『光まで5分』(桜木紫乃)_書評という名の読書感想文

『光まで5分』桜木 紫乃 光文社文庫 2021年12月20日初版1刷

光まで5分 (光文社文庫)

北海道の東の街から流れ流れて沖縄にやってきたツキヨは、那覇の路地裏にある 「竜宮城」 という店で体を売っていた。奥歯の痛みがきっかけで知り合った元歯科医の万次郎、その同居人のヒロキと意気投合し、タトゥーハウス 「暗い日曜日」 に転がり込んだツキヨに、ふたりを知るらしい南原という男が接触してきて - 。直木賞作家が沖縄を舞台に描く挑戦作!! (光文社文庫)

(以下、引用は全て海原純子氏(心療内科医)の解説から抜粋しています)

読み始めた途端、いきなり別の世界に引き込まれた。湿度を含んだ風、南の島の甘いフルーツの香り、様々な声や音がまじりあって響いてくる。映像が目の前に浮かび、ああ、これが、桜木紫乃の世界だ、と思いながら一気に読み終えたらもう深夜だった。

ツキヨは北海道から沖縄に流れてくる。北海道から東京ではなく、大阪でもなく、沖縄だ。日本の最北端から一番遠い南の島にやってきたのには理由がある。それは、そこが自分を知る人がいない可能性が最も高い土地だからだろう。誰も自分を知らない場所、自分の過去を知る人がいない場所にいるのがどんなにほっとして自由な気分になれるかは幸せな人にはわからない。幸せな人は、人とつながりたいし、自分を知る人がいないことで不安になるものだ。でも自分の過去を消したい人や、自分の役割から逃れたい人、自分を縛るものを捨てたい人は、自分を知る人がいない場所だけが心を休ませてくれることを知っているのだ。その場所だけに自由と解放がある。

さてツキヨは、歯の痛みがもとで自分と同じようにこの世に存在しないことになっている人間に出会うことになる。優秀な歯科医だったが、女関係の失敗て路地裏にある 「暗い日曜日」 に身をひそめ、もぐりの歯科医をしている万次郎と青い目をした美しい青年のヒロキだ。歯の治療で二人と出会い、何かを感じたツキヨは、「竜宮城」 を出て彼らと一緒に暮らすことになる。この三人の暮らしにはおよそ生活感がない。しかしヒロキが拾ってきた子猫を含めたこの暮らしの中で、ツキヨは少しずつ自分をいたわるということやこれまで知ろうともしなかった自分の葛藤に気が付き始めるのだ。

※万次郎とヒロキ、後に登場する南原など、ツキヨに絡む男性の誰もが個性的で興味深く、捨て置けません。彼らに関するあれやこれやをもっと詳しく書いてほしかった。もったいない気がしてなりません。

一方、(肝心要の) ツキヨに関しては -

ツキヨには、心の奧に潜む葛藤がある。愛してほしかった母親への想いと、裏切られたという思いからくる母親への憎しみの葛藤、義理の父親との、ひりひりしたスリルと罪悪感のまじった中で行われた性行為の快感に対する郷愁と罪悪感の葛藤、その義父の自死に対して感情を抑圧したために引き起こされた失感情症のような状態。様々に入りまじったまま抑圧した感情を次第に心の表面にあぶりだしながらツキヨは三人での生活を続けていく。

※とまあ、こんな感じであるわけですが、ここはちょっと意見したいと思います。失礼ながら、

ツキヨの葛藤の、なんとありきたりなことか - と。よく似た小説が山ほどある中で、やっぱりそこなんだと - 。

著者らしい言い回しではありますが、書いてあるのは 「母の子に対する愛情の欠如」 と 「父がするわが娘への淫らな行為」 という、あまりにパターン化された内容です。ここは(せめてもどちらか一方を) 違う話にしてほしかった。

そして、質問です。タイトルの 『光まで5分』 というのは、一体どういう意味なんでしょう? よくわかりません。だれか教えてください。

この本を読んでみてください係数  70/100

光まで5分 (光文社文庫)

◆桜木 紫乃
1965年北海道釧路市生まれ。
高校卒業後裁判所のタイピストとして勤務。

作品 「起終点駅/ターミナル」「凍原」「氷平線」「ラブレス」「ホテルローヤル」「硝子の葦」「星々たち」「ブルース」「霧/ウラル」「砂上」「家族じまい」他多数

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