『犯人は僕だけが知っている』(松村涼哉)_書評という名の読書感想文

『犯人は僕だけが知っている』松村 涼哉 メディアワークス文庫 2021年12月25日初版

犯人は僕だけが知っている (メディアワークス文庫)

謎の連続失踪が殺人を呼ぶ。僕らは誰に殺される?

過疎化する町にある高校の教室で、一人の生徒が消えた。最初は家出と思われたが、失踪者は次々に増え、学校は騒然とする。だけど、僕だけは知っている。姿を消した三人が生きていることを。
それぞれの事情から逃げてきた三人は、僕の部屋でつかの間の休息を得て日常に戻るはずだった。だが、〈四人目〉 の失踪者が死体で発見され、事態は急変する - 僕らは誰かに狙われているのか? 壊れかけた世界で始まる犯人探し。大きなうねりが、後戻りできない僕らをのみこんでゆく。(メディアワークス文庫)

二年A組から生徒が消えた。
一人目が、久米井那由他。
二人目が、渡利幸也。
そして三人目が、田貫凛。

矢萩町立高校連続失踪事件。誰かがそう呼んだ。
三人の失踪の後、今度は古林奏太が死んだ。
クラスメイトたちの混乱をよそに、堀口博樹 - つまり僕は静かに本を読んでいた。

(以下は久米井那由他と堀口博樹の会話/本文より抜粋)

- 『不安定で恐ろしい世界で生き方を見つけていくゲーム
やけに文章的な表現に感じられた。

堀口博樹は不思議な高校生だった。
1LDKで一人暮らしをし、黙々とゲームを作り続ける。自殺願望を持ったクラスメイトを部屋に泊め、ある日もう二名居候を増やした。好んで人付き合いをするタイプではないのに、嫌な顔一つせずに。

「私を初めて家に誘ってくれた時、『不安定な世界』 がどうこうって説得してくれたよね。アレは本か何かの引用? 」

「そうだよ、好きな本からの影響。ジョック・ヤング。『排除型社会』。よく読んでいるんだ」

「一言でいえば、アメリカ社会の変遷が描かれた本だよ。まず昔 - 1960年代くらいかな。この頃の社会は安定していた。同じ商品を皆で作り消費し、男性の正規雇用はほぼ達成され、将来性は約束されていた。良くも悪くも分かりやすい時代だ」

「けどね、ある程度の物資が市民に行き渡ると、社会は変わり始める。まず経済成長がなだらかになり、雇用は柔軟化される。豊かになった社会の人々は、今度は自分らしい生き方を模索するようになる」

「これらの要因が絡まり合った結果、次第に社会は安定を失ったんだ」

「- 例えば、社会に色んな働き方が増えたけど、その中には非正規雇用の人だっている。その人は従来の人々とは全く違う人生プランを計画しなければならない。人々が自分の生き方を定める時代がやってくるんだ」

堀口は、個人主義の到来だ、と補足する。
「これまでの安定した社会は、もう存在しない。代わりに人々は多様な生き方を選べるようになった」

「これもそう悪くない気がするね。生き方なんてそれぞれだもん」
「そうだね、僕たちは皆、一人一人違う。自分に合った生き方を選べばいい。僕たち現代人にとっても馴染みやすい考え方だ。自分の道は自分で決める」

「でも、その発想は - 自分と他人の価値観は本質的に異なるという拒絶でもある

異なる他者を排斥する社会に繋がる」 

堀口博樹はそう言ったのでした。

これがどこにでもある高校の、どこにもいるような高校生二人の会話です。同じクラスの三人の生徒が行方不明になり、同じクラスのリーダー的存在だった男子生徒がある日誰かに殺された - その真相に迫る、精神的根幹を成す場面です。

この本を読んでみてください係数 80/100

犯人は僕だけが知っている (メディアワークス文庫)

◆松村 涼哉
1993年静岡県浜松市生まれ。
名古屋大学卒業。

作品 「ただ、それだけでよかったんです」「15歳のテロリスト」「僕が僕をやめる日」「監獄に生きる君たちへ」他

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