『震える天秤』(染井為人)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/06 『震える天秤』(染井為人), 作家別(さ行), 書評(は行), 染井為人

『震える天秤』染井 為人 角川文庫 2022年8月25日初版発行

10万部突破悪い夏の著者が仕掛ける、新時代の社会派ミステリ! 読者メーター 読みたい本ランキング第1位

高齢男性の運転する軽トラックがコンビニに突っ込み、店員を轢き殺す大事件が発生。アクセルとブレーキを踏み違えたという加害者の老人は認知症を疑われている。事故を取材するライターの俊藤律は、加害者が住んでいた奇妙な風習の残る村・埜ヶ谷村を訪ねるが・・・・・・・。「この村はおかしい。皆で何かを隠している」。関係者や村の過去を探る取材の末に、律は衝撃の真相に辿り着く - 。横溝賞出身作家が放つ迫真の社会派ミステリ。(角川文庫)

主人公は、37歳のフリージャーナリスト・俊藤律。彼は隔週誌の編集長から、福井県で起きた交通事故について取材依頼を受ける。落井正三という86歳の老人が車を運転中にコンビニエンスストアに突っ込み、店長の石橋昇流を死亡させたという事故だ。

現地に到着した律は、昇流の父親で事故現場となったコンビニのオーナーの石橋宏、コンビニ本社の店舗担当SVの酒井康介、コンビニ店員の須田由美子ら関係者に取材する。

宏は事故による金銭的損害ばかり気にしており、とても父親の態度とは思えない。おまけに、律の記事の方向性にまで勝手に口を出し、誓約書を交わすことすら要求してくる。また、関係者への取材を重ねるうちに、昇流は店長としての働きぶりが極めてルーズで、人柄も褒められたものではなかったという事実が浮かび上がってきた。

当初、律は編集長の指示通り、高齢者の運転問題という方向性で取材を進めようとする。この観点からまとめるのであれば、被害者がどのような人物であろうと、記事の方向性に何か影響があるわけではない。しかし、関係者から話を聞くにつれて、コンビニの補償問題、被害者や遺族の裏の顔といった、記事の題材として興味深そうな話題が次々と現れる。そして、加害者である落井正三について調べるうちに、律の中で疑念が濃くなってゆく。

落井は、半年ほど前に山崩れの被害に遭い、間もなく廃村が決定している埜ヶ谷村の出身である。その埜ヶ谷村を訪れた律は、村長の國木田保仁、村役場職員の岩本和夫らに取材するが、彼らは落井が認知症だということを強調し、その点に律が疑問を投げかけた途端、不自然なほど過剰な反応を見せる。

果たして、この事故は見かけ通りのものなのか。そして、埜ヶ谷村の閉鎖的な風土は真相と関係しているのだろうか・・・・・・・。(以上解説より抜粋)

律は、8年前のある事件について、自分がした取材とその結果招いた悲劇の結末を、今も忘れることができません。そんな彼が今回取材の果てに行き着いたのは 「ジャーナリストとしての義務と、人間としての良心を載せた天秤をどちらに傾けるのが正しいか」 という、彼にとってある種究極の問いでした。律は激しく動揺し、繰り返し煩悶します。

※わざわざ 「横溝賞出身作家が放つ迫真の社会派ミステリ」 とあるのは、閉ざされた集落故の、限りなく濃密な人と人との関係を言いたかったのでしょう。なるほどそれらしくはありますが、やや誇張し過ぎの感が否めません。

この本を読んでみてください係数 80/100

◆染井 為人
1983年千葉県生まれ。

作品 2017年、『悪い夏』 で第37回横溝正史ミステリ大賞優秀賞を受賞し、デビュー。他に「正体」「正義の申し子」等

関連記事

『骨を彩る』(彩瀬まる)_書評という名の読書感想文

『骨を彩る』彩瀬 まる 幻冬舎文庫 2017年2月10日初版 十年前に妻を失うも、最近心揺れる女性

記事を読む

『不愉快な本の続編』(絲山秋子)_書評という名の読書感想文

『不愉快な本の続編』絲山 秋子 新潮文庫 2015年6月1日発行 性懲りもなくまたややこしい

記事を読む

『鎮魂』(染井為人)_書評という名の読書感想文

『鎮魂』染井 為人 双葉文庫 2024年5月18日 初版第1刷発行 半グレ連続殺人

記事を読む

『プロジェクト・インソムニア』(結城真一郎)_書評という名の読書感想文

『プロジェクト・インソムニア』結城 真一郎 新潮文庫 2023年2月1日発行 「♯

記事を読む

『個人教授』(佐藤正午)_書評という名の読書感想文

『個人教授』佐藤 正午 角川文庫 2014年3月25日初版 桜の花が咲くころ、休職中の新聞記者であ

記事を読む

『歪んだ波紋』(塩田武士)_書評という名の読書感想文

『歪んだ波紋』塩田 武士 講談社文庫 2021年11月16日第1刷 マスコミの 「

記事を読む

『さよならドビュッシー』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『さよならドビュッシー』中山 七里 宝島社 2011年1月26日第一刷 ピアニストからも絶賛!

記事を読む

『新装版 人殺し』(明野照葉)_書評という名の読書感想文

『新装版 人殺し』明野 照葉 ハルキ文庫 2021年8月18日新装版第1刷 本郷に

記事を読む

『夜はおしまい』(島本理生)_書評という名の読書感想文

『夜はおしまい』島本 理生 講談社文庫 2022年3月15日第1刷 誰か、私を遠く

記事を読む

『生きるとか死ぬとか父親とか』(ジェーン・スー)_書評という名の読書感想文

『生きるとか死ぬとか父親とか』ジェーン・スー 新潮文庫 2021年3月1日発行 母

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『時穴みみか』(藤野千夜)_書評という名の読書感想文

『時穴みみか』藤野 千夜 双葉文庫 2024年3月16日 第1刷発行

『作家刑事毒島の嘲笑』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『作家刑事毒島の嘲笑』中山 七里 幻冬舎文庫 2024年9月5日 初

『バリ山行』(松永K三蔵)_書評という名の読書感想文

『バリ山行』松永K三蔵 講談社 2024年7月25日 第1刷発行

『少女葬』(櫛木理宇)_書評という名の読書感想文

『少女葬』櫛木 理宇 新潮文庫 2024年2月20日 2刷

『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』(麻布競馬場)_書評という名の読書感想文

『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』麻布競馬場 集英社文庫 2

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑