『向日葵の咲かない夏』(道尾秀介)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/06 『向日葵の咲かない夏』(道尾秀介), 作家別(ま行), 書評(は行), 道尾秀介

『向日葵の咲かない夏』道尾 秀介 新潮文庫 2019年4月30日59刷

直木賞作家最大のベストセラー 100万部突破! その実力を存分に感じて下さい!

夏休みを迎える終業式の日。先生に頼まれ、欠席した級友の家を訪れた。きい、きい。妙な音が聞こえる。S君は首を吊って死んでいた。だがその衝撃もつかの間、彼の死体は忽然と消えてしまう。一週間後、S君はあるものに姿を変えて現れた。「僕は殺されたんだ」 と訴えながら。僕は妹のミカと、彼の無念を晴らすため、事件を追いはじめた。あなたの目の前に広がる、もう一つの夏休み。(新潮文庫)

昔、単行本で読んだことがあります。今回、改めて読んでみました。

『向日葵の咲かない夏』(2005年11月、新潮社から書き下ろしで刊行) は、第5回ホラーサスペンス大賞特別賞受賞作 『背の眼』 に続く、道尾秀介の第二長篇である。
(中略)
その彼が、読書界から大きな注目を集めるようになった出世作が本書である。不条理な出来事が連続する幻想小説のようでいて、一種のサイコ・サスペンスであり、最後にはすべての謎が解ける本格ミステリに着地するが、そのすべての読み方を許容する多面性がある(トマス・トライオンや竹本健治や綾辻行人の衣鉢を継ぐアンファン・テリブル小説としても高く評価し得るだろう)。
※衣鉢を継ぐ:先人の残したものを受け継ぐこと。
※アンファン・テリブル小説:「アンファン・テリブル」 とは 「恐るべき子供」 の意。

主人公のミチオ(僕) は、両親や妹のミカと暮らす小学4年生。彼が住むN町では、犬や猫を殺して足を折り、口に石鹸を押し込むという忌まわしい事件が頻発している。

明日から夏休みが始まる日、ミチオは担任の岩村先生から宿題とプリントを届けるよう頼まれて、欠席したクラスメートS君の家を訪れる。そこでミチオが見たものは、首を吊って死んでいるS君の死体。ところが、学校から岩村先生が警察と一緒に駆けつけてみると、死体はいつの間にか消え失せていた。

やがてミチオの前に、S君の生まれ変わりだという蜘蛛が現れ、「自殺なんてするもんか。僕は殺されたんだ」 と主張し、犯人の名を告げる。自分の死体を見つけてほしいというS君の訴えによって、ミチオとミカは真相を探り始める・・・・・・・。

よくあるミステリーだと思いきや、さにあらず。死んだはずのS君は、蜘蛛に生まれ変わり、再びミチオの前に現れます。口を利き、ミチオに 「僕の死体を見つけてほしい」 と訴えます。その一連の出来事をミチオは 「さほど不自然に感じていない」 ところが不思議で、一人と一匹は、まるで何事もなかったふうに過ごします。そして、死んだ級友の無念を晴らすため、ミチオは妹のミカと二人で事件の捜査に乗り出すのでした。

S君の死、死体消失、そして動物殺し・・・・・・・といった数々の謎をめぐって推理が繰り広げられる物語だとはいえ、真の謎の在り処は終盤まで隠されており、それに伴う多くの情報が読者には伏せられている。従って読者の脳裏には、読み進めるうちにさまざまな疑問が湧いてくるだろう。

例えば、生まれ変わりという現象を、幾人もの登場人物がさほど違和感もなく受け入れているのは何故か。妹のミカが、三歳のわりに言動がいやに大人びているのは不自然ではないのか。母親がミチオを嫌い、ミカを偏愛する理由は何か。そんな横暴な母親に対し、父親が余りにも無力なのはどうしてか。不思議な力を持っているらしいトコお婆さんとは何者なのか。ミチオの一人称のパートと併行して語られる三人称のパートに登場する、古瀬泰造という老人は何を知っているのか・・・・・・・。

これらの違和感を、フェアとアンフェアの境界線を綱渡りするような大仕掛けで一気に解消するところが、本書の最大の読みどころと言えるだろう。(以下略/解説より)

※死者の身代わりに現れるのは、何も蜘蛛に限ったことではありません。小学4年生のミチオは利発で礼儀正しい少年ですが、但し、それだけではありません。

この本を読んでみてください係数 85/100

◆道尾 秀介
1975年兵庫県芦屋市生まれ。
玉川大学農学部卒業。

作品 「手首から先」「背の眼」「月と蟹」「カラスの親指」「龍神の雨」「光媒の花」「カエルの小指」他多数

関連記事

『百花』(川村元気)_書評という名の読書感想文

『百花』川村 元気 文藝春秋 2019年5月15日第1刷 「あなたは誰? 」 息子を

記事を読む

『イヤミス短篇集』(真梨幸子)_書評という名の読書感想文

『イヤミス短篇集』真梨 幸子 講談社文庫 2016年11月15日第一刷 小学生の頃のクラスメイトか

記事を読む

『高校入試』(湊かなえ)_書評という名の読書感想文

『高校入試』湊 かなえ 角川文庫 2016年3月10日初版 県下有数の公立進学校・橘第一高校の

記事を読む

『物語のおわり』(湊かなえ)_書評という名の読書感想文

『物語のおわり』湊 かなえ 朝日文庫 2018年1月30日第一刷 妊娠三ヶ月で癌が発覚した女性、父親

記事を読む

『人のセックスを笑うな』(山崎ナオコーラ)_書評という名の読書感想文

『人のセックスを笑うな』山崎 ナオコーラ 河出書房新社 2004年11月30日初版 彼女が2

記事を読む

『ふくわらい』(西加奈子)_書評という名の読書感想文

『ふくわらい』西 加奈子 朝日文庫 2015年9月30日第一刷 マルキ・ド・サドをもじって名づ

記事を読む

『晩夏光』(池田久輝)_書評という名の読書感想文

『晩夏光』池田 久輝 ハルキ文庫 2018年7月18日第一刷 香港。この地には、観光客を標的に窃盗

記事を読む

『カンガルー日和』(村上春樹)_書評という名の読書感想文

『カンガルー日和』村上 春樹 平凡社 1983年9月9日初版 村上春樹が好きである。 私が持っ

記事を読む

『墓標なき街』(逢坂剛)_書評という名の読書感想文

『墓標なき街』逢坂 剛 集英社文庫 2018年2月25日初版 知る人ぞ知る、あの <百舌シ

記事を読む

『村上龍映画小説集』(村上龍)_書評という名の読書感想文

『村上龍映画小説集』村上 龍 講談社 1995年6月30日第一刷 この小説は『69 sixt

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『血腐れ』(矢樹純)_書評という名の読書感想文

『血腐れ』矢樹 純 新潮文庫 2024年11月1日 発行 戦慄

『チェレンコフの眠り』(一條次郎)_書評という名の読書感想文

『チェレンコフの眠り』一條 次郎 新潮文庫 2024年11月1日 発

『ハング 〈ジウ〉サーガ5 』(誉田哲也)_書評という名の読書感想文

『ハング 〈ジウ〉サーガ5 』誉田 哲也 中公文庫 2024年10月

『Phantom/ファントム』(羽田圭介)_書評という名の読書感想文 

『Phantom/ファントム』羽田 圭介 文春文庫 2024年9月1

『夜中に台所でぼくはきみに話しかけたかった』(谷川俊太郎)_書評という名の読書感想文 (再録)

『夜中に台所でぼくはきみに話しかけたかった』谷川 俊太郎 青土社 1

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑