『まつらひ』(村山由佳)_書評という名の読書感想文
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『まつらひ』(村山由佳), 作家別(ま行), 書評(ま行), 村山由佳
『まつらひ』村山 由佳 文春文庫 2022年2月10日第1刷
神々を祭らふ
この夜、踏み外す原始のかけ声、謎を秘めた伝説。今宵、炎が男たちの軀を照らし出す
祭りとエロス 6つの秘密[目次]
「夜明け前」 龍神まつり
「ANNIVERSARY」 ほおずき市
「柔らかな迷路」 白秋祭
「水底の華」 道祖神祭り
「約束の神」 蘇民祭
「分かつまで」 相馬野馬追初恋の相手と結ばれ、レタス農家に嫁いだ舞桜子。夏の龍神まつりが近づくと毎年なぜか、夫と激しくもつれあう艶夢を見るのだったが、4歳の娘の世話と出荷作業に追われる今年、忌まわしい事実が - (「夜明け前」)。原始の炎に誘われるように、秘密は膨らみ、快楽は満ちてゆく。祭と性愛が6つの舞台で響き合う、禁断の作品集。(文春文庫)
夜明け前
艶夢、というのだろうか。
舞桜子は最近、たびたびそういう夢を見る。
*
昼間、炎天下の作業中にうっかり思いだしてしまうと、しゃがんでいる脚の奥がきゅっと収縮し、そのあと、ゆうるり潤む。尿意とはまるで違うのに、追われるようなせわしなさではどこか似通ったその感覚が、尾てい骨のあたりから背筋を這いのぼって舞桜子を急き立てる。唇からこぼれ出る熱い吐息は地面から立ちのぼる熱に紛れて溶けた。ほんとうのことを言えば - ほんとうに包み隠さず正直なところを言えば、もっと本能のままに激しく雅文に抱かれてみたいのだった。夢の中と同じく、牡の器官で荒々しく自分の中をかき回し、言葉の通じないけもののように犯してほしい。懇願など一切聞き入れず、あくまで強引にふるまってほしい。他は何ひとつ申し分ない夫なのだが、セックスの時だけはあの優しさと穏やかさがもどかしい。(本文より)
※小説は6話が6話 “エロい” わけではありません。この 「夜明け前」 以外は案外普通な (他にもよく似た話がありそうな) 作品に思えます。「禁断の作品集」 というのであればそれらしく、徹底してそうであってほしかった。「夜明け前」 のような作品を6つ並べてみせてほしかった。
この本を読んでみてください係数 80/100
◆村山 由佳
1964年東京都生まれ。
立教大学文学部日本文学科卒業。
作品 「いのちのうた」「天使の卵 - エンジェルス・エッグ」「星々の舟」「おいしいコーヒーのいれ方」「放蕩記」他多数
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