を読んでみてください係数 80/100

葦の浮船 新装版 (角川文庫)

◆松本 清張
1909年福岡県生まれ。印刷工を経て朝日新聞西部本社に入社。53年、「或る 『小倉日記』 伝」 で芥川賞を受賞。56年、朝日新聞を退社し、作家生活に入る。

代表作 「ゼロの焦点」「点と線」「小説帝銀事件」他多数。92年没。

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