『とんこつQ&A』(今村夏子)_書評という名の読書感想文

『とんこつQ&A』今村 夏子 講談社 2022年7月19日第1刷

真っ直ぐだから怖い、純粋だから切ない。
あの人のこと、笑えますか。

大将とぼっちゃんが切り盛りする中華料理店とんこつで働き始めた 「わたし」。「いらっしゃいませ」 を言えるようになり、居場所を見つけたはずだった。あの女が新たに雇われるまでは - 。「とんこつQ&A」

姉の同級生には、とんでもない嘘つき少年がいた。父いわく、そういう奴はそのうち消えていなくなってしまうらしいが・・・・・・「嘘の道」

普通の可笑しみから、私たちの真の姿と世界の深淵が顔を出す。人間の取り返しのつかない刹那を描いた4篇を収録 待望の最新作品集! (講談社)

(以下は、「人間の厄介さに心はざわついて」 と題して2022年8月27日付の朝日新聞に掲載された、トミヤマユキコ氏の書評からの抜粋です)

表題作とんこつQ&A の舞台は、とんこつという名の中華料理店。そこで働く今川さんは、接客が得意じゃない。いらっしゃいませすら満足に言えないときている。だが、あらかじめ書いておいた文章を読み上げることはできると気づき、Q&A方式で店のことをメモするように。大将とぼっちゃんの優しさに支えられながら、彼女は少しずつ店に馴染んでいく。

ここまでは不器用な女性の成長譚なのだが、丘崎さんという新人が入ったことで、雲行きが怪しくなってくる。自分以上に仕事のできない丘崎さんのためにQ&Aが書かれるようになり、やがてそれは、大将親子と丘崎さんを仲よし3人家族に仕立て上げるような内容へと変化していくのだ。

Q.ボクのこと、好き? 』 『A.好きやで、大好きや』・・・・・・・ いやもう、飲食店の業務と関係ないじゃん。おかしいだろ。外野の人間はそう思うだろう。しかし彼らの中では、今川さんの台本なしにとんこつの存続はあり得ないというところまで来ているのだった。謎の共依存はいつまで続くのか。破綻するとしたらどんな風に。地獄とまでは言えないまでも、明らかに不穏な状況であるざわざわ

表題作に限ったことではありません。続く3篇 「嘘の道」 「良夫婦」 「冷たい大根の煮物」 もすべてそうなのですが、日常で起こる些細な出来事で、当事者たちは至って真面目なのですが、彼らのすること思うことは “普通” と 「どこか、何か」 が違っています。

言い方を変えれば、彼らの “普通” は、(少なくとも) 私が思う “普通” ではありません。事の善し悪しは別にして、私ならそうはしません。登場人物たちは、なぜ “そっち” へ行ってしまうのでしょう。

この本を読んでみてください係数  85/100

◆今村 夏子
1980年広島県広島市生まれ。

作品 「こちらあみ子」「あひる」「星の子」「父と私の桜尾通り商店街」「むらさきのスカートの女」「木になった亜沙」等

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