『首里の馬』(高山羽根子)_書評という名の読書感想文
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最終更新日:2024/01/06
『首里の馬』(高山羽根子), 作家別(た行), 書評(さ行), 高山羽根子
『首里の馬』高山 羽根子 新潮文庫 2023年1月1日発行

第163回芥川賞受賞作 沖縄の記録と、孤独な人々の記憶をクイズがつなぐ感動作
問読者 (トイヨミ)- それが未名子の仕事だ。沖縄の古びた小さな郷土資料館で資料整理を手伝う傍ら、世界の果ての孤独な業務従事者に向けてオンラインで問題を読み上げる。未名子は、この仕事が好きだった。台風の夜に、迷い込んだ宮古馬 (ナークー)。ひとりきりの宇宙ステーション、極地の深海、紛争地のシェルター。孤独な人々の記憶と、この島の記録が、クイズを通してつながってゆく。絶賛を浴びた芥川賞受賞作。(新潮文庫)
古いPCの画面越しに見えるのは、たとえば宇宙ステーションや南極の深海、戦争地帯のシェルターにいる人々でした。彼らは (好むと好まざるとにかかわらず) 等しく一人孤独で、未名子からの連絡を心待ちにしています。彼女が出すクイズに答えると、あとは少しの間他愛もない話をしたりします。それが未名子の仕事で、そんな “あやしげな” 仕事をしている、未名子もまた孤独でした。
舞台は沖縄。小説の主人公は、二十代半ばのひとり暮らしの女性、未名子。県外出身の民俗学者・順 (より) さんが、浦添市の湊川外人住宅街の一角に構えた 『沖縄及島嶼資料館』 に中学生時分から入り浸り、資料整理の手伝いをしている。もっとも、なんの公的補助も入場料収入もない私設の資料館なので、未名子の手伝いは無報酬のボランティア。そのため、電話オペレーターの仕事で生計を立てていたが、業務の縮小で職を失う。かわりに応募して採用された新しい職は、『孤独な業務従事者への定期的な通信による精神的ケアと知性の共有』。マンションの一室で古ぼけたパソコンと向き合い、どこのだれとも知れない (そのほとんどが日本語を母語としない) 相手に、一対一でクイズをリモート出題するという、なんとも謎めいた仕事だった・・・・・・・。
未名子には家族もなく、友だちらしい友だちもいない。実社会とはほとんど関らず、超然かつ淡々と暮らしている。いまの世の中の基準からするとおそらく変わり者の部類だが、作中では誰もそれを指摘することがなく、未名子はむしろ、すこぶるまっとうに、誠実に生きているように見える。
上司のカンベ主任は、クイズの出題の仕事が未名子にたいへん向いていると言い、その理由について、〈様子のおかしいことを、きちんとおかしいと判断しながら、それでもしっかり受け止めて恐れない人だと思えるからですかね〉 と説明する。様子がおかしいことは作中人物もしっかり自覚しているわけだが、未名子はそのおかしな仕事とまっすぐに向き合っている。(解説より)
〈きわめて 「馬鹿々々しい」 発想の小説だが、この 「馬鹿々々しさ」 は小説という物語形式の本質的魅力に触れているめざましい達成だと思う。(中略) 非日常のSF的世界と、沖縄というフォークロア空間との間の絶妙な釣り合い。奇抜なユーモアに満ちた思考実験として第一級の作品と思う〉 と松浦寿輝氏は選評で絶賛し、「ずば抜けて面白い」 と述べています。
さあ、読んでみて皆さんはどんな感想を抱くのでしょう。私は松浦氏ほどには面白く感じることができませんでした。知性と教養が圧倒的に不足しているのだと思います。
この本を読んでみてください係数 80/100

◆高山 羽根子
1975年富山県富山市生まれ。
多摩美術大学美術学部絵画学科卒業。
作品 「うどん キツネつきの」「太陽の側の島」「オブジェクタム」「居た場所」「カム・ギャザー・ラウンド・ピープル」「如何様」「暗闇にレンズ」など
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