『インストール』(綿矢りさ)_書評という名の読書感想文

『インストール』綿矢 りさ 河出書房新社 2001年11月20日初版


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この小説が文藝賞を受賞したときは、それはそれは大騒ぎで、たくさんのニュースになりました。何せ17歳の女子高生の受賞ですから、そりゃ話題にならない方がどうかしています。しかも、ビジュアルがいいとなれば、世間は放っておきません。

当時、私はそれが鼻持ちならなかったのです。世間のチヤホヤぶりが面白くなくて、たかが高校生の小娘が書くものなんぞ読んでなるものか、どうせチャラい小説に違いないとたかを括っていたのです。

お恥ずかしい限りですが、これ、完全に謂れのない嫉妬です。いたく反省するところであります。何の取り柄もない中年オヤジが、年端もいかない少女の才能を認めたくないあまりに、わざと目を背けていただけでした。ホントに、すみません。
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高校3年生の女子・野田朝子(17歳)と小学6年生の男子・青木かずよし(12歳)は、あることをきっかけに、風俗チャットの共同仕掛け人として仕事を始めることになります。

人生に疲れ、受験戦争から離脱した朝子は、現在登校拒否の真っ最中です。心機一転、部屋の物をすべて捨てようと思って持ち出した中に、祖父から貰ったパソコンがあり、その壊れたパソコンを欲しいと言ったのがかずよしでした。

パソコンは、壊れてなどいません。朝子が操作の方法を知らなかっただけで、かずよしはいとも簡単に立ち上げてみせます。彼曰く「インストールし直しただけ」で、古びたパソコンはあっさり起動を始めます。これがもとで、共同作業がスタートします。

かずよしは、かなりマセた小学生です。パソコンの操作は手慣れたもの、いやにクールで、その上メル友が子持ちの主婦ときています。メールをするときのかずよしは、「かなこ」と名乗っています。いわゆる〈ネカマ〉で、女言葉にも精通している恐るべき小学生です。

子持ちの主婦は、〈雅〉と名乗る風俗嬢。元々はかずよしが〈雅〉から勧められたもので、彼女の身代わりとなって、ネット上の顧客とHな会話をすること。それが、2人の仕事です。
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思いもよらぬバイトをしてみないかと言われた時の、朝子の心境。

興味はある、が、私はやはり、自分の若さを気にしていた。女子高生17歳、肉体みずみずしく、良くも悪くもマスコミにもてはやされている旬の時期である。そんな短い青春の時間に何故、学校へ行かず、代わりに何やら不審な子供と手を組んで人妻に化け、軽い売春行為にいそしまなければならないのか。

私はどれだけ眠らなくてもへっちゃらの強い身体と、歴史上に存在する何百人もの偉人達の名をすべて記憶できる新鮮な脳ミソを持っているのだ。それだけの最高素材をこの押し入れの中に閉じ込めてしまうチャット嬢になるという行為は、つまりこれこそ、私が今の大切な時期に最も切り捨てたいと思っていた〈無駄〉である。道の踏み外しである。

朝子は、旬は旬なりの決断を下さねばならないと思います。

と、ここまでが思いっきりの〈前フリ〉で、かずよしが「嫌、ですか?」と伏目がちに訊ねると、彼女はいともすんなり、「やらせていただきます」と答えます。口が勝手にそう動きます。

チャットでの実際のやり取りは、こんな感じです。朝子は朝子ではなく、あくまで〈雅〉として顧客の相手をしています。

のりひろ> 突然やけど聞かせてもらう みやびが一番感じるトコってどこ!?
みやび> あのね、あそこの、でっぱったところ。
のりひろ> クリトリス?
みやび> やあだ
のりひろ> クリトリス

そして、17歳の少女は(死ぬほど恥ずかしい思いを振り切って)正直にこう書きます。

ぬれた。一つHな言葉を書かれるたびに、一つHな言葉を書くたびに、下半身が熱くたぎって崩れ落ちそうになり、パンツが湿った。

会話の内容に感じるというより、自分が今やっていることの不健康さに感じてしまう朝子です。

昼間に、他人の家の押し入れの中で、制服を着たままエロチャットに励む17歳の女子高生と、それを冷静に見守る12歳の小学生。彼らはこの先、どこへ向かって行くのでしょう。参考までに書き添えますが、彼らは不良でも何でもありません。むしろ、その年頃の少年少女のなかでは、かなり聡明で、いたって健全な2人であると言っておきます。

 

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◆綿矢 りさ
1984年京都府京都市左京区生まれ。
早稲田大学教育学部国語国文科卒業。

作品 「夢を与える」「蹴りたい背中」「憤死」「勝手にふるえてろ」「かわいそうだね?」「ひらいて」「しょうがの味は熱い」「大地のゲーム」など

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