『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(ブレイディみかこ)_書評という名の読書感想文
公開日:
:
最終更新日:2024/01/07
『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(ブレイディみかこ), ブレイディみかこ, 作家別(は行), 書評(は行)
『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』ブレイディみかこ 新潮文庫 2021年7月1日発行

副題は、The Real British Secondary School Days
はじめに、この本について当時中学二年生だった並木志織さんという女の子が書いた感想文 (の一部) を紹介します。何についてが書いてあり、何を学ぶべきかがとてもよくわかります。
本を読み進めていて、「そもそも人は何故人種や容姿、能力や考え方が違うと、奇異な目で見られたり差別されたりするのか? そうだとすると多様性はトラブルの原因になってしまうし、多様でない、均一な集団の方が平和なのではないか? 」 という疑問が湧いてきた。そんな私に 「母ちゃん」 が 「それは違うんじゃない? 」 と本の中から語りかけてくれた。「多様性ってやつは物事をややこしくするし、ケンカや衝突が絶えないし、そりゃない方が楽よ。多様性はうんざりするほど大変だしめんどくさいけど、無知を減らすからいいことなんだと母ちゃんは思う。」 と。
確かに多様性があるということは、自分とは違う個性や考え方が多種多様にあるということで、その分 「知らない」 「分からない」 ことが多くあるということだ。その時、他者について 「知ろう」 「理解しよう」 といった 「知ろうとする行動」 がないと、無知なまま偏見や差別が生まれるのだということを 「母ちゃん」 の言葉から学ばせてもらった。(原文ママ/解説より)
- ということで、ここで提案です。(たまには真面目になって)
・あらゆるジャンルにおける 「多様性」 ということについて考えてみましょう。
・複雑化する 「レイシズム」 について考えてみましょう。
・「エンパシー」 と 「シンパシー」 の違いについて考えてみましょう。
※ヒントはすべて作品中にあります。
さて、後先になりましたが、この本は英国・ブライトンで暮らす日本人女性のブレイディみかこさんが、当時中学生だった息子とのつき合いを通し、「地べた」の英国を一緒に見つめていく物語です。
貧困、差別、分断の様子などが取り上げられています。みかこさんの 「配偶者」 はアイルランド人で、当然のこと、一人息子の 「ぼく」 は日本人であり、また日本人ではありません。アイルランド人であり、またアイルランド人でもありません。
地元の元底辺中学校に入学した当初、それがもとで 「イエローでホワイト」 な 「ぼく」 は 「ちょっとブルー」 になり、それをノートにメモしたことがありました。
但し、心配は無用。母が母なら、息子も息子。彼は思う以上に気丈夫で、中学入学当初の完全アウェイな状況を、あっという間に “ホーム” に変えてみせます。
元来彼は冷静で、理知的な人間でした。滅多なことでは落ち込まず、その上敬虔なクリスチャンでもありました。一途に正統派な彼は、ほとんどが白人の中で唯一の “東洋人” でありながら、そのうち多くのクラスメイトの信頼を得るようになります。
人種も貧富の差もごちゃまぜの元底辺中学校に通い始めたぼく。人種差別丸出しの移民の子、アフリカからきたばかりの少女やジェンダーに悩むサッカー小僧。まるで世界の縮図のようなこの学校では、いろいろあって当たり前、みんなぼくの大切な友だちなんだ - 。ぼくとパンクな母ちゃんは、ともに考え、ともに悩み、毎日を乗り越えていく。最後はホロリと涙のこぼれる感動のリアルストーリー。(新潮文庫)
(本作 『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』 は、2019年の発刊。自身の子育てについて新潮社の雑誌 『波』 に月1回連載していたものがベースとなっています)
※最後に著者のことをちょっと詳しく。
ブレイディ みかこ (Brady Mikako、1965年6月7日生) はイギリス・ブライトン在住の保育士、ライター、コラムニスト。
福岡県福岡市生まれ。貧困家庭出身。日本在住の頃からパンクミュージックに傾倒し、ジョン・ライドン (ジョニー・ロットン) に感化される。高校を卒業して上京、そして渡英。ロンドンやダブリンを転々とし、無一文となって日本に戻ったが、1996年に再び渡英し、ブライトンに住み、ロンドンの日系企業で数年間勤務。その後フリーとなり、翻訳や著述を行う。英国在住は20年を超える。
英国では、保育士の資格を取得し、失業者や、低所得者が無料で子どもを預けられる託児所で働く。また、成人向けの算数教室のアシスタントを経験する。そこで経済格差を実感するとともに、算数の二ケタの計算ができない大勢の大人に接して教育格差にも驚きを感じたという。彼女はもともと 「Yahoo! ニュース個人」 で政治時評や、社会時評を書いており、託児所が英国の緊縮財政で潰れるのを経験し、反緊縮の考えを強く持つようになったという。(wikipediaからの抜粋)
この本を読んでみてください係数 85/100

◆ブレイディみかこ
1965年福岡県生まれ。
県立修猷館高校卒。’96年から英国ブライトン在住。
作品 「子どもたちの階級闘争」他多数。本作でYahoo! ニュース|本屋大賞2019年ノンフィクション本大賞を受賞。
関連記事
-
-
『八月の青い蝶』(周防柳)_書評という名の読書感想文
『八月の青い蝶』周防 柳 集英社文庫 2016年5月25日第一刷 急性骨髄性白血病で自宅療養するこ
-
-
『晩夏光』(池田久輝)_書評という名の読書感想文
『晩夏光』池田 久輝 ハルキ文庫 2018年7月18日第一刷 香港。この地には、観光客を標的に窃盗
-
-
『ブエノスアイレス午前零時』(藤沢周)_書評という名の読書感想文
『ブエノスアイレス午前零時』藤沢 周 河出書房新社 1998年8月1日初版 第119回芥川賞受賞
-
-
『ふたりぐらし』(桜木紫乃)_書評という名の読書感想文
『ふたりぐらし』桜木 紫乃 新潮文庫 2021年3月1日発行 元映写技師の夫・信好
-
-
『ファーストラヴ』(島本理生)_彼女はなぜ、そうしなければならなかったのか。
『ファーストラヴ』島本 理生 文春文庫 2020年2月10日第1刷 第159回直木賞
-
-
『マチネの終わりに』(平野啓一郎)_書評という名の読書感想文
『マチネの終わりに』平野 啓一郎 朝日新聞出版 2016年4月15日第一刷 物語は、中年にさしか
-
-
『バラカ』(桐野夏生)_書評という名の読書感想文
『バラカ』桐野 夏生 集英社 2016年2月29日第一刷 アラブ首長国連邦最大の都市・ドバイ
-
-
『サロメ』(原田マハ)_書評という名の読書感想文
『サロメ』原田 マハ 文春文庫 2020年5月10日第1刷 頽廃に彩られた十九世紀
-
-
『蓮の数式』(遠田潤子)_書評という名の読書感想文
『蓮の数式』遠田 潤子 中公文庫 2018年1月25日初版 35歳のそろばん塾講師・千穂は不妊治療
-
-
『いやしい鳥』(藤野可織)_書評という名の読書感想文
『いやしい鳥』藤野 可織 河出文庫 2018年12月20日初版 ピッピは死んだ。い