『向日葵の咲かない夏』(道尾秀介)_書評という名の読書感想文

『向日葵の咲かない夏』道尾 秀介 新潮文庫 2019年4月30日59刷

直木賞作家最大のベストセラー 100万部突破! その実力を存分に感じて下さい!

夏休みを迎える終業式の日。先生に頼まれ、欠席した級友の家を訪れた。きい、きい。妙な音が聞こえる。S君は首を吊って死んでいた。だがその衝撃もつかの間、彼の死体は忽然と消えてしまう。一週間後、S君はあるものに姿を変えて現れた。「僕は殺されたんだ」 と訴えながら。僕は妹のミカと、彼の無念を晴らすため、事件を追いはじめた。あなたの目の前に広がる、もう一つの夏休み。(新潮文庫)

昔、単行本で読んだことがあります。今回、改めて読んでみました。

『向日葵の咲かない夏』(2005年11月、新潮社から書き下ろしで刊行) は、第5回ホラーサスペンス大賞特別賞受賞作 『背の眼』 に続く、道尾秀介の第二長篇である。
(中略)
その彼が、読書界から大きな注目を集めるようになった出世作が本書である。不条理な出来事が連続する幻想小説のようでいて、一種のサイコ・サスペンスであり、最後にはすべての謎が解ける本格ミステリに着地するが、そのすべての読み方を許容する多面性がある(トマス・トライオンや竹本健治や綾辻行人の衣鉢を継ぐアンファン・テリブル小説としても高く評価し得るだろう)。
※衣鉢を継ぐ:先人の残したものを受け継ぐこと。
※アンファン・テリブル小説:「アンファン・テリブル」 とは 「恐るべき子供」 の意。

主人公のミチオ(僕) は、両親や妹のミカと暮らす小学4年生。彼が住むN町では、犬や猫を殺して足を折り、口に石鹸を押し込むという忌まわしい事件が頻発している。

明日から夏休みが始まる日、ミチオは担任の岩村先生から宿題とプリントを届けるよう頼まれて、欠席したクラスメートS君の家を訪れる。そこでミチオが見たものは、首を吊って死んでいるS君の死体。ところが、学校から岩村先生が警察と一緒に駆けつけてみると、死体はいつの間にか消え失せていた。

やがてミチオの前に、S君の生まれ変わりだという蜘蛛が現れ、「自殺なんてするもんか。僕は殺されたんだ」 と主張し、犯人の名を告げる。自分の死体を見つけてほしいというS君の訴えによって、ミチオとミカは真相を探り始める・・・・・・・。

よくあるミステリーだと思いきや、さにあらず。死んだはずのS君は、蜘蛛に生まれ変わり、再びミチオの前に現れます。口を利き、ミチオに 「僕の死体を見つけてほしい」 と訴えます。その一連の出来事をミチオは 「さほど不自然に感じていない」 ところが不思議で、一人と一匹は、まるで何事もなかったふうに過ごします。そして、死んだ級友の無念を晴らすため、ミチオは妹のミカと二人で事件の捜査に乗り出すのでした。

S君の死、死体消失、そして動物殺し・・・・・・・といった数々の謎をめぐって推理が繰り広げられる物語だとはいえ、真の謎の在り処は終盤まで隠されており、それに伴う多くの情報が読者には伏せられている。従って読者の脳裏には、読み進めるうちにさまざまな疑問が湧いてくるだろう。

例えば、生まれ変わりという現象を、幾人もの登場人物がさほど違和感もなく受け入れているのは何故か。妹のミカが、三歳のわりに言動がいやに大人びているのは不自然ではないのか。母親がミチオを嫌い、ミカを偏愛する理由は何か。そんな横暴な母親に対し、父親が余りにも無力なのはどうしてか。不思議な力を持っているらしいトコお婆さんとは何者なのか。ミチオの一人称のパートと併行して語られる三人称のパートに登場する、古瀬泰造という老人は何を知っているのか・・・・・・・。

これらの違和感を、フェアとアンフェアの境界線を綱渡りするような大仕掛けで一気に解消するところが、本書の最大の読みどころと言えるだろう。(以下略/解説より)

※死者の身代わりに現れるのは、何も蜘蛛に限ったことではありません。小学4年生のミチオは利発で礼儀正しい少年ですが、但し、それだけではありません。

この本を読んでみてください係数 85/100

◆道尾 秀介
1975年兵庫県芦屋市生まれ。
玉川大学農学部卒業。

作品 「手首から先」「背の眼」「月と蟹」「カラスの親指」「龍神の雨」「光媒の花」「カエルの小指」他多数

関連記事

『6月31日の同窓会』(真梨幸子)_書評という名の読書感想文

『6月31日の同窓会』真梨 幸子 実業之日本社文庫 2019年2月15日初版 6月31日の同

記事を読む

『ふたりの距離の概算』(米澤穂信)_書評という名の読書感想文

『ふたりの距離の概算』米澤 穂信 角川文庫 2012年6月25日初版 ふたりの距離の概算 (角

記事を読む

『恋する寄生虫』(三秋縋)_書評という名の読書感想文

『恋する寄生虫』三秋 縋 メディアワークス文庫 2021年10月25日27版発行 恋する寄生

記事を読む

『ふたりぐらし』(桜木紫乃)_書評という名の読書感想文

『ふたりぐらし』桜木 紫乃 新潮文庫 2021年3月1日発行 ふたりぐらし(新潮文庫)

記事を読む

『ヒポクラテスの試練』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『ヒポクラテスの試練』中山 七里 祥伝社文庫 2021年12月20日初版第1刷 ヒポクラテス

記事を読む

『陽だまりの彼女』(越谷オサム)_書評という名の読書感想文

『陽だまりの彼女』越谷 オサム 新潮文庫 2011年6月1日発行 陽だまりの彼女 (新潮文庫)

記事を読む

『青が破れる』(町屋良平)_書評という名の読書感想文

『青が破れる』町屋 良平 河出書房新社 2016年11月30日初版 青が破れる この冬、彼女

記事を読む

『自分を好きになる方法』(本谷有希子)_書評という名の読書感想文

『自分を好きになる方法』本谷 有希子 講談社文庫 2016年6月15日第一刷 自分を好きになる

記事を読む

『坊さんのくるぶし/鎌倉三光寺の諸行無常な日常』(成田名璃子)_書評という名の読書感想文

『坊さんのくるぶし/鎌倉三光寺の諸行無常な日常』成田 名璃子 幻冬舎文庫 2019年2月10日初版

記事を読む

『犯罪小説集』(吉田修一)_書評という名の読書感想文

『犯罪小説集』吉田 修一 角川文庫 2018年11月25日初版 犯罪小説集 (角川文庫)

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『中尉』(古処誠二)_書評という名の読書感想文

『中尉』古処 誠二 角川文庫 2017年7月25日初版発行

『犬のかたちをしているもの』(高瀬隼子)_書評という名の読書感想文

『犬のかたちをしているもの』高瀬 隼子 集英社文庫 2022年9月1

『殺人者』(望月諒子)_書評という名の読書感想文

『殺人者』望月 諒子 新潮文庫 2022年11月1日発行

『緑の我が家』(小野不由美)_書評という名の読書感想文

『緑の我が家』小野 不由美 角川文庫 2022年10月25日初版発行

『あなたの涙は蜜の味|イヤミス傑作選』(宮部みゆき 辻村深月他)_書評という名の読書感想文

『あなたの涙は蜜の味|イヤミス傑作選』宮部みゆき 辻村深月他 PHP

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑