『青空と逃げる』(辻村深月)_書評という名の読書感想文
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最終更新日:2024/01/07
『青空と逃げる』(辻村深月), 作家別(た行), 書評(あ行), 辻村深月
『青空と逃げる』辻村 深月 中公文庫 2021年7月25日初版

深夜、夫が交通事故に遭った。病院に駆けつけた早苗と息子の力は、そこで彼が誰の運転する車に乗っていたかを知らされる・・・・・・・。夫は何も語らぬまま、知らぬ間に退院し失踪。残された早苗と力に悪意と追求が押し寄せ、追い詰められた二人は東京を飛び出した。高知、兵庫、大分、仙台 - 。壊れてしまった家族がたどりつく場所は。〈解説〉 早見和真 (中公文庫)
物語は青が鮮やかな高知・四万十川の風景から幕を開ける。夏休み、東京からやって来た一組の親子。十歳になる本条力は小さな舟に乗り、川と同じ青一色の空の下で、地元の人たちのテナガエビ漁をドキドキしながら手伝っている。
一方の母・早苗も、ドライブインの食堂ではつらつと働いている。かつては劇団に所属していて、それを知るお客さんから 「女優さん」 と呼ばれるのは恥ずかしいが、充実した毎日を過ごしている。
明るく、穏やかで、そこだけ切り取ればどこにでもありそうなこの国の夏の景色。しかし、影はすぐそこに迫っていた。早苗の手伝う食堂に、そぐわないジャケット姿の男が現れる。そして、男はこう言うのだ。
「高知には、旦那さんは一緒に来ていないんですか? 」
こうして読者は母と息子の旅の理由を、父親不在のワケを少しずつ知っていくことになる。
くわしくは物語に譲るが、ここから母子のさらなる逃避行が始まる。平穏だった四万十を離れ、向かった先は瀬戸内海に浮かぶ兵庫の家島、湯煙の立ち上る大分・別府、震災の痕跡を色濃く残す宮城・仙台、そしてもう一箇所・・・・・・・。まるでその土地に広がる青い空から逃げるようにして、二人の旅は続いていく。
彼女たちは何から逃げようとしているのか?
旅の終着点はどこなのか?
そんな物語の縦軸を、早苗と力が織りなす横軸が力強く支えている。 (解説より)
書きたかったのはおそらく家族の絆、中でも特に 「母と息子」 の間に限って生じる、微妙な 「距離感」 についてではなかったのかと。
逃避行を重ねることで、母は息子の、息子は母の、それまでとは違う一面を知ることになります。
ただ - 、
それはそれなりに興味深くもありましたが、正直な感想を言いますと、そこまで面白い話だとは思えません。すべてが “そこそこ” で、最後も “そこそこに” 感動して終わります。残念ながら、期待したものとは別ものでした。
但し、高知の四万十川や瀬戸内海に浮かぶ家島や、大分の別府温泉や仙台で、早苗と力がつかの間味わう都会 (東京) にはない景色と市井の人の営みを、如何ばかりか心和む思いで読みました。
特に別府は、私がサラリーマン時代に初めて単身赴任で2年間暮らした場所でしたので、大いに懐かしく、当時を思い出すことがたくさんありました。母子と同じ時間の中にいるような気持ちになりました。
この本を読んでみてください係数 75/100

◆辻村 深月
1980年山梨県笛吹市生まれ。
千葉大学教育学部卒業。
作品 「冷たい校舎の時は止まる」「凍りのくじら」「ツナグ」「太陽の坐る場所」「鍵のない夢を見る」「きのうの影踏み」「ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。」「かがみの孤城」他多数
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