『正義の申し子』(染井為人)_書評という名の読書感想文

『正義の申し子』染井 為人 角川文庫 2021年8月25日初版

物語のスピードに振り落とされるな! 告発系ユーチューバーの出来心から燃え広がる路傍のクズたちの大騒動 痛快ノンストップサスペンス

現実では引きこもりながら正義のユーチューバー “ジョン” として活躍する青年・純。悪徳請求業者に電話をかけ、相手をおちょくったところ大好評。キャラの濃い関西弁男を懲らしめた動画は爆発的に再生数を伸ばす。味をしめたジョンは、男とリアルに会って対決し、それも配信しようと画策する。一方、請求業者の鉄平もジョンを捕まえようと動き始めた。2人が顔を合わせた時、半グレや女子高生をも巻き込む大事件に発展する! (角川文庫)

十四時半。そろそろ始めるか。純はひとつ伸びをすると反動をつけてベッドから立ち上がった。そのままデスクトップパソコンの前に陣取り、電源を入れた。次に抽斗からタイガーデザインのマスクを取り出し、前髪を巻き込まないようにしてそれを被った。その上にさらにヘッドマイクを装着する。マウスとキーボードを操り、ユーチューブにログインし、カメラアングルを微調整した。すでにディスプレイにはタイガーマスクを被った勇ましい男の姿が映し出されている。

純はネット世界の表現者だ。俗にいう、ユーチューバーである。ハンドルネームはジョン。顔は公開しておらず、《いい加減顔晒せよカス》 などといった中傷コメントも結構もらう。

「ジョジョジョジョーン。笑いを愛し、笑いに愛された正義の申し子、ジョン様の登場だっ。今日もおまえらにジャスティスなショーをお届けするぜーっ」
純が毎度お決まりの登場文句をハイテンションで口にする。ジョンになっているときは人格が別人のように変わる。人の目を見て話すことにすら難儀する純とはちがい、ジョンはどこまでもハッピーで、ユーモラスで、そして過激な人間だ。(本文P7 ~ 9 抜粋)

さて、そんなユーチューバーのジョンが選んだメール=今回のターゲットはといいますと、

会員番号:M67392様
コスパ総合調査 担当の森口と申します。
この度、マジカルハッピーサイト運営会社様より弊社が依頼を受けまして、お客様にご連絡をさせていただきました。
お客様がご使用中の携帯電話の端末認証記録により、マジカルハッピー着メロ・天気・懸賞・ニュース・ギャンブル・出会い・アダルト動画 等のコンテンツの利用登録があり、登録料等の長期滞納が続いている状態にあると報告を受けております。今後は個体識別番号から追跡し、身元調査を行い、損害賠償等を求める民事裁判 民事訴訟となります。
通信記録という証拠を提出したうえでの裁判であるため、誤っての登録であっても支払い命令が下されます。訴訟差し止め、退会処理希望の方は本日中に大至急ご連絡下さい。

後に続けて、連絡先の電話番号、受付時間等の記載があり、最後にメールでの対応は不可、とあります。

実は 『マジカルハッピー』 というサイトはエロ系の動画サイトで、「コスパ総合調査」 という会社は上記のような架空請求メールをばらまいて金儲けしていることを、ジョンは百も承知で、リアルタイムで徹底的に懲らしめてやろうと考えています。

ジョンは異常なほど正義感が強く、潔癖な人間でした。但し、ただの好青年ではありません。怒らせると冷酷になり、きっちり報復しないと気が済みません。いつの間にか、そんな人格が形成されていました。純はたまに自分は二重人格なのではないかと思うときがあります。この肉体には純とジョンの二人の意識が存在しているのだと。

そんなジョンが狙いを定めたのが、メールにあった担当の森口でした。メールにある番号に電話をかけてわかるのですが、森口はジョンと同じくらいに若そうな男性でした。そして、やがてわかるのですが、本名を栗山鉄平といいます。(この鉄平が実におもしろい)

※物語は、状況を変え、立場を変え、ジョン(または純) と鉄平の尋常ならざるバトルの応酬に終始しますが、最後の最後、二人は思わぬ結末を迎えることになります。私は思うのですが、「痛快ノンストップサスペンス」 というのは誤りで、正しくは 「爆笑ノンストップコメディー」 というべき話だろうと。シリアスとはまるで真逆の作品です。

この本を読んでみてください係数 85/100

◆染井 為人
1983年千葉県生まれ。

作品 2017年、『悪い夏』 で第37回横溝正史ミステリ大賞優秀賞を受賞し、デビュー。他に「正体」「震える天秤」等

関連記事

『素敵な日本人』(東野圭吾)_ステイホームにはちょうどいい

『素敵な日本人』東野 圭吾 光文社文庫 2020年4月20日初版 素敵な日本人 (光文社文庫

記事を読む

『獅子渡り鼻』(小野正嗣)_書評という名の読書感想文

『獅子渡り鼻』小野 正嗣 講談社文庫 2015年7月15日第一刷 獅子渡り鼻 (講談社文庫)

記事を読む

『ふたりぐらし』(桜木紫乃)_書評という名の読書感想文

『ふたりぐらし』桜木 紫乃 新潮文庫 2021年3月1日発行 ふたりぐらし(新潮文庫)

記事を読む

『桜の首飾り』(千早茜)_書評という名の読書感想文

『桜の首飾り』千早 茜 実業之日本社文庫 2015年2月15日初版 桜の首飾り (実業之日本社

記事を読む

『サムのこと 猿に会う』(西加奈子)_書評という名の読書感想文

『サムのこと 猿に会う』西 加奈子 小学館文庫 2020年3月11日初版 サムのこと 猿に会

記事を読む

『三千円の使いかた』(原田ひ香)_書評という名の読書感想文

『三千円の使いかた』原田 ひ香 中公文庫 2021年8月25日初版 三千円の使いかた (中公

記事を読む

『死ねばいいのに』(京極夏彦)_書評という名の読書感想文

『死ねばいいのに』京極 夏彦 講談社 2010年5月15日初版 文庫版 死ねばいいのに (講談

記事を読む

『ゼツメツ少年』(重松清)_書評という名の読書感想文

『ゼツメツ少年』重松 清 新潮文庫 2016年7月1日発行 ゼツメツ少年 (新潮文庫)

記事を読む

『この胸に突き刺さる矢を抜け』(白石一文)_書評という名の読書感想文

『この胸に突き刺さる矢を抜け』 白石 一文 講談社 2009年1月26日第一刷 上下 各@1,600

記事を読む

『ざんねんなスパイ』(一條次郎)_書評という名の読書感想文

『ざんねんなスパイ』一條 次郎 新潮文庫 2021年8月1日発行 ざんねんなスパイ(新潮文庫

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。

『姑の遺品整理は、迷惑です』(垣谷美雨)_書評という名の読書感想文

『姑の遺品整理は、迷惑です』垣谷 美雨 双葉文庫 2022年4月17

『夕映え天使』(浅田次郎)_書評という名の読書感想文

『夕映え天使』浅田 次郎 新潮文庫 2021年12月25日20刷

『向日葵の咲かない夏』(道尾秀介)_書評という名の読書感想文

『向日葵の咲かない夏』道尾 秀介 新潮文庫 2019年4月30日59

『ミシンと金魚』(永井みみ)_書評という名の読書感想文

『ミシンと金魚』永井 みみ 集英社 2022年4月6日第4刷発行

『夏の陰』(岩井圭也)_書評という名の読書感想文

『夏の陰』岩井 圭也 角川文庫 2022年4月25日初版

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑