『あなたが私を竹槍で突き殺す前に』(李龍徳)_書評という名の読書感想文

『あなたが私を竹槍で突き殺す前に』李 龍徳 河出書房 2022年3月20日初版

日本初の “嫌韓” 女性総理が誕生し、韓国人街でのヘイトクライムが激化していく近未来の日本で、一人の若者が立ち上がる。彼と六人の仲間たちが画策する、禁断の 「反攻」 とは? ページをめくる手が思わず震える、怒りと悲しみの青春群像。第42回野間文芸新人賞受賞作。◎解説=保坂和志 (河出書房)

更に詳しく言うと、時の日本の状況は以下のようなものでした。

排外主義者たちの夢は叶った。
特別永住者の制度は廃止された。外国人への生活保護給付が明確に違法となった。公的文書での通名使用は禁止となった。ヘイトスピーチ解消法もまた廃され、高等学校の教科書からも 「従軍慰安婦」 や 「強制連行」 や 「関東大震災朝鮮人虐殺事件」 などの記述が消えた。パチンコ店は風営法改正により、韓国料理屋や韓国食品店などは連日続く嫌がらせにより、多くが廃業に追い込まれた。両国の駐在大使がそれぞれ召喚されてから現在に至る。世論調査によると、韓国に悪感情を持つ日本国民は九割に近い。(本文より)

主人公・柏木太一 (在日韓国人の父と日本人の母を持つ。日本国籍。「青年会」 の元メンバー) は、ある計画のために行動しています。近未来の、在日韓国人が著しく生き辛くなった日本で、その生存権を懸け、ある事を成そうとしています。この小説は、太一を主軸に、彼と思いを同じくする若者たちの、覚悟に至る日々の物語です。

解説の冒頭、保坂氏はこんなことを述べています。

運命的とまで言ったら大げさだが、人には巡り合わせというのがあるもので、私は李龍徳さんのデビュー作となった 『死にたくなったら電話して』 の文藝賞の選考委員であり、この 『あなたが私を竹槍で突き殺す前に』 の野間文芸新人賞の選考委員でもあった。どちらもものすごく脂ぎった小説で読むのは何日もかかると覚悟して読み出したんだが百ページもいかないうちに私は激しく引き込まれて二作ともほぼ一日以内に読了した。しかしそのあとドッと疲れて二、三日は他の候補作を読む気力がなくなり、読み出しても李さんの、体の奥から力を絞り出す真剣さに比べると小手先で通りいっぺんで読む気が起きてこないで苦労した。(以下略)

それほどに著者が書くものは、(特にその熱量において) 別格だということです。ゆえに、生半可な気持ちでは読み出すことができません。何がしかの覚悟が必要です。

読むと、(保坂氏の言う通り) 他の作家のたいていの小説が 「小手先で通りいっぺん」 に感じられて、しばらくは読む気になれません。その気になるには、相応に時間が掛かります。

この本を読んでみてください係数 80/100

◆李龍徳(イ・ヨンドク)
1976年埼玉県生まれ。
早稲田大学第一文学部卒業。在日韓国人三世。

作品 「死にたくなったら電話して」「報われない人間は永遠に報われない」「愛すること、理解すること、愛されること」「石を黙らせて」など

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